第8話 ライバル登場?
「それでは、試験の結果を張り出しておきますので、各自確認をしておいてください」
朝のホームルームが終わり、教室の前の方に紙が張り出される。
皆次々と見に行くが、少しガッカリした顔で離れていく。
結果はチーム評価と個人評価に分かれているようだな。
チーム評価の方は、香水の力で多くのモンスターを倒したフィルゼ率いる俺のチームが一位だが、個人評価は――
「これは……なかなか、酷い結果ばかりだな」
『昨日の森でのものですね』
ああ、そうか、昨日の森にはリルがいたからか。
俺たちのところは、フィルゼの香水のせいもあり数も集中していたが、他の連中も、リルの魔力に怯え、入り口付近に避難したモンスターが多かったんだろう。
まだ学生の身で、大量のモンスターを捌ける人間も限られているゆえの……この結果か。
「さて、俺の名前は……、うん、ダントツの1位だな……」
『主の力であれば、当然です』
「とはいえ、ゴブリンキング1匹だけで、こんなにポイントが入るとは思わなかったな」
あの時代、ゴブリンの群れのほとんどにキングがいた。
今は上位獣と言われてるらしいが、正直、今の尺度で言うと、当時は低位獣どころか零獣くらいの扱いだったのに……千年で、人類が弱くなったのか……?
『主、主の下にある名前、さっきの女では?』
「ん? あぁ、本当だ」
目を向けると、そこにはアリシア・アーガネットという名が記されていた。
「意外とポイント高いな。他のレッドやホワイトの生徒たちを抑えての2位か」
『意外とやるようですな』
内訳を見ても、そこそこ強いモンスターも倒しているみたいだし……なんでブラック生なんだ?
これくらいの実力があるなら、貴族で固められてるホワイトはともかく、レッドくらいにはなれると思うんだが……。
「アンタ……、噂のゴブリンキング殺し、だったのね」
「お、アリシアじゃないか」
噂をすればなんとやらだな。隣の教室から、わざわざやってきたらしい。
「昨日は人混みに隠れて見えなかったけど、まさか、こんなヒョロヒョロなやつが……ねえ」
「これはまた、随分な評価だな」
「アタシが1位になれると思ってたのに……」
たしかに、アリシアのポイントは、他の追随を許さないレベルだ。
俺がいなければ、間違いなく個人評価は1位だっただろうな。
「決めたわ! ルーネス・キャネット! アンタをアタシのライバルとして認めてあげる!」
「……俺は、友達になりたいんだけどな」
突然のライバル宣言に面食らう。
友達にならないか声をかけた人間に、まさかライバルと呼ばれるとはな。
「覚えておきなさい! 1番はこの、アイリス・アーガネットということを!」
そう言い残し、足早に去っていき、本日の2度目の、置いてけぼりをくらう。
「また、嵐のような女だったな」
『なんだか、面倒な予感がしますな』
「やめてくれ。お前の勘はよく当たる」
*
リルの勘が当たっていたことが分かるのは、予想よりも早かった。
一時眼目の終了のチャイムが鳴ると同時に、廊下からドカドカと足音が聞こえる。
「さあ! そっちも、一時限目は魔法薬学の小テストだったでしょ! 点数は!?」
「100点」
「くぅ! 98点よ! 覚えてなさい!」
典型的な三下セリフを吐き捨て、自分の教室に戻っていく……もしかして、今日ずっとこんな感じなのか?
二時限目終了後。
「古代魔導論で勝負よっ!」
三時限目終了後。
「魔導的観点から観る呪術論でっ!」
四時限目終了後。
「モンスター生態論ッ!!」
昼食時。
「早食いで勝負っ!!」
*
『なんなのですか! あの女っ! ワタクシと主の貴重な休み時間までっ!!』
「まあまあ」
『というか早食いってなんですか!? もはや関係ないでしょう!』
それは確かにそう。
「だが、良いものだな。ライバルというのは」
『あれがライバル……ですか? 全て主の圧勝だったではありませんか』
「いや、ともに切磋琢磨し、競い合う。これぞ、ライバルというものではないか?」
……たしか、千年前にも何人かいたな。ああいう『
当時は、戦争というのもあり、あまり余裕がなかったが……今度は、共に同じ時間を共有してみたいものだな。
『む、主。昼休憩が終わる時間です。そろそろ準備の方を進めたほうが良いかと』
「お、いつの間にかそんな時間か」
たしか次の授業は……演習場での模擬戦だったな。
*
「さあ! もちろん、私と戦ってもらうわよ!」
演習場に着くと、当たり前のようにアリシアが俺の元へ駆け寄ってきた。
そうか、今日も合同授業だったか。
よく見ると、レッドやホワイトの生徒もいるな。
「俺は構わないが……。他に組む予定だった人とかいないのか?」
「ギクっ」
え? 今、ギクって言った? 口で?
「べ、別に、ア、アタシのレベルになると? 組む相手がいないっていうか〜?」
「ああ、友達、いないのか」
「ギクギクっ!?」
もはや、そういうモンスターみたいだな。
汗をダラダラ流し、口笛を吹くときのような顔をしているが、掠れた音しか出ていない。
「無理に誤魔化さなくてもいいぞ?」
「な、なによ! アンタだって友達いないんでしょ!? どの時間も、そこの犬っころとしかいなかったじゃない!?」
『誰が犬っころだ、貴様!』
珍しく、リルが半ギレになっている。
まあ、一日中絡まれていたんだ、我慢の限界だったんだろう。
「え……? 使い魔が喋ってる……?」
『はっ!? も、申し訳ありません! 主の言いつけを破ってしまいました!』
「落ち着け、問題ない」
幸いなことに、アリシア以外は離れた場所にいたためか、気付いてない様子。
これ以上騒ぎ立てなければ気付かないだろう。
「悪いが、リルのことは内密に頼むぞ。騒ぎになるとマズいんだ」
「あ、アンタ、何者なのよ……?」
「お前と同じ、ただの学生だよ」
こちらを訝しんでいるものの、騒ぎ立てる様子はない。
まあ、最悪、リルが喋ること自体がバレるのは仕方ないが……、こんな街中にフェンリルがいると知れたら、軍が出てきてもおかしくない。
それは、俺の学園青春生活が続けられなくなる、ということになってしまう。
「ま、まあ、今はいいわ! それよりも、私と戦ってもらうわよ!」
「構わないぞ」
「逃げようたって……え、いいの?」
さっきまでの威勢はどこへやら、拍子抜けした顔をしている。
なんだ? 一日中勝負を挑んできたのに、急に怖気付いたのか?
「いつもだったら、この辺で断られるのに……」
「ん? なんか言ったか?」
「な、なんでもないわよ! それじゃ、早速やるとしましょう!」
なんだか、急にご機嫌になったアリシアを訝しみながらも、皆が集まっている方に行く。
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