第26話 魔人の力



「――火球! 火球!!」


『オラッ! オラァッ!!』



 連続で火球をぶつけていくけど、全て叩き落とされてしまう。



「ってか、素手で殴るってなによ! 反則じゃない!?」


『へへっ! 俺も驚きだぜ! まさか俺が、あのアリシア・アーガネットの魔法をなぁ!?』


「くっ! 調子に、乗るなぁぁ! ――炎球フレイム・ボールッ!!」



 特大の炎球を作り出し、ぶつけてやる。

 真っ直ぐに放たれた炎球は、ライグの上半身にクリティカルヒットし、爆発する。



「ふっ! どんなもんよ!」


『――ああ、今のはヒヤッとさせられたぜぇ?』


「なっ!?」



 き、効いていない!?

 嘘でしょ……? あの威力の魔法を受けて、ほぼノーダメージ!?



『模擬戦の時は、一撃でやられちまったが……魔人の体、こいつはいいぜぇ!!』


「くっ……!」


『今度はこっちの番だ! ――糸弾スパイダーズ・ショットッ!!』



 ライグの手から、糸の弾丸が発射される。

 さっきの威力を見る限り。一発でも当たったら危ないわね。



「それなら……っ! 焼き落としてあげる! ――炎之羽衣フレイム・ヴェール!!」



 炎の幕状の障壁を展開し、系弾を防ぐ。

 いくら強くても、しょせん系は系、炎の熱で溶け流に決まってるわ。



『チッ! こりゃ、分が悪いな』


「だったら、観念して自首なさい。フィルゼのやつも連れてね」


『あぁん?』



 ライグの表情が、険しいものへと変わる。



『なんで、テメェごときが、フィルゼ様を呼び捨てにしやがるんだよ』


「あら、フィルゼにご執心のようね?」


『ったりめぇだ! 俺たちは、フィルゼ様の腹心だからな!』



 そう言い、誇るように胸を張るライグ。

 なんでそんなに心酔してるのかは知らないけど、これはいいわね……、さっきの口ぶりからして、まだ魔人の力に慣れていない。今なら、上手く誘導すれば……。



「ったく、なんであんな男に付いて行ってるのかわからないわね?」


『あんな、男……だと?』


「ええ、しょせんは、よくいる差別主義の傲慢貴族でしょ? 貴族としての誇りも忘れた、ただのボンボンじゃない」


『テメェェェ!! いい加減にしやがれぇぇ!!』



 怒りを露わにした取り巻き男は、地面を割るほどの踏み込みとともに、爆速でこちらへ飛んでくる。

 やばっ、怒らせすぎたかもっ!?



『もういい! 直接ぶん殴ってやるぜぇ!!』


「炎之羽――きゃぁ!!?」


『この距離で間に合うわけねえだろ!! ――糸纏拳スパイダーズ・ナックルゥゥ!!』



 ライグは、糸を拳に纏わせ、強化された拳を、アタシのみぞおちに叩き込む。

 鈍い痛みとともに、バキッという悲痛なが体内に響き、壁側まで吹き飛ばされてしまう。



「ぐっ……ガハッ!」


『やっぱ、遠くからチマチマやるより、自分の拳でやる方が性に合ってるぜぇ』



 痛い……。こ、これ、アバラが何本かいってるんじゃない……?



『フィルゼ様をバカにするからそうなるんだぜ? これに懲りたら、これからは敬意を持って……、つっても、今から死ぬんだったなぁ!』



 拳をバキバキと鳴らしながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 あと、もう少し……、もう少し近づくまで……。



『ああ、そうだ。何か言い残すことはあるか? それぐらいは聞いてやるぜ?』


「…………にね」


『あぁ? 声が小さくて聞こえねぇぞ?』



 アタシの声を聞くため、ライグは、至近距離まで顔を近づける。

 そう、その距離。それを待っていたのよ。



「……自首した方が楽だったのにね。って言ったのよ」


『はぁ? この期に及んでなに言って……』


「――不死鳥ノ爆撃フェニックス・ストライク


『なっ――アグっ!!?』



 アタシの手から生み出された炎の不死鳥は、目の前にあったライグの口の中へと侵入し、その巨体ごと空へと飛翔する。



『アガっ!! グゥッ!!?』


「アンタ、外側からの攻撃には強いみたいだけど、口の中での爆発はどうかしら?」


『グッ!!? ヒャ、ヒャメロォォォォ!!!!』



 ライグは、慌てて不死鳥を殴りつける。

 けど残念。一度発動したフェニックス・ストライクは、爆発するまで止まらないわ。



「乙女の肌を傷つけた罪、高くつくわよ」


『ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』



 空高く飛翔した不死鳥は、ライグと共に大爆発を起こす。

 爆風が、強風となって伝わる。


 数秒間を空け、黒焦げになったライグが落下し、地面に激突する。



「ハァ……ハァ……やった……のよね?」



 流石に、アレを食らって立ち上がるんじゃ、人間辞め――



『デ、デメェ……ゴロス……絶対。ゴロしてやるぅ……』


「……う、嘘、でしょ? アレを食らって、まだ生きてるっていうの?」



 フラフラになりながらも、黒焦げた体を重そうに持ち上げ、ライグは再び立ちあがろうとしていた。



『ゲホッ……ハッハァ……アーガネットよぉ……こ、ここが、どこだか忘れてんじゃねえ、か?』


「どこかって、ここは――」



 ……そうだ。ここは演習場だ。

 一定のダメージは、結界の効果によって回復する。

 で、でも、だからって……。



「だ、だからって、結界の治癒効果にも限度がある! あの傷が治るなんて……っ!」


『ヘヘッ……こ、こいつは、魔人の治癒力も、相乗効果で出てるみたい、だなぁ?』



 そ、そうだ……たしか、昨日のオカルト研究会の部室で、ルーネスが言っていたっけ……。


――その数は多く減らしたが、奴らの生命力は、その程度で絶滅するようなことはない。


 これが、魔人の生命力……、想像以上ね……。



『さぁ、傷もちょっとずつ治ってきてるぜぇ……第二ラウンドといこうじゃねえか』


「くっ……」



 これは……長くなりそうね……。






          *




「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!」


『こらっ! ま、待ち……待ちなさっ……待てやゴラァァァァァ!!!』


「ゆ、幽霊さぁぁぁん!! お願いしますぅぅぅぅ!!」



 イリーナとかいう女が逃げ惑い、魔人の女が追い詰める。そうなったら幽霊をぶつけ、その間に逃げる。



(先ほどから、コレの繰り返しではないか……)



 全く……主の命でなければ、こんなつまらんイタチごっこなんぞ、見たくも無かったのだがな……。



――リル、今回のことで、もしかしたら俺たちは襲撃されるかもしれない。1番戦闘力の低いイリーナのこと、見ておいてくれ。



 ……主の久々のご命令とのことで、舞い上がったものの。

 この女……本当に逃げ回るのみで、面白みがない。



(泣き叫んでいるのみで、戦おうとは思わんのか?)



 千年前の時代、あんなのがいたら、真っ先に殺されているぞ……。

 全く……人間は脆弱な生き物とは知っていたが、あのイリーナという女は、そのトップだな。



(……まあ、逃げ回っているうちは、ワタシも無駄な労力を割く必要もない。それはそれで楽でいいか)



 いつものワタシなら、主の命ならば、迅速に行動していたが……どうも、あの女を見ていると、気が抜けるな。



(せめて、強い意志でもあれば、助けがいがあるというものだが……)



 まあ、あの女には難しい話だろうな。

 ワタシはもうしばらく、ゆっくりと眺めさせてもらうとしよう。

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