第5話 使えるものは何でも使う

「おいおいオイオイ! ゴーレムじゃねぇか! しかもこんなのは初めて見たぞ! スゲーな!」


 リベルのテンションは最高潮に達していた。古代文明においてゴーレムは頻繁に使用されており、様々な形のものが存在したと言われている。しかし、そのほとんどは長い歴史の中で役目を終えており、現在も稼働するゴーレムは珍しい。さらに、一目見ただけでも圧倒的技術が使用されているとわかるゴーレムならば、その歴史的価値は飛躍的に高くなる。それほど貴重な存在をこの目で見られるのだから、リベルは楽しくてしょうがないのだ。

 姿を現したゴーレムはそんなリベルの事情など一切考慮せずに襲い掛かってきた。


「いきなり襲ってくるとは穏やかじゃないね。できれば穏便に探索をさせてもらえないかなっ? ……ですよねー。勝手に入り込んだ俺が悪いですよねー。でも辞めない!」


 この場は話し合いで治めようとしたリベルに無慈悲な拳が振り下ろされる。それをヒラりと華麗に躱し、ランプをしまうと両手に短剣を呼び出した。リベルもおいそれと大人しく帰るような人種ではない。むしろ、トレジャーハンターはその対極位置する人種だ。


「これだからトレジャーハンターはやめられねぇ!」


 リベルは地面を蹴った。



――



 ゴーレムと短剣がぶつかり火花を散らす。これで何度目だろうか、とリベルは意味のない疑問を自身に問う。もちろん答えは分かり切っている。五十を越えてから数えてはいない。そして、このままでは埒が空かないことも。

 ゴーレムが薙ぎ払った腕を搔い潜って肉薄する。狙うは頭部の怪しく光る対の宝石、人間でいう眼球だ。リベルは短剣を突き出すとゴーレムは大袈裟にのけ反って後ろに跳び距離をとる。既に何度もしている行動だが、リベルは何かを理解したようだ。


「……はーん、そういうこと。行動パターンは読めた。疑問もあるがな。ちともったいないが、先に進めないのは嫌なんでね。決着をつけようか」


 リベルの持つ短剣は二本ともひどく刃こぼれしてしまっている。対してゴーレムは傷一つない状態だ。それでもリベルは自分の勝利を確信していた。


「俺と距離が離れるとどうするんだった? そう、必ず間合いを取りながら横に動くよなぁ?」


 リベルの言葉通り、ゴーレムはリベルと一定距離を保ったまま、器用に横に動く。リベルの背後が壁になるように。まるで、獲物を追い詰める狩人のように。


「その次は全力で殴りにかかる。それが躱されたら腕を振り回す」


 一歩横にずれ、振られた腕をジャンプして飛び越える。


「ほら、インファイトになったぞ。こうなったらどうするんだ?」


 リベルは揶揄うようにゴーレムを挑発する。それが通じているはずはないのだが、不思議なことにゴーレムは苛立っているようにも見えた。腕を適当に振り回し、我を忘れたようにゴーレムがリベルを追いかけ始めた。


「はは、まるで人間みたいだなぁ? 狩人みたいだが、動きは洗練されていない。見た目と同じくらいちぐはぐだぜ?」


 リベルはつかず離れずの距離で攻撃を躱していく。力任せに振るわれる拳は当たれば危険だ。しかし、あまりに稚拙な動きであり、リベルにとって脅威ではない。そのままリベルは目標地点までゴーレムを誘導し、先程と同じように短剣で眼球を狙う。ゴーレムはのけ反り、後ろに跳んで距離をとるが……。


「グッナイ。いい夢見ろよ」


 ゴーレムが跳んだ先はこの部屋の入り口。そして、着地地点には例のトラップがあった。ゴーレムが着地すると同時、床が開いてゴーレムは落とし穴に落下していく。少し間をおいて、金属が押し潰れるような不快な音が響いた。

 予想だにしない音にリベルは恐る恐る落とし穴を除く。その視線の先には胴体の半分が床にめり込んだゴーレムの姿があった。


「うわぁ……、殺意ヤバすぎでしょうよ」


 ゴーレムが床に埋まっていたようにみえたのだが、実際は巨大な棘付きローラーが二つ付いており、その間に巻き込まれるような形になっていた。リベルが見ている間もゴーレムはどんどんとスクラップになっていき、最後に残っていた右腕も仕舞にはきれいに下に流れていった。

 最後まで見届けたリベルは立ち上がり、最初の扉の前に立つ。手を触れると音もなく扉が開かれた。


「楽しみだねぇ。あれだけのゴーレムを作れる古代文明の遺産。トキメキが止まらねぇ。俺の手に負えないようなものは御免だがな」


リベルは警戒しながら扉の先に踏み入れる。すると、人が入ったことを感知したらしく、天井に光が灯る。そして、そこにあった光景にリベルは目を疑った。

 壁際には所狭しと理解できない装置が並び、一角は棚が設置されている。その前には机が、椅子には骸骨が座っていた。だが、それよりもリベルの目をくぎ付けにしたのは部屋の中央に鎮座している“ソレ”だった。


「……人、間……?」


 理解できない装置に繋がれた金属質のベッド。そこに眠る裸の女の子。艶やかな黄金の髪に作り物かと錯覚するほど均衡のとれた顔。成長すれば必ず傾国の美女になると誰もが口を揃えて言うことは間違いない。明らかに異質な存在を前に、リベルでさえも数瞬息を呑むしかできなかった。

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