俺はただ『青春』を謳歌したいだけなんだ!〜古代から転生した俺が、古代魔法で無双してしまった件〜
大塚セツナ
第1話 ルーネス・キャネット
王立アーバロル魔導学院。
王都エクサスに座する、魔導を学ぶ者たちの憧れの学院である。
王都にあるということで、他の魔導学院と違い、貴族だけではなく、庶民にも入学する権利がある。
一流を魔導士の育成を担う、伝統ある学院だ。
そんな学院の、校舎の裏。
放課後になり、ひとけも少なくなった場所で、なにやら揉めている生徒達がいた。
「か、返してくれ! それは僕の教科書だ!」
「はあ? 君ごときにこれは必要ないだろう?」
「魔法もロクに使えねえ『落ちこぼれ』だもんなぁ!」
声を高らかに笑い出す同級生たち。
なんとか反撃したいが、下手に逆らいすぎると、痛い目にあるのはこちらだ。
……自分の意気地のない考えに、嫌気がさす。
「ひゃひゃひゃ! フィルゼ様、見てくださいよ、コイツの情けねえ顔!」
「おい、下品な笑い方は辞めなさい。フィルゼ様の品位に関わります」
「へへ、すいやせん」
取り巻きの様子を見て、リーダー格の男――フィルゼは満足そうに頷く。
こいつ……フィルゼは、表向きの顔に執着する。
僕のような『ブラック』の生徒とはいえ、イジメている姿も、乱雑な態度も、教師達に見られるのは好かない。
だからこそ、こんな放課後の、ひとけがない場所に連れ込まれた。
「さて、ルーネス•キャネットくん?」
「……なんだよ」
「『どうなさいました、フィルゼ様』、だろっ!」
フィルゼの拳が、みぞおちに打ち込まれる。
激痛が走る中、フィルゼの顔を睨みつける。
「ヴッ!? ……くっ」
「……なんだ、その眼は? 私に逆らおうとでも思っているのか」
「……別に」
「チッ……もういい、そんなやつ放っておいて、私の部屋でパーティでもしよう」
フィルゼは、不機嫌そうな顔をしつつ、踵を返し、去っていく。
他の取り巻きたちたちもそれに続くが、取り巻きの中でも一際体格のいい男は、こちらを睨み、唾を吐きかける。
「ぺっ! ……痛い目を見ないうちに、さっさとフィルゼ様に服従するこったな」
体格のいい取り巻きは、それだけ言い残し、フィルゼたちの跡を追うように去っていく。
「いたた……クソッ……教科書もボロボロじゃないか」
フィルゼに殴られた箇所をさすりながら、なんとか立ち上がり、宿舎へと向かう。
*
『貴族だけではなく、庶民にも入学する権利がある』
こんなのは、表向きの、体裁のためのだ。
実際、入学し、授業を受けるということはできる。
しかし、先ほどのフィルゼたちのような、『貴族派』と呼ばれる、血統主義の連中によって、学院内では差別によるイジメが起きている。
彼ら貴族は、生まれつき魔法に対する適性が高く、選民思想が強い人間が多い。
基本的に、庶民や、爵位の低い貴族は赤い制服――通称『レッド』なのに対して。
白制服――『ホワイト』のほぼ全ての人間は、中流以上の貴族で構成されている。
そして、僕の所属する『ブラック』は、文字通り黒い制服を着ている。
まあ、フィルゼたちの反応でご察しだと思うが……。学院において立場は最底辺。ギリギリ入学ラインに達しているだけの、魔導に愛されなかった者や、素行不良ら成績不振で落とされる先……。
いわゆる、『落ちこぼれ』だ。
「チッ、学院の面汚しが」
「っ!」
偶然横を通ったホワイトの生徒が、足を引っ掛けてくる。
フィルゼたちに暴行を受け、フラついていた体では踏ん張ることもできず、そのまま転んでしまう。
……また傷が増えるな。
「あ、先生! ちょうど良かったです! 実は授業で分からないことがありまして……」
「ほう、勤勉ですねぇ」
足を引っ掛けてきたホワイトの生徒は、僕を無視して、偶然通りかかった教師に声をかける。
声をかけられた教師は、地面に這いつくばる僕を一瞥し、興味なさげに顔を逸らす。
この学院においての『差別』は、生徒間だけではなく、教師にも黙認されている。
「ああはなりたくない」という思いが、生徒たちの向上心につながる。らしい
(悪い人ばかりじゃないのは、分かっているんだけどな……)
決して、全員がこういう対応なわけではない。先生やレッドの中にも、ごく稀にだけど、ホワイトの中にだって、差別をしない人間はいる。
けど、その人たちも、「巻き込まれたくない」という気持ちが強く、助けようとしてくれる人間は、もっと少ない。
(友達でもいれば、また違うんだろうけどな)
ブラック同士。虐られる者同士で徒党を組めばなんとかなるのかもしれないけど……正直、無理な話だろう。
他の人間がターゲットにされている間、自分は安全だ。
逆に下手にかばおうとすれば、自分の身が危ない。
しかも、ここは魔導学院。魔法が扱えるもので構成されている以上、下手にホワイトの機嫌を損ねれば、社会的にも、物理的にも命の危険すらある。
(みんな、自分が大事なんだ)
それは、決して悪いことじゃない。
死んだらそこまで。死んでからじゃ何もできない。
「はぁ……お風呂、入りたい」
ナイーブな気持ちになり、ゴチャゴチャしてきた自分の思考を洗い流したい。
どうせ考えても、自分にそんな力なんてないんだから。
「あ……。教科書、新しいの貰わないと」
……いや、明日でいいや。今は、さっさと体を洗って、横になりたい。
痛みを訴える体を支えながら、たどり着いた寮へと入る。
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