第9話 模擬戦 その1
「――説明は以上だ。では、早速模擬戦へと移行する。最初のペアは……」
「はいっ! アタシとルーネス――」
「――俺と、ルーネス・キャネットで頼むぜ」
約束通り、アリシアが俺との戦闘を希望しようとした声を、何者かが遮る。
しかも、俺のことを指名するだと?
声の主の方を見ると、どこかで見覚えのある顔だった。
「お前は……」
「はっ! 昨日はフィルゼ様をイカサマで出し抜いたようだが……ここで、テメェの化けの皮を剥がしてやるよ」
――思い出した。こいつ、フィルゼの取り巻きのひとりだ。
取り巻きの中でも、ひときわ体格のいい男で、何かあれば真っ先に前に出てくる、フィルゼ一派の特攻隊長のようなやつだ。
「し、しかし、ライグくん、君はホワイト生で彼は……ブラック生だ。実力に差がありすぎるんじゃないか?」
「おいおい、先生さんよ。そこのキャネットは、昨日の試験でもダントツトップなんだろ? だったら、問題ないんじゃねえか?」
「それは……」
教師と取り巻き――ライグの言い合いが続く。
正直、俺としてはどちらでもいいんだが……アリシアとの約束もあるしなぁ。
アリシアの方を見ると、少しイライラした様子で地団駄を踏んでいるかと思えば、もう我慢の限界、というような様子で、立ち上がる。
「――もう! 面倒くさいわね! そんなに戦いたいなら、アタシが相手になってあげるわよ!」
「はぁ? なんだテメェ?」
「いい? ルーネスは、アタシと模擬戦をする約束をしてたのよ!」
アリシアとライグが、バチバチと睨み合う。
……なんで、急に俺を取り合う流れになったんだよ。
*
「えー、それでは、模擬戦を始め……て、いいんですよね?」
「おうよ! このチビをさっさとぶっ飛ばして、キャネットの野郎と戦ってやる!」
「あら、ルーネスと戦うのはアタシなんだけど」
あれよあれよという間に、なぜかアリシアとライグが戦うことになってしまった。
……本当になんでこうなった?
「そ、それでは、両者……始め!」
「おらぁ! 速攻で決めてやるっ!!」
開始の合図と共に、ライグが駆け出す。
なるほど、アリシアの体格を見て、魔法が発動される前に接近してしまう作戦か……。
魔導士は接近戦に弱いという特性を利用している。悪くない選択だな。
「――
走るライグの拳が、火に包まれる。
ほう、やはり見た目通り、魔法を纏わせた近接型か。
この時代の一般的な学生の魔法速度では、あの距離まで迫ったライグに対処できないと思うが……さて、アリシアはどう出る?
「一撃で沈めて――」
「――
「ブフォッ!?」
ライグが迫り、アリシアに振りかぶった拳をぶつけようとした刹那。
アリシアの発動した火球が、ライグの顔面に直撃する。
「ガッ……ハッ……!?」
「真っ直ぐに突っ込んできてくれてありがと♪ おかげで楽に倒せたわ」
「そ、そこまで! 勝者! アリシア・アーガネット!!」
白目を剥いたライグがその場に倒れ、教師の勝利宣言が響く。
「す、すげぇ!! ホワイトの生徒を一撃で!?」
「さ、さすがだぜ!!」
周りの生徒たちも、アリシアによる瞬殺劇を目の前に、歓声を上げる。
……演習場内は、展開されている結界の効果によって、一定内の怪我はすぐ治るとはいえ、えげつないな。
「ぅぅ……、はっ!? しょ、勝負は!?」
そうしている間に、結界の効果なのか、持ち前のタフネスなのか、火傷が治り、気絶から目が覚めたらライグが飛び起き、辺りを見回す。
それに気付いた教師がライグに近づき、ポンっと肩に手を置く。
「ライグくん。君の近接型の戦い方は、たしかに魔導士には有効ですが……直線で迫るのは、油断が過ぎますよ」
「グッ……!」
「その証拠に、事前に魔法の発動準備を終えていたアーガネットくんに、近距離で当てられていましたよ」
……それは違うな。
たしかに、ライグが駆け出したタイミングで、アリシアが魔力を練り上げていたかのような結果だが……。
実際のところアリシアは、『ライグが目の前で拳を振りかぶってから』魔力を練り上げていた。
(あの魔法速度……たいしたものだな)
この時代で、あれほどの技術とは……。
これは、案外楽しめそうだな。
「さあ、ルーネス! 次はアンタの番よ!!」
アリシアの誘いに乗り、俺も、客席から立ち上がり、アリシアの元へと向かう。
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