第5話 竜の言い分
「まだ上るのか? というか、昇降機は無いのか?」
塔の階段を半分くらいまで上ったところで、パルミラがうんざりしたように声をかけてきた。
「大丈夫だ。今まで上ってきた分と同じだけ階段を上れば着くさ」
振り返ってそう答えると、彼女は大きくため息をついた。
「休憩するか?」
尋ねると、彼女は馬鹿にするな、とでもいうように首を振った。それなら、と俺はまた階段に足を掛ける。
アルガルベがよくこの塔にいるのは日当たりが良いのもあるが、黙って巡回している見張りの兵士以外に誰もいないから、というのが大きい。この階段のお陰で、うるさい人間は滅多に上がって来ない。
だけど、今日は違った。
「アルガルベ様! よりによって魔石鉱山を賭けてユアンに戦わせるなんて!」
塔の屋上へと出る扉の向こうから、そんな抗議の声が聞こえてきた。この声はフェーバス執政官だ。市民に選ばれた、この国の人間側の最高権力者。とはいえそれも、竜に命令されれば否とは言えない、ただの奴隷頭に過ぎない。
「だが、そうせなんだらヒュミリスは魔石鉱山ほしさに戦争を仕掛けてきただろう? あれはうるさいから嫌だ。食物も減るし」
「戦争となれば国民は戦いますし、それで負けたなら諦めもつきましょう。ですが勝手に賭け試合などして、負けて奪われれば誰も納得致しません」
「だがユアンは勝つし、実際勝った」
アルガルベが憮然とした声で答えた。
「おいユアン、どうした? 何で立ち止まっている?」
追いついてきたパルミラが、少し息を弾ませながら怪訝な顔で尋ねる。
「話し中なんだよ。しかも、ちょっと気まずいやつだ」
「私たちだって話があるし、呼んでいたのはあいつの方だ」
パルミラはそう言って、構わず扉を開けようとする。俺はそれを引き留めた。パルミラはムッとした顔だったが、俺の無言の圧力に諦めて待つことにしてくれたようだ。
「奴がどんなに強かろうと、勝負に絶対はありません。今回は偶々勝てたから良かったものの、そうでなければ我が国には大きな損失です。それに、折角勝ったというのになんです、報酬は女だなんて!」
「丁度良い報酬じゃないか。戦ったユアンの望みだし。ヒュミリスから何か大きなものを奪うと、また取り返そうと戦争になるし」
「それは、そうですが……」
「……もういいか、執政官殿? 大事な来客だ」
俺たちがここにいることは気づかれていたらしい。気まずいが、ここは出て行くより仕方ない。
「ユアン、アルガルベ様に気に入られているからと言って、あまり調子に乗るなよ。それがその女か。全く、お前の色欲のせいでとんだ損失だ」
すれ違い際、トン、とフェーバス執政官に肩を掴まれ睨まれた。
色欲ってなんだ。俺にはそんな気は毛頭ないのに。アルガルベの変な勘違いのせいで俺に対する執政官の心証が最悪になったじゃないか。抗議したいが、執政官にもアルガルベにも何も言えなかった。
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