第20話 目安箱事案 2日目




「ふぅ……これで結構片付いたんじゃない?」


「そうだな、要望書も残るところ1枚だな」



 次の日。授業後の時間を使い、俺たちは次々と目安箱の中身を処理していった。



「にしても、急な職員会議が入るなんて珍しいわね」


「まあ、そのおかげで、午後から授業が休みになって、俺たちも色々と動きやすくなったからいいじゃないか」



 元々、1週間ごとに教師が目安箱の中身は整理するらしいから、依頼数自体はそこまで多くなかった。

 それが急な余暇時間と重なったことで、みるみるうちに要望書は消化できたのだった。



「ま、さっさと終わらせて解放されるのは良いことね。それで、最後の依頼は?」



 アリシアに促され、最後の要望書を開く。




【最後の要望

 さ、最近、学院内で生徒が急に消える事件が起こっている……という噂があります。

 よければ、わ、私の知的探究心を満たすのをお手伝いお願いしたいです。


 オカルト研究会会員 ブラック1年生 イリーナ•イーヴェル】



「……オカルト研究会? そんな部活あったかしら?」


「俺も聞いたことないな。けど、ブラック生らしいし、聞いて回れば、本人を見つけることはできるんじゃないか?」


「それもそうね。とりあえず、聞き込みを開始しましょ!」




         *




「これより、臨時職員会議を開始します。司会とサポートは、我々生徒会が担当いたします」



 全く……。せっかく面倒ごとをルーネスくんとアリシアくんに押し付け……任せて、研究に没頭できると思った途端、これか。

 手に持ったペンを遊ばせ、研究の内容を頭でまとめながら、会議内容に耳を傾ける。



「本来、学生である身の私たちが職員会議に携わることはありませんが、内容が内容ですので、教職員がたと、我々生徒会の連携が必要と、学院長から承りました」


「ふむ。それはいいが……生徒会長はいないのかね?」


「生徒会長は……、ええ、急用につき、本日は、副会長である私……ジーナス•ウィガールが代理となります」



 生徒会長……、ああ、ヤツのことだ、普通に寝坊かサボりだろうな。

 周りの職員たちも、薄々察しているのだろう。変に詮索する者もいない。

 ……副会長くんも大変そうだな。



「ゴホン、それでは続けます。資料をご覧ください」



 資料? ああ、これか。

 興味がなさすぎて見ていなかったが、わざわざ生徒会と連携をとる内容……か。

 資料を数ページめくってみると、中身はは何人かの学生や職員のプロフィールのようなものだった。



「ふむ……、ページ数からして、1クラス分の人数かね? 内容はホワイト、レッド、ブラックの学生や教職員と、一見、まとまりのないバラバラな人選に見えるが?」


「これは、ここ1週間ほどで『行方不明』となった学院関係者のリストです」


「行方……不明?」



 言われてみれば、ここ最近顔を見ない人ばかりだな。



「しかも、噂によれば、彼ら彼女らは『ふと目を離した際に、気づいたら、消えたかのように居なくなった』とのことです」


「ふむ……。なんらかの魔術による拉致、といったところかね?」


「わかりません。なにぶん、失踪直前の目撃は、場所も日時もバラバラですので……」



 場所も時間もバラバラ……ということは、設置型の魔法陣による時限式の魔術の線は薄いのか……?

 いや、なにか他の条件付けの可能性もあるのか?

 情報が少ないな……、仕方ない、あまりこう言う場で目立つことはしたくないんだがな。



「少し、質問いいかね?」


「もちろん構いません」


「ほう、マグナ教諭が、あの重い腰を上げるのか……」



 私が動くのが物珍しいのか、周りの職員たちが少しざわつく。

 まあ、こんなことで一々注目を浴びるのもどうかと思うが、普段の無頓着ぶりが招いたことだ。ここは甘んじて受け入れよう。



「失踪した生徒や職員に共通点はないのかね?」


「先ほども述べた通り、生徒や教職員、それにクラスのランクもバラバラですので、一貫性は見受けられないかと……、強いて言えば、ホワイトの行方不明者は、他と比べて少ない……くらいですかね」


「ふむ……」



 たしかに、一見すると共通点はないか……、無差別なのか?

