第18話 実は有名人!?
太陽が南中を過ぎ、街道に馬車をちらほらと見かけるようになった。その中でも場所の後ろに何人も縄に巻かれた者たちを連れていると、嫌でも視線が集中する。慣れない感覚に行商人は先程から何度も腕を擦っていた。だが、この状況を作り上げた元凶はまったく気にしていないようだ。
「グーデナーに着いたらどうするのだ?」
「そうだなぁ、目的地じゃねぇし長居をする気はないんだが、報酬の受け取りに何日かかるか……」
「ふむ、時間があるのなら街を見て回りたい。あの町よりも大きいのだろう?」
「比べ物にならんな」
「それは大層興味深いものがありそうだ」
「迷子になるなよ」
「案ずるな。記憶力には自信がある」
「それは迷子にならない理由にはならないだろ」
早く街を散策したいのか、フィーニスはしきりに前方を見ている。年相応のその様子は微笑ましいものだ。そして、待ちに待った“ソレ”が遠くに見えた。
「おぉ! あれがグーデナーか?」
「そうだよ、フィーニスちゃん」
「大きいな!」
小高い丘に築かれた街。立派な外壁に取り囲まれている様は、最早一つの要塞にも見える。そこに向かって多くの人や馬車が進んでいた。
「どうやら今日中に中には入れそうですね」
「どうしてだ? まだ夕方には早いぞ?」
「入り口の検問が厳しいのさ」
「数も多いですしね」
「ま、俺の予想ではすぐに入れると思うが」
「どうしてです?」
「これだけ人を連れてりゃ、領軍がすっ飛んでくるだろうさ」
言うが早いが、遠くに見える領軍の詰め所らしき場所から兵士が何人も飛び出してこちらに向かって来る。
「まさか……あれが?」
「だろうな。ま、行商人サンは普通にしていればいいさ。対応は俺がやった方が早い」
「お任せします」
兵士に囲まれる想像をしたのか、行商人は実に快く対応係を譲ってくれた。
「フィーニス」
「わかっている」
フィーニスが口出しをすると面倒な方に転がると思ったリベルは釘をさしておく。面倒事は御免だとばかりに、被せるようにフィーニスは返事をした。
そうしているうちに隊列を組んだ領軍がリベルたちのもとにやって来た。
「そこの馬車、止まれ!」
先頭の馬に乗った兵長らしき人物の指示に従い、行商人は馬車を止めた。そして、兵士が馬車をぐるりと取り囲み、いつでも切りかかれるように腰に携えた剣に手をかけていた。
「これはどういう状況か?」
「道中遭遇した盗賊をひっ捕らえただけだ。」
「この人数を“三人”で、か?」
兵長の目が鋭く光る。普通に考えればあり得ない。熟練の兵士三人なら相手次第で可能だが、如何にもな子ども一人、如何にも普通の行商人一人を連れた状態で勝つのは至難の技だ。
「悪いが俺は魔力持ちなんで」
「ほう」
「ついでにトレジャーハンターもやっている」
「なるほど」
兵長が納得したように頷き、次の瞬間、抜刀した。その剣筋は正確にリベルの首筋に吸い込まれ、そして、それはナイフで防がれる。リベルは脚に付けていたナイフを目にもとまらぬ速さで引き抜いたのだ。
「リベル!?」
「兵長!?」
周囲はいきなりの出来事に騒然とするが、鍔迫り合いを演じる二人は周りの喧騒など気にしていないようだった。しばし視線を交差させたのち、兵長は納得したように剣を鞘に仕舞う。
「証明はもう十分か?」
「ああ、流石は“発見”のリベルと言うところか」
辺りが水を打ったように静まり返った。状況を理解していないのはフィーニスと世間に疎い盗賊団の数名だけだった。
「発見ってあの“発見”か?」
「兵長が断言したが……」
「後ろの子もリベルって……」
「あの子可愛いな」
「マジかよ。サイン欲しいんだけど」
約一名、今後が心配になる兵士おり、それを聞いてしまった隣の兵士が凄い顔をしている。そんな感じで兵士たちを観察しつつ、逆に兵士たちの視線を一身に浴びながらリベルは兵長と話を続ける。
「状況は?」
「怪我はしているが後遺症はないだろう。一人は魔力持ちだ。ほら、先頭のやつ」
「あいつか。心得た。……詰め所に連絡を入れろ。魔封じの枷の準備だ。残りは盗賊団を包囲。護送するぞ」
兵長は矢継ぎ早に命令していく。その命令に従って兵士たちはそれぞれ動く。訓練された動きは盗賊団とは比較にならないほど洗練されたものだった。
「治安維持、感謝する」
「いいってことよ。それより早く街に入りたいんだが……」
「構わない。私の権限で許可しよう。付いてきてくれ」
「ありがとよ」
兵長を先頭に集団が動き始める。それはそれは衆目を集めるもので、きっと数日はこの話で持ち切りになることだろう。人の噂に慣れているリベル以外は居心地が悪そうだ。
詰め所まで到着すると、既に準備されていた魔封じの枷が頭目に装着される。これで魔法が使えなくなった。それでも身体能力は人より高いので注意は必要だが。
「報奨金と売り上げ金は何時入る?」
「三日から四日といったところだ」
「その時また来るわ」
「承知した」
「それじゃ、通っていい?」
「構わない」
こうして俺たちは無事、グーデナーに入ることができた。
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