第24話 嵐の前の静けさ



「やあ、お疲れ様だね」


「誰のせいで疲れてると思っていやがるんですか」



 翌日、俺たちは目安箱の案件を全て着手したことを、マグナ教諭の元へ伝えに来た。

 連日の活動と、昨日の話のせいで疲弊しているアリシアが、また口が悪くなっているな。



「ははっ、すまないね。だが、まさか半分の期間で依頼を全て達成するとは思っていなかったよ」


「……全て達成、というと、ちょっと違うんですけどね」


「うん?」



 俺たちは、昨日の一連をマグナ教諭に話した。

 内密にとは言っていたが、相手はマグナ教諭だ、まあ、大丈夫だろう。



「なるほど……魔人が現れたのか」


「マグナ教諭は、魔人のことを知っているんですか?」


「私も研究者の端くれだからね。そういう魔術に関わり深い存在のことは知っているさ」



 そういい、ニヤリと口角を上げるマグナ教諭。

 ああ……、俺と初めて話した時の怪しい笑い方だ。絶対に違法な調べ方をしているな。

 禁術について調べている男だ。もはや不思議ではない。



「まあ、なんにしても君たちには助かったよ。後日、お礼させてもらいたい」


「もちろんよ」


「……そうだ。マグナ教諭、少し聞きたいことがあるんだが、時間は取れるか?」



 俺は、『ある事』を思い出し、提案する。

 マグナ教諭は少し不思議そうな顔をするが、すぐに笑顔に戻る。



「おやおや、君から質問とは、学生らしくていいじゃないか?」


「いや、そういう質問では……まあ、いいか。アリシア、すまないがそういう事だ。先に演習場に行っててもらえるか?」


「ま、別にそれくらいいいわよ。先に演習場でストレッチしてるわね」



 そう言い残し、アリシアはさっさと研究室を出ていく。

 すると、本題だ。と言わんばかりに、マグナ教諭は顔を近づける。

 近い、やめて欲しい。



「さて、君の情報を教えてくれるのかなぁ?」


「……今回ので貸し一つだろ? それはまた今度だ」


「んん〜君も中々焦らすじゃないかぁ!」



 体をクネクネと動かす様子を見て、思わず吐き気を催しそうになるが、ここは我慢だ。

 今回の件で、もしかしたら『アレ』が必要になるかもしれないんだ。先に聞いておかなくては。



「マグナ教諭、この前貰った『刀』のことなんだが――」





         *




「ハァ……ハァ……。ジャックよ……もっとだ、もっと持ってくるんだ!!」



 乾く、乾く、乾くっっ!!

 まだ足りない、この渇きを満たすには……っ!



「フィルゼ様、申し訳ありません。昨日は邪魔が入り、いつもより収穫が……」


「くっ! ガァァァ!!」


「フィ、フィルゼ様! お、落ち着いてくださ……」


「ダマレェェェ!!」



 苛立ちのあまり、近くにあった『ソレ』を蹴り飛ばす。

 地面を転がった『ソレ』からは、くぐもっているが、微かな呻き声が聞こえる。



「ぅ、ぅぅ……」


「チッ! ナゼ、失敗した!」


「そ、それが、ルーネス・キャネットたちが現れ……」



 ルーネス・キャネット……、ルーネス・キャネットだと!!

 またしても、あの男かぁ!!



「……そのことで、進言したいことがあります」


「ァァア? ……ナンダ、言ってみろ」


「ルーネス・キャネットが旧校舎で話しているところを見た者がいます。ヤツはなぜか我々の『チカラ』について知っているようでして……。情報によると、国家機関が立ち入る可能性があるとのことです」



 国家機関だと……?

 マズイな、まだ私の力では、軍を相手にするには足りない……。



「……潮時ではないでしょうか。これ以上騒ぎが大きくなれば、フィルゼ様だけではなく、バッシュロック卿の方にまで国の手が伸びるかもしれません」


「……父上、が?」



 父上。あぁ、父上……。

 申し訳ありません。私は、父上の言いつけ通り、1番を目指しているのですが、あの忌々しいヤツのせいで、ヤツのせいで……。、



「今ならまだ、我々の仕業だとはバレていません。この辺で引き上げるべきでは……」


「父上ぇ!! 父上! 私は! 私はぁぁ!!!」


「……フィルゼ様」



 なぜだ? ナゼこうなった?

 『あの男』の協力を受けてしまったからか? 私が間違っていたのか? 私が、弱い……?



「ルーネス・キャネットへの復讐もわかりますが、ここは安全策を取るべきかと」


「ルーネス……、キャネット……?」



 そうだ、私のせいではない。あのルーネス・キャネットのせいではないか。

 アイツさえ……、アイツさえいなければっ!!



「く、くく、クヒヒヒヒ!!」


「フィルゼ……様?」


「もういい!! こうなれば、とことんまでやってるやろうではないかぁ!!」



 殺す。絶対にヤツを殺す。

 そうすれば、父上も私をお認めになってくれるはずだ。



「少し早いが、決行に移るとシヨう」


「なっ!? ほ本気ですか!?」


「ナンダぁ? ジャック……貴様も、私に逆らうノカ?」



 我が右腕として可愛がってやっていたのに……こいつモ、殺すカ?



「……いえ。私の命は、フィルゼ様と共にあります。どこまでもついて行きましょう」


「クヒッ……、それでこそだ」



 ああ、よかった。もう、私に逆らうヤツはいないノカ。



「ジャック、全員を集めろ。すぐにでも結構スルゾ」


「かしこまりました」



 サア、殺そう。まずはアリシア・アーガネット、そしてあの忌々しい男……ルーネス・キャネットに関わったヤツ全員。

 そうして、最後に……く、クヒッ、クヒヒヒヒ。



「フィルゼ様。召集しました」



 振り返ると、私の部下たちがズラリと並んでいた。仕事が早いコトハ、良いことダ。



「サァ!! 私の手足たちよ!! 今コソ、宴の時ダ!! ルーネス・キャネットと、ヤツに関わった者たちを、全て殺セェ!!」



 クク、私を楽しませてくれヨ? ルーネス・キャネットくん。

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