第2話 賭け試合とささやかな反抗

 開始の声がかかるや、女がすかさず銃を撃つ。光弾が俺を襲う。俺はそれを防ぐべく、シールドを構えたのだが。


「何っ……⁉」


 トライアンフ王国の制式銃だと思っていたが、どうやら改造が施されているらしい。想定していたより高い威力だ。シールドで威力を殺しきれずに、光弾が俺の肩を掠めていった。

 女はさらに俺に向けて撃ってくる。俺はシールドに流す魔力量を操作して、出力を上げる。


「どちらが先に魔力切れになるか、試してみるか?」


 女がにぃ、と笑う。先に魔力切れになるのはそっちだ、そう言っているようだった。装備の大きさからバッテリー容量を推し量れば、俺の方に分があるはずだ。だがどうやらそうではないらしい。性能の良いバッテリーを持っている、そういうことだろう。

 だとすれば、早くこの女に撃たせないようにしないと。俺は魔導鎧の足のユニットに魔力を送る。それに応えて、俺の体がグンと加速する。


「速い……!」


 女が驚いた顔をした。俺は一気に距離を詰め、女の銃をレーザーブレードで斬り落とす。


「くっ……」


 女は斬られた銃を投げ捨て、大きく後ろに飛ぶ。俺はそれを追ってブレードを振り下ろすが、女のブレードに止められた。


「距離を詰めれば勝てるなどと思うなよ!」


 女が左手で、素早くもう一本のブレードを抜くのが目の端に入る。俺は急ぎ、後ろに飛ぶ。気づかなければ、脇腹を刺されていたな。

 女は二本の小ぶりのブレードを手に、俺に迫ってくる。左右から素早く繰り出される連撃を捌きつつ、俺は攻撃の機を窺う。こちらの方が魔力バッテリーが少ないようだから、魔力切れにならないように最小限の動きと出力で防がないと。難儀なことだ。


「ふふ……お前のお気に入りは防戦一方じゃないか」


 ヒュミリスが牙をむき出しにして笑うのが見えた。なんて嫌な顔だろう。

 女がさらに回転を上げる。速い。これだけのアシストが出来る魔導鎧も、それを操る技量も恐ろしいものだ。だけど対応できないほどじゃない。攻撃のパターンも、何となくつかめてきた。

 後は隙をついて反撃に出るだけだ。その隙を作らねば。少しずつ、少しずつ、受ける力を弱め、タイミングをギリギリまで遅らせる。フォステリアナの通常装備なら、そろそろバッテリー切れのタイミングだ。そうなった、と思わせるんだ。

 次に来た女の攻撃を、俺は敢えて受け損ねる。


「もらった!」


 僅かにバランスを崩したフリをする俺に、女が大きくブレードを振り下ろす。狙い通りだ。


「しまっ……」


 女のブレードを躱し、女の手からブレードを叩き落す。続けて左手のブレードも弾き飛ばす。痛む手を押さえて、叩き落されたブレードを拾おうとする女の背中に、ブレードを突き入れ魔導鎧のバッテリーとの接続を切る。急にアシストを失い、女がその場に倒れ込んだ。俺は彼女の喉元にブレードを突きつける。


「勝負あったな」


 アルガルベが得意気に笑う。だが、ヒュミリスは顔色を変えなかった。


「まだだ。その雌はまだ生きているだろう?」

「だが魔導機械は使用不能だ! 彼女はもう戦えない。俺の勝ちだ!」


 俺は竜語でヒュミリスに叫ぶ。


「フン、人間のくせに同種殺しを厭うのか」


 ヒュミリスが小ばかにしたように俺を見下ろした。


「当たり前だろう!」

「……甘いな」


 女が体を捻ってブレードから逃れ、サッと跳ね起きるとナイフを手に向かってきた。確かに、ブレードを突きつけていたが本当に刺す気は無かった。だけど……。


「甘いのはお前だ! こんな手が通じると思うな!」


 だからといってみすみす攻撃されるほど、油断しているつもりはない。俺は再び彼女の手からナイフを叩き落とす。


「ちっ、殺せんとは。役立たずめ!」


 ヒュミリスが忌々し気に吐き捨てると、大きく息を吸い込んだ。竜のブレスだ。


「やめろ!」


 俺はシールドの出力を最大にし、女とヒュミリスの間に割り込む。竜の口から吐かれた炎のブレスが俺に襲い掛かる。熱い。何とかシールドはもってくれるだろうか? 


「おいおいヒュミリス、私の可愛いユアンに手を出すなよ」

「私は自分の道具を処分しようとしただけだ。そいつが勝手に割り込んできた。お気に入りを消し炭にしたくないなら下がらせろ」


 ヒュミリスがブレスを止め、悪びれることなくアルガルベに答えた。ひとまず助かった。でももう、バッテリーも残りわずかだ。いつまでも防げるものじゃない。このまま黙って、この女が焼かれるのを見るしかないのだろうか?

 ただの敵方の闘士に過ぎないこの女に何の思い入れもない。助ける義理なんてない。

 だけど、竜の気まぐれで人が殺されるのは見たくない。

 俺だって、何もできずにただ竜の奴隷として生きていたところで仕方ないのだ。ヒュミリスは家族の敵でもある。ここでどこまでやれるか、試してみるのも悪くない。せめて一太刀、傷を与えられるのならそれで良い。さっきの戦いでバッテリーも尽きかけているから、一撃が限界だろう。それに全てを込めよう。


「ユアン、下がれ」


 アルガルベの制止も聞かず、俺はブレードのグリップを握りしめ魔導鎧に力を籠める。俺がヒュミリスに向かって飛び掛かった、その瞬間。


「ぐっ……!」


 何が起きたのかは分からなかった。横から強い衝撃を受けて、俺は意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る