第2話 神秘のヴェールとポテリング
「アルバイト、辞めてきたっ!」
にっこりと清々しそうに言い放つ忍。
「今回は2週間か…まぁ保ったほうじゃん?」
よしよし、と雑に撫でてやると目を細めてゆっくりと俺の目に標準を合わせてくる。
忍はいつも俺に熱っぽい視線をやるのに全然自分からは触れてこない。そのくせ日課のほっぺ摘みは欠かさずにやってくるが。
「もう次も探してあるんだ〜」
「忍はやめる時もさがす時も行動力がハンパないなぁ。そこまでして何でバイトやるのか、おれ理解できない」
「そんなの病める時も健やかなる時も二人で暮らせるような夢の場所へと1抜けするためだよ。」
「忍ってば夢見がち〜」
そう言いながらも、やっぱり俺って単純でほっぺが熱くなってしまう。忍に見られるのは癪なのでお気に入りのブランケットを被ることでなんとか隠蔽する。
「これでも僕の一世一代のプロポーズさ。
ねぇ、瞳を見せてよ。」
珍しく縋るような声に思わず顔を上げ、硬直する。
いつものニヤニヤとした顔が、玩具を取られた子供みたいにひしゃげていたから。
忍は俺の顔に中途半端に掛かっていたブランケットの裾を上げ、じっと俺の目を見て言う。
「約束して。僕は君だけだから。どうか僕の側にいて」
まるで映画のワンシーンの様な口上。
お城も満月が照らすきれいな夜景も無いけど、
都会の狭い1LDKにスモッグのかかった様な夜空に浮かぶ中途半端な宵月が非道くロマンチックにさえ思えた。
「ん!指切りなんて怖くておれは嫌いだから。」と言っておやつにとっておいたリング状のスナックを忍と自分の指にはめる。
「っふ、ふふっ。」
「何笑ってるんだよ!」
「やっぱりまーくんは子供だなぁって。」
「そんなに変わらねーだろ!!」
「まーくんはまだ小学生でしょう?」
「…」
「よしよーし、まーくんなりのプロポーズ返しってことなのかな?本当に可愛いな。もうここに式場建てちゃおっか。今の時代はゲリラ結婚式だよ!」
こんなチンケな結婚式あってたまるか。と内心ツッコミつつ、こうなった忍は止められないので諦めるとする。勿論、近くに鐘つき堂など無いのでウェディングベルは外でけたたましく鳴り響くサイレンの音になる。
「夢を持ってる時は、どんなに無謀だって可能性は無限だもんね」
「そうさ、僕は今とっても楽しい!」
「そっか。」
醒めないで!りとるとわいらいと @hakka_ur371
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