第7話 青春を求めて



 あれから、試験は途中で終了となり、そのまま学院に戻ってきた俺は、ブラック生の寮へと戻ってきていた。



『これが、主の住処……ですか?』



 寮の外観を観て、口をあんぐりと開けているリル。

 他の寮がしっかりした造りなのに比べ、こっちは木製で、ところどころ割れている部分があり、周りの除草もされておらず、壁面には蔦が伸びている。



「……改めて見ると、酷いな」



 ブラック生の扱いの悪さがハッキリと出ている。

 まあ、学院側からしたら、落ちこぼれたちに予算を割いてられないだろうし、そこは甘んじて受け入れるとしよう。



『なんというか、その……趣がありますな!』


「無理しなくていいぞ」



 露骨に気遣われても、むしろ悲しくなるだけだ。

 それに、入学して数ヶ月、ここで過ごしてきたのだから、なんとかなるさ。



『それで、主は、本当にこれからも学院に通うのですか?』


「ああ、その方が色々と都合がいいからな」



 元々、大戦が終わり、やることが無くなって、『未来の世界を見たいから』という理由で転生している。

 それに、あの時代では学院というものに通ったことがなかった……それなら、とりあえず今は学生生活を通して、『青春』というものを楽しんでみたい。



「そのためにも、まずは『アレ』だな!」


『アレ、ですか?』



 俺の言葉に、キョトンとした顔をする。



「決まってるだろ? 青春の第1関門、『友達作り』だよ」




                  *




「みんな、おはよう!」



 翌日、早めに登校した俺は、学院本舎の入り口で、挨拶をしていた。

 挨拶は全ての基本、友達作りのためには、明朗快活な挨拶が重要だ……と、思ったんだが。



「なあ、あれって……」


「ああ、ゴブリンキングの……」



 こちらを遠巻きに、ヒソヒソと話す生徒ばかり。挨拶を返そうという気概のあるやつはまだ、1人もいない。



(主、もう30分はその調子……今日のところは諦めてはいかがですか?)



 周りに気付かれないように、コソコソとリルが話しかける。

 しかし、俺は諦める気は無い。



(何を言う。最初から諦めてたら、友達作りなんて夢のまた夢じゃ無いか)


(ならば、ワタクシが、テキトーな人間を引きずってきましょうか?)


(いや、怯えられて終わりだろう)



 俺は、引きずられて怯えてるやつと仲良くなれるほどの自信はない。

 ……それにしても、ホワイトどころか、レッドや、ブラックの生徒まで話しかけこないとは、少し予想外だな。

 これも、日頃のコミュニケーションを怠っていた罰か……いや、諦めるのは早い! 声量が足りなかったのかもしれないしな!



「おはよう!!!!」


「きゃっ!?」



 大きく息を吸い、最大級の声量で挨拶をしてみたところ、偶然目の前を通った女子生徒を驚かせてしまった。

 これは申し訳ないことをした、すぐに謝らなくては。



「すまな――」


「――いきなり何するのよっ!!」


「おっと」



 謝罪の言葉を言い切る前に、女子生徒は持っていたカバンを横薙ぎで振り回す。

 すんでの所でそれを避け、後ろへ下がると、それを見てまた怒りの声を上げる。



「ちょっと! なんで避けんのよ!」


「いや、当たると痛いだろ?」



 何を当たり前のことを。

 俺の言葉が癇に障ったのか、ブンブンとカバンをを振り回し続ける女子生徒。

 



「アンタがっ! アタシにっ! 怒鳴って! きたんで! しょっ!!」


「それは違うぞ、怒鳴ったわけではなく、挨拶をしたかったんだ」


「こっちはアンタのせいで耳が痛いのよ!」



 その言葉を聞き、最後に大きく振りかぶった一撃を、顔で受け止める。

 魔力は纏わせず、素の肉体で、だ。

 先程まで当たらなかった攻撃が当たったことで、動揺したのか、女子生徒の手が止まる。



「え、ちょ、ちょっと、なんで止まるのよ」


「いや、正式に謝罪したくてな。もとはといえば、こちらが招いたことだ。すまなかった」



 謝罪の言葉とともに、頭を下げる。

 すると、冷静になった女子生徒は腕を組み、長い赤髪を揺らす。



「ふ、ふん! まあ? 今日のところは勘弁してあげるわよ」


「そうか、ありがとう」



 なにはともあれ、落ち着いてくれたようでよかった……あ、そうだ。ついでに。



「俺はルーネス・キャネット。ブラック生の1年だ。君は?」


「アタシ? アタシは、アリシア・アーガネットよ。アンタと同じ、ブラックの1年生よ」


「よかったら、俺と友達になってくれないか?」



 俺の言葉に面食らったのか、目をパチクリさせてる女子生徒――アリシア。

 数瞬時が流れて、キッ、とこちらを睨む。



「はあ? なに、ナンパだったの?」


「いや、そんなことはない、俺は純粋に友達になりた――」


「ごあいにく様、アタシはそんな軽い女じゃないわよ」



 そう言い残し、アリシアは足早に教室のある方へ向かう。

 その場に1人、ポツンと取り残された俺に、黙っていたリルが声をかける。



『なかなか、気が強そうな女でしたな』


「ああ、千年前でも生き残れそうな気概だったな」



 そんな軽口を言い合っていると、チャイムが鳴る。

 どうやら、アリシアと話しているうちに、始業の時間になってしまっていたようだ。



「まあ、第1回、朝の挨拶作戦は終了だな」


『主との友情のチャンスを棒に振るとは、なんと勿体無い者たちだ』


「そう言うな、何事も継続。次で頑張ればいいさ」



 さて、急がないと授業に遅れてしまう。

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