第27話 2体の不死鳥
『オラオラァ!! どうしたぁ!? さっきの威勢はよぉぉぉ!!』
「くっ!!」
ところ構わず破壊しながら、ライグが暴れ回る。
それに巻き込まれないよう、痛む体を抑えながら逃げ回る。
(あの破壊力……厄介ね)
遠距離技を捨てたライグは、破壊神のような傍若無人ぶりで、拳による破壊に集中し始めた。
遠距離攻撃が無くなった分、まだ避けやすくなった……とはいえないわね。
あの強靭な身体能力は、少し踏み込んだだけで、驚異的な跳躍力がある。あれのせいで、さっきから何度も危ない瞬間があった。
『やっぱ、この感覚だよなぁ!! 直接ぶん殴った時の爽快感!! たまんねえぜ!』
「チッ……! ――
「だぁかぁらぁぁ!! 効かねえつってんだろ!!」
牽制として打ち出した火球が、拳圧だけでかき消されてしまう。
やっぱり、さっきより強化されてる……?
「ねぇ! なんかさっきより強くなってない!?」
『お? 気付いちゃう? へへ、そうさ! この糸を纏った拳には、魔法なんざ届かねえぜ!』
たしかに、さっきの技で、ライグの腕は糸に包まれ、ただでさえ筋肉で包まれていたものが、一層巨大になっていた。
『おっしゃぁ! ここいらで、更に強化だ! ――
「なっ!?」
先ほどの魔法を重ねがけし、ライグの巨腕は、更に巨大な……もはや、子供1人分ほどの大きさになった。
「な、なによそれ! アンバランスすぎない!? キモっ!」
『あぁん? さっきから口の減らねぇ女だなぁ』
もはや、降ろした腕の先端が、地面スレスレなまでに膨れ上がっているじゃない……。
『新技でも作っちまうかぁ? そうだなぁ……名付けて! ――
「なっ! ――
ライグは空中に飛び上がり、巨大な両の拳を組み、巨大なハンマーのように振り落とす。
アタシは炎球を連続で打ち出し、撃墜しようとするが、その勢いは弱まることがない。
『オルァァァァ!!!!』
「きゃぁぁぁ!!?」
ライグの技は、ギリギリ外れたけど、その衝撃で、また、演習場の壁まで吹き飛ばされてしまう。
(ちょ、直撃してないのに、なんて威力なの……)
「あらぁ? 外しちまったか……ん? あれ?」
その巨腕は、地面に深く食い込んだみたいで、引き抜くのに時間がかかっている様子だ。
(今のうちに、作戦を考えないと……)
あの巨腕は、魔法をかき消すどころか、糸に包まれている以上、当たったところで、ダメージが入るかも怪しい……。
狙うなら、胴体だけど、あれだけ大きい腕なら、盾にもされてしまう……。
(第一、さっきみたいに回復されちゃ、意味がない)
先ほどの瀕死の状態からの回復……魔人の再生力と、演習場の結界の治癒力の合わせ技……って仮定しておきましょう。
あれが魔人の再生力だけだとしたら、どうせ勝ち目はない。今は、そう信じるしかない。
(考えろ……考えろ! アタシ!!)
せめて、演習場から出せれば、回復が弱まる。
けど、警戒されている今、アタシの不死鳥1体だけだと、防がれてしまう。
(不死鳥……1体……?)
っ! そうだ! 『アレ』が成功するなら、この状況、打開できる!
まだ成功したことはないけど、そんなこと言ってられない!
(今、ここで、成功させるしかない……っ!)
『うぉぉぉぉぉ!!! お!? 抜けたぁぁ!!』
アタシが作戦を考え終えたところで、ちょうど、ライグの方も、地面から腕が抜けたようね。
さぁ……ここからは、一か八か、賭けに出るわよ!
