夜の蛇
菜月 夕
第1話
「夜の蛇」
私はイクオ。タクシードライバーだ。
思えば私はあの頃からずっと運んでいる。今日の様に禁断の果実を。
イヴに知恵の実を運んで以来だ。
特に夜は危ない。緊急になる事が多く、行先も迷走することがあるのだ。
「だ、ダメ…。もう。」
「お、お客さん。さっきの病院は断られましたがこっちはきっと大丈夫です。もうちょっとです!」
「オギャー」
丁度、目当ての産婦人科の前だったが間に合わなかった。
お産は救急車の対象にならない場合が多い。
そして車に乗った安心や変化からタクシーの中でも産気づくことが多いのだ。
ましてや夜だと受け入れる病院や産科も限られ、たらい回しになることが多く、この様な事態に陥る。
そして病院に彼女と赤ん坊を預け、頬をかすかに引きつらせながら「おめでとうございます」と声をかける。
彼女たちが去ったあと、タクシーの惨状を思いため息をつく。
今日の営業はこれで終わりにして清掃か。
夜の禁断の果実は熟れてはじける。エデンを追放されて以来、我々の1つの業となったのだ。
禁断の果実はリンゴと言われている。いや、ここは産まれのだから。サンゴだろう。
夜の蛇 菜月 夕 @kaicho_oba
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