第2話 合同授業
「それでは、これより合同授業を開始する!」
ある日、僕たちは課外授業として、王都エクサスを出て、東に向かってすぐにある森林地帯――通称『ウィガール大森林』に来ていた。
ちなみに、王立アーバロル魔導学院において『合同授業』は、普段、授業は制服の色によって分けられているところを、ホワイト•レッド•ブラックの合同で受けることを言うことが多い。
「今回は試験も兼ねている! 皆、心して聴くように!」
引率の教師の説明はこうだ……といっても、至ってシンプルな内容だ。
3色混合の生徒でチームを組み、2時間以内にモンスターをより多く討伐をする。それだけだ。
あと、モンスターのランクによって評価も上がるらしい。
一般的に、モンスターは、強さや保有魔力によってランク分けされている。
零獣……1番討伐しやすい。並の魔術師なら1人で討伐できる。
低位獣……1人で討伐できるか怪しい。
中位獣……手強い。1人で戦うのは危険。複数で囲め。
と、まあ、それ以上のモンスターはこの森にはいないだろうから割愛する。
僕なりにまとめたものだけど……正直、僕は零獣にあった時点で逃げ出したい。
「まあ、この森には最高でも中位獣しか確認されていない。それも、そこそこ奥まで行かなければ出会うこともないだろう!」
良かった。そんなのに出会ったら、気絶してしまうところだった。
「それでは、確実チームを組め! 3色混合はパレット授業において最低限のルールだからな!」
教師の合図で、皆一斉に動き出す。
各々、元からの知り合いや、御家で主従関係のあるものに声をかけている。
(まずいな……、他の色どころか、ブラックにすら友達なんていないのに)
日頃のコミュニケーショ能力の無さが仇となる。
周りが次々とチームを組む中、完全に出遅れている。
誰か、チームを組んでくれる人を探さないと……。
「やあ、ルーネス•キャネットくん」
「……フィルゼ」
「昨日も言っただろう? 『様』をつけたまえ」
嫌なやつに絡まれた。
こんなやつに構ってる暇はない、さっさと誰かチームを組んでくれる人を探さないと。
足早にその場を去ろうとすると、フィルゼの取り巻きの1人に肩を掴まれた。
「おい、フィルゼ様が、お前ごときに話しかけてくださってるんだぞ? どこに行く」
「……チームを組んでくれる人を探しているだ。邪魔しないでよ」
「おやおや! 奇遇じゃないか、私もそれで君に声をかけたのだよ」
それで……? それでって、チーム集めのことか?
「それなら、僕の必要ないだろ……?」
「私もそう思ったのだが……、あいにく、私は下々民……とくにブラックの知り合いは君しかいないのだよ」
たしかに、選民思想が特に強いフィルゼには、ブラックの知り合いなんているはずがない。
イジメのターゲットである僕以外には、だ。
「どうだい? どうせ、君は高貴なるホワイトどころか、レッドにすらチームを組んでくれる人間はいないだろう?」
「それは……」
「ああ、いい。どうせ答えは分かっている」
……返事すらさせてくれないのか。
「さあ、着いてこい。どうせ、何もできないだろうから、遅れないように歩いていれば充分だ」
「……一言多いやつだな」
「んん? 何か言ったかね?」
どうせ聞こえてるくせに、嫌味な顔を向けてくる。
けど、フィルゼの言う通りだ。友達のいない僕にとって、こいつらと組むしか選択肢はない。
しぶしぶながら、フィルゼたちの後についていく。
*
森の中を掻き分け進み、十数分ほどが経った。
他の生徒が討伐したのか、元々あまり生息していないのか。モンスターは一度も見ていない。
「ちっ、中々いないものだな」
「きっと、モンスターどもも、フィルゼ様の魔力に怯え、森の奥ににげてしまったのでしょう」
「まあ、だろうな」
しばらく歩き、フィルゼがイラつき、取り巻きが持ち上げ、少し機嫌が治る。
ずっとこれの繰り返しだ。
取り巻きたちも、よく飽きもせずやるな。
「ルーネス•キャネットくん。こっちに来たまえ」
「なんで……」
「いいから、早く来たまえ」
突然の矛先の変化に、暇つぶしに殴られんじゃないかと言う不安をかかえたまま、近付く。
どうせ、逆らっても殴られる。それなら、自分から行った方がまだマシだ。
「ほら」
「うっ!? うげっ! ぺっぺっ!」
フィルゼに近づいた瞬間。懐から取り出した霧吹きを顔面にかけられ、混乱する。
め、目に入った……痛い。
「これは特別な香水でねぇ。モンスターが好む匂いを発するらしい」
「はぁ!? な、なんてものを……!」
「さ、少し前に出て歩きたまえ。モンスターを誘き出すのだよ」
フィルゼの提案に驚愕する。
も、モンスターを誘き出す香水をかけられたことだけでも考えられないのに、その状態で1人で歩けっていうのか!?
「い、いやだっ! なんでそんな危険なことをっ!」
「は? その状態で隣を歩いて、私の身に万が一があったらどうするのだよ?」
俺の身は万が一どころか、100%危険じゃないか!
俺が反論を重ねようとすると、取り巻きの1人が俺のみぞおちに膝蹴りを喰らわせてきた。
「グッ!?」
「しつけえよ。フィルゼ様がやれって言ったら、やるんだよ」
「カッ……ゲホッ、ゲホッ」
ちくしょう……。最初からこれが狙いで僕に声をかけたんだ……、そうじゃなきゃ、あんな香水を用意するわけがない。
「さあ、さっさと行けよ。フィルゼ様の役に立てるんだ。光栄だろ? 撒き餌くん」
痛む腹を抑えつつ、歩き始める。
これ以上逆らっても、縛られて放り出される可能性まである。
それなら、まだこっちの方がマシだ。
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