第5話

 カストルは文字が読めない。俺もだけど。そのため、ステータスの読解には苦労するかと思われた。


 ところがそんな心配は杞憂に終わる。


 なんとご丁寧にも、俺のステータスは日本語で書かれていたのだ! 助かる!


 カストルは日本語もこの世界の言葉も読み書きできないが、それでも内容はわかるらしい。


 どうも、ステータスの見え方には個人差があるようだ。ステータスはこの世界では身体機能の一部のようなものなので、本能的に理解できる形で表示されるらしい。それこそ、右も左もわからない赤ん坊でもステータスは内容を理解できる。そういうもののようだ。


 ともかく、俺はカストルとステータスが別々であることに気が付き、カストルと作戦会議を行った。


 カストル代表。報告を。


 参謀殿。わかりました。こちらが私のステータスです。


 カストルとまじめな会話をするときは、会議室のイメージである。カストル代表と参謀の俺。計二人の作戦会議だ。


 さて。カストルのステータスを見る。


カストル Ⅼv1

職業【赤ん坊】

MP:2

体格:1

力:3

魔力:2

器用:1

素早さ:1

賢さ:1

残りSP3


スキル

なし

称号

なし


ついでに、俺のステータスがこれ。名前は前世のままのようだ。


山内匠 Lv1

職業【赤ん坊】

MP:2

体格:1

力:1

魔力:1

器用:3

素早さ:1

賢さ:14

残りSP3


スキル

なし

称号

【転生者】


 ふむ。基本のフォーマットは同じのようだ。職業、レベルも同じ。

 

 赤ちゃんって職業なのか?とは思うが、職業ですと言い切られると自信がなくなるな。要検証だ。


 さて、気になる箇所はいくつもある。一番想像と違ったのは、俺とカストルで各項目の数値が異なることだ。


 力と魔力はカストルのほうが高い。一方、器用と賢さは俺のほうが上だ。


 体は同じなのに、なんで差がでるのかわからん。力とか、普通同じだろ。


 え、カストル、お前俺より力強いの? ちょっと試してみるか。


 庭にでて、手ごろそうな石を持ち上げる。


 大人のこぶし程度の石だが、推定二歳半の俺には重い。投げてみるが、五メートルほどしか