第17話 魔力持ちの戦い
殺さない理由を聞いた頭目は少しの間をおいてから声を荒げた。
「……この僕を、薄汚い盗賊と一緒にするなァ!」
「はぁ? 情緒不安定かよ。どう見ても盗賊だろ」
街道で行商人を襲おうとしている輩が盗賊でないとは可笑しなことを言う。リベルはただ事実を述べただけだが、頭目にとっては違った。己が見下していた魔力も持たない下郎と同族と言われたと思い込み、高ぶる感情のままに魔力を収束させる。
「この……! ムカつくんですよ、お前みたいな奴は! 『ファイア ランス』!」
「おっと、一丁前に魔法まで使えるのか。すごいじゃん」
頭目が使える最大威力の魔法。人に当たればあっという間に火葬できるくらいの威力がある炎の槍。しかし、それを展開されて尚、リベルの顔から余裕は消えない。それどころか、頭目の魔法を素直に褒める始末だ。それが頭目のプライドを著しく傷つける。
「燃えてなくなれェ!」
「リベル!」
「あ、危ない!」
確かな熱気と殺意の籠った炎の槍がリベルに接近する。それを見ていたフィーニスは思わずリベルの名を呼び、行商人も恐怖に怯えながらも必死に叫ぶ。
「『アクア コルムナ』」
射出した「ファイア ランス」は、しかしながら、頭目の聞いたことのない言葉によって現れた水の柱によって防がれてしまう。その圧倒的水量の前では「ファイア ランス」は心もとない蝋燭程度のように呆気なかった。
「……な、なんだ、それは……!?」
頭目は必至に絞り出した声で訴えた。見たことも聞いたこともない魔法。自分よりはるか格上の魔力持ち。かつて自分を見下していたどの同業者よりも圧倒的存在。そんな者と在野で出会うことになろうとは思ってもみなかった。
「ただの古代魔法だよ」
「古代、魔法……?」
魔法を学ぶ際、殆どの者が聞く言葉。しかし、それを見たことがある者は殆どいない。何故なら、古代魔法は当然ながら古代語を覚えなければならず、その上で魔法の調整が非常に難しいから。
古代魔法は使いこなせれば自由自在に魔法を発動させられる。一方、一定規格で造られた現代魔法は習得が比較的容易な代わりに規格内でしか調整できないため、自在に魔法を使えるとは言い難い。
「さてと、これ以上長引くと夕方までに街に到着できなくなりそうだ。だから大人しく捕まってくれよ、盗賊サン?」
余裕綽々といったリベル。一回の魔法の攻防だけで技量の差は歴然だと理解した頭目は、もはや盗賊呼ばわりされても怒りを感じることはなかった。だが、わずかに残っていた別のプライドは刺激されたようだ。
「……一つ、お願いがあります」
「えぇ、聞くの面倒……。聞くけど」
「どうか、魔力持ちとして手合わせ願いたい」
リベルの目がスッと細められた。盗賊の言うことなんて聞く意味はないし、メリットがなにもない。しかし、一人の魔力持ちとしての誇りを切り捨てるほど野暮ではない。
「いいだろう。全力で来い」
「ありがとうございます」
頭目は腰に提げられていた使い古された杖を手に取る。かつての相棒は落ちた頭目の手によく馴染んだ。
二人の間に幾ばくかの無言の時間が流れた。そして、開戦の火蓋を切って落としたのは頭目だった。
「『ロック ウォール』『グラス バインド』『ファイア ランス』」
立て続けに三つの魔法を発動する。リベルの周囲に岩の壁が地面から生え、足に草が絡みつく。逃げ場を無くしたリベルに炎の槍が迫る。
「『アエル ヴィブロ』」
リベルは冷静だった。まずは鬱陶し拘束を排除するために魔法を唱える。リベルを中心にして空気が激しく震えた。石の壁が壊れ、足元の草ごと地面が捲り上がる。
自由になった身体を確かめることもなく、矢継ぎ早に魔法を唱えた。
「『フランマ ウンダ』」
リベルの前に炎の壁が生成された。そして、その壁は前に進み始める。
「な……に……!? 『ウォーター ボール』!」
否、それは炎の波だ。ファイア ランスを軽々と飲み干して頭目に迫る。その絶望的な波を前にして、数滴の雫では全く歯が立たない。生き延びようと背を向けようとしたその時、更なる追撃がかけられた。
「『サクスム ブラキウム』」
地面から生えた複数の岩の腕が頭目を拘束した。身動きが取れなくなった頭目に炎の波が覆いかぶさり、そこで頭目は気を失った。
「俺の勝ち、っと」
岩の腕に支えられて力なく立っている頭目は燃えていなかった。それどころか、炎の波が通った跡には草が青々と茂り、とても火に巻かれたとは考えられない状況だ。古代魔法なら何を燃やすかどうかまで制御できる。逆に言えば、それもすら制御しなければならず、習得が困難と言われる原因なのだ。
「は~い、盗賊の皆サ~ン。大人しく捕まってくださいね~」
立っていた盗賊たちは今までの魔法の攻防で完全に足が竦んでいた。リベルのキラキラ笑顔に、もげるのではないかと思われるほど激しく首を縦に振る。その後、怪我をした盗賊団員を止血し、縄で数珠つなぎにして拘束した。途中で目が覚めた頭目は、とてもスッキリした顔をしていた。
「強かったろう? わたしのお父さんは」
自慢げにそういうフィーニスに、何故かリベルも含めた全員が肯定した。
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