『へへっ! 随分と待たせちまったなぁ?』
「……ねえ、ライグ。アンタの魔法、すごいわね……アタシの完敗よ」
『あん……? どうしたぁ、あまりの力量差に、とうとう諦めちまったかぁ?』
アタシの言葉に、ライグは勝ちを確信したのか、ニヤニヤと笑いだす。
「ええ、そうよ。そんな強さ、もうどうしようもないわよ」
『へへっ! そうだろ? これが、ライグ様の真の力よぉ!』
アタシにおだてられ、嬉しそうに力を誇示し始めた……良いわね、その調子よ。
「もしかして、そのたくましい腕、もっと巨大にできるんじゃない?」
『んん? まあ、試したことはねえが、まだまだできると思うぜぇ?』
「どうせ死ぬんだから、最期は、アンタの最強の、最大の技でやってちょうだい?」
『あぁ、そういうことか。いいぜ! このライグ様の、最強っ! 最大を見せてやるぜ!! ――
アタシの要望に応え、ライグは何度も重ねがけをし始める。
重ねがけする度に、その巨腕は、一回り……二回り……三回りと、巨大になっていき、もはや、ライグと同等の大きさにまで膨れ上がっていく。
『ふぅ……こんなものだな』
「凄いわね」
『へへ、そうだろぉ? ……っとと、すげえなこりゃ、バランスをとるので精一杯だぜ』
ライグは、その巨大すぎる腕に振り回され、よろけてしまいそうになる。
……頃合いね。
「ええ、良いわね……自分でも操れないくらいになってくれた」
『あぁん?』
「――
『んなっ!?』
油断し切っているライグに向かって、不死鳥を飛ばす。
不死鳥は真っ直ぐに飛び、ライグの胴を狙う。
『チッ! さっきのは演技かぁ!? だが、同じ手は喰らわねえぜ!!』
言葉通り、ライグはゆっくりとだが拳を振り上げ、不死鳥に向かって叩き落とす。
「――甘いわ!」
『な、なにぃ!?』
不死鳥は、叩き潰される直前に旋回し、その巨大な腕を避ける。
『ば、バカな!? 魔法が、曲がっただとぉ!?』
「魔法は自分の手足と同じ! 魔力操作によって、自由自在に動くのよ!!」
ま、ルーネスから教わったことを、そのまんま言ってるだけだけどね。
『だ、だが! 見失ったわけじゃねぇ! そんな鳥、何度来ても潰してやるぜ!』
「――あら? 誰が、一体しかいないと言ったのかしら?」
『な――グァァッ!!?』
上空を飛び回る不死鳥を睨んでいるライグの胴体に、『もう一体の不死鳥』が突撃する。
『に、2体目だとぉぉ!?』
「さぁ……ぶち飛びなさい」
『グォォォォォォ!!!!?』
不死鳥の突撃により、持ち上げられた体を、空を旋回していたもう一体の不死鳥が追撃する。
2体の不死鳥により、先ほどと同様、ライグの体は空中へと飛翔していく。
『グゥゥゥゥゥ!!? だ、だが!! 何度やっても俺の体は再生す――』
「アンタがいくら再生しても、意味ないわよ」
充分な高度まできたわね。
さあ、本日2度目の、落下タイムよ。
けど、今度はちょっとだけ違うわ、地面に辿りつくまで、不死鳥はアンタを離さない。
『グ、グゥゥゥゥゥッ!!? か、加速している!?』
「3……2……1……」
落下速度から、着地までの時間を予測して、数える。
さあ、これでお終いよ。
「――ゼロ」
『グゥッ!!!!? アガガガガガガ!!?』
演習場の外の地面へと到達したライグは、巨大になった腕による自重と、不死鳥の後押しにより、地面を削り、地中へと進んでいく。
さっき、ライグの腕が突き刺さったように、ね。
『ガハァ!!』
「あら、硬い岩盤に当たったのかしら? ここまでのようね」
ここまで、といったけど、その深さ、数十メートルはあるでしょうね。
近くにあった入り口から、演習場の外に出て、ライグが埋まった穴を見る。
『うぐ……、テメェェェ!! 今すぐこの穴抜け出して、ぶっ殺してやるよォォォォ!!!!』
穴の底から、ライグの怒鳴り声が響く。
あの高さから落ちても、まだ叫ぶ元気があるのね。
「あら……そこから出れるとでも?」
『あぁ!!? んだとゴラァァァァァ!!!』
「不死鳥ちゃんたち、まだ爆発してないじゃない」
2体の不死鳥は、ライグと共に地中深くにいる。
まだ、アタシの合図を待っている状態よ。
『なっ! ま、まさか!!』
「名付けて――不死鳥ノ
『や、やめ――』
ライグの悲痛な叫びをかき消し、轟音が響く。
轟音から遅れて、ライグの埋まっている穴から、穴の形に添い、筒状になった爆炎が飛び出る。
地中で、逃げ道を固定された爆炎は、空中高くまで上がり……やがて、その勢いを失い、辺りは落ち着きを取り戻す。
爆炎の影響を直に受けた地面は、ボロボロと崩れ、穴の中に土が落ちていき、ぽっかりと空いてた穴が埋まってしまう。
「これで……しばらくは出てこれないでしょ」
アタシの思惑通り、ライグのことを生き埋めにすることに成功した。
アイツがいくら再生するとしても、ここから這い出るのは難しいはずよ。
「っ! ……いっったぁ」
戦闘が終わったことで、緊張の糸が切れたのか、ライグに殴られた箇所が、思い出したかのように痛み出す。
(けど、ここで止まってなんていられない)
まだ、フィルゼや、他の取り巻きたちも残っている……。
アタシがここで休んでいる間にも、誰かが戦っているかもしれないわ。
「ってて……。歩くだけで痛いわね……」
痛む体に鞭を打ち、演習場を後にする。
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