第24話 砂漠の勝者
勝利宣言をしたリベルは高らかに勝因を語る。
「奴の運動能力はサンドワームとしてはあまりに異常だ。あれだけ動けば体内に熱が籠って焼け死ぬ。だが、それを可能にしたのは硬質化した外皮。半金属質の皮は冷めやすい。夜の砂漠なら冷却が間に合う。だが、日中はそうはいかない」
灼熱地獄を彷徨う必要がなくなるように進化していった待ち伏せ型のサンドワームが、夜間特化型の動ける進化をした。しかし、同時に弱点を悪化させてしまった。リベルの火球を受けてわかりやすく悶えたのをリベルは覚えている。
「そして、奴は俺が立ち止まると真下から飛び出してくる。全身を外に出すほどな」
地面が揺れる。リベルの真下の砂が崩れ、アリジゴクのようにすり鉢状に凹んでゆく。しかし、リベルは慌てない。何度も繰り返して図ってきたタイミングは、正確にサンドワームの出てくる瞬間をリベルに教えてくれた。
「『サクスム パリエス』!」
何枚もの岩の壁が出現した。しかし、それはリベルの周囲ではない。リベルの頭上。上空に発生したのだ。突如として現れた丁度いい足場に向かって、リベルは「
それから少しの時間差でサンドワームが空中に飛び出してきた。しかし、獲物は既に射程外。完全無防備な姿を無様に晒していた。全身に過酷な日光を浴びたサンドワームの体温は、その体色も相まって急上昇していく。黒色は熱を溜めやすく、冷めやすい皮膚は温めやすくもあるからだ。
「あばよ、ミミズ野郎」
リベルは集中して溜めていた魔力を開放する。その魔法は教科書に載っているような基本的なものではない。リベルが独自に作り上げたオリジナルの古代魔法であり、使える古代魔法のうち最大火力のものの一つだ。
「『
サンドワームの直下、自らが作り上げたアリジゴクが、マグマが乱舞する火山の火口に変わる。異様な熱気を感じ、日光で弱ったサンドワームは空中で身を捩るが、それは無駄な足掻きだった。
「砂は泳げても溶岩は泳げまい」
リベルは火口淵に着地し、眼下に広がる地獄を見遣る。そして、その中に落下したサンドワームは最後の一暴れをして沈黙した。燦々と照らす太陽と灼熱のマグマに焼かれ、その命は刈り取られたのだった。
足場が悪く、『
「リベルも苦戦するのだな」
「俺より強い魔力持ちや魔獣なんていくらでもいる」
「嘘をつけ」
「本当だ」
サンドワームが動かなくなったことを確認し、リベルは魔法を解除する。すると、灼熱地獄は嘘のように消えた。その場に残る熱気だけが本当にあの光景があったことを証明していた。
リベルは疲れた体に鞭を打ち、サンドワームの牙と硬質化した皮膚を素早く剥ぎ取り、急いでその場を離れた。少し離れて背後を見ると、巨大な肉塊に様々な生き物が集っていた。まだ剥ぎ取れる部分は多くあったが、自分たちも砂漠を支える養分になるわけにはいかないので諦めた。そのままその場を離れ、疲労困憊なリベルは休息を取った。こうして、サンドワームとの激闘を終えて、引き換えにリベル達は迷子になったのである。
―
あれから五日。リベルとフィーニスは砂漠を歩き続けているのだ。あれだけの魔法と戦闘をこなしたリベルを最初は心配していたが、フィーニスが何を言ってもいつも通りなので、心配を辞めたのだった。
「見ろよ、フィーニス。モノリスだ」
フィーニスが嫌気のする暑さにうんざりしていると、リベルが唐突に戦法を指差した。しかし、目を凝らしても何も見えない。フィーニスに見えるのは延々と続く砂だけだ。
「……リベル、ついに頭がおかしくなったか」
「俺はいつだって冷静だが?」
「いつもおかしいのか。納得した」
「納得された!?」
リベルの言葉を虚言だと切り捨てたフィーニスだったが、リベルに担ぎ上げられて、その考えを改めざるを得なかった。身長の関係で見えなかっただけで、リベルの視点からだと遠くにしっかりと石造りの柱が確認できた。
「ようやく行路に戻って来られたか。長かった……」
「いやー、楽しかったぜ」
「予定にない遭難は勘弁願いたいものだ」
「残念ながら古今東西、遭難は冒険の始まりと言われている」
「それならリベルはたくさん遭難してそうだな」
「そうだが?」
「……嫌な慣れだな」
こんなところでリベルの遭難癖を知りたくはなかった、とフィーニスは後悔した。自分の意思でどうにかなるものでもないので、癖というよりは運命と言うべきかもしれないが、そんなことに突っ込む元気はない。
「あれが実は蜃気楼というオチは無いよな?」
フィーニスは弱気になってそんなことを言ってしまう。しかし、これが良くなかった。そんな餌を目の前にしたら止まらない馬鹿といることを失念していた。
とてもイイ笑顔になったリベルが不吉なことを言い始める。
「そういうのはフラグって言うんだぜ?」
「……今のは撤回しよう」
「残念。もう遅、い……」
「どうしたリベル?」
リベルの表情が抜け落ちた。視線の先には先ほど確認したモノリス。もしかしてと思ったフィーニスは焦る。モノリスに何かあったのかとリベルの名前を呼ぶが、反応はない。
「おい、リベル。リベル! どうなのだ!?」
「……フィーニス、落ち着いて聞いてくれ」
固まっていたリベルがとても真剣な顔でフィーニスに向き直る。それだけで最悪の事態がフィーニスの頭をよぎった。自身の心臓の鼓動がここまで五月蠅く聞こえたのは初めてのことだ。ゴクリと生唾を飲み込んだフィーニスはリベルの言葉を待った。
「モノリスが…………」
ほんの少しの間。数秒にも満たないそれが、フィーニスには異様に長く感じられた。
「ある」
リベルは頭から砂にダイブすることになった。
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