 行方不明者のリストをめくり、なにかヒントはないかと探す。



(成績。年齢。性別。果ては部活動や委員会活動……、本当にバラバラだな。これは、本当に無差別なのかもしれ――ん?)



 ふと、とあることが気になり、他のページと見比べる。



(この生徒も、この生徒も……職員も……)



 なるほど。ホワイトの行方不明者が少ない理由はこれか。

 なんとなく犯人像は浮かんできたな。



「わかったよ。共通点」


「なっ!」


「ほ、本当かね!? マグナ教諭!」



 煮詰まっていた会議に、光明が見え始める。

 まったく、こんな初歩的なことにも気づかないとは、本当に皆、資料を見たのかね?



「簡単なことだよ。資料に載っている、学院に入る前の経歴を見たまえ」


「学院に入る前……?」


「農家出身だったり、大工の家、田舎出身……、共通点は見えないが?」



 自ら口に出しているのに、まだ気付かないのか……。



「なら、さっさと答え合わせをしようか。……行方不明になったものは、全員『平民出身』なのだよ」



 会議室がざわつく。



「平民……なるほど!」


「たしかに、居なくなった職員も平民出身のものばかりだ!」


「ホワイトの生徒も、よく見ると平民出身から成り上がった者たち……どうりで、ホワイトの生徒が少なかったわけだ」



 みな、合点がいったという表情で和気あいあいとしているな……。

 水を刺すようで悪いが、一言添えさせてもらおう。



「みなさん。あくまで共通点がわかっただけで、なにも解決していないのだよ? 浮き足立つのは早いんじゃないかね?」


「あっ……」


「……ごほん。マグナ教諭の言う通りです。むしろこれからが勝負どころです。我々生徒会と、教職員の皆様方で協力し、この連続失踪事件を解決しましょう」



 全く……これでは、副会長くんの方が教師のようだな。

 さて、問題解決の取っ掛かりは作ってやったんだ。残りは押し付けて、さっさと研究に戻りたいものだね。



「副会長くんの言う通りだ。愛すべき学院のため、身を粉にして働くとい――」


「……では、マグナ教諭と生徒会で調査をする。ということでは良いのではないかね?」


「――はい?」



 は? 今なんと言った? 私?



「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ。な、なぜ私が……」


「何を言いますか。今の推察力は、必ず事件の役に立つでしょう」


「そうですとも! ぜひ生徒会を率い、事件解決をしてくださるに違いない!」



 会議室が盛り上がり始める。

 この流れは非常にまずい。せっかく面倒ごとをルーネスくんたちに任せて、研究に集中できると思ったのに……、こんな暴挙、許してたまるか。



「そ、そうだ! 生徒会を率いるのであれば、生徒会の監督をしている教師がいるでしょう!」


「ああ、先生は今出張中です」


「ぐぬぬ! ならば、学院長は!」


「学院長こそ、ご多忙ですから……」



 どいつもこいつも……。

 周りの職員に目を向けるが、誰も彼も、私に押し付けようと言わんばかりに目を背けるばかり……。

 これは、私がやるしかない……のか?



「くっ……!」


「マグナ教諭。どうか、我々と協力し、事件を解明しましょう」



 副会長くんの真っ直ぐな目に見つめられ、逃げ場がないことを察する。

 はあ……仕方あるまい。



「…………わかりました。私がやるとしよう」


「おお! 流石はマグナ教諭だ!」


「事件の早期解決、楽しみにしているぞ!」



 幸い、私単独ではなく、生徒会もついている。

 彼らをこき使って、さっさと解決するとするか……トホホ。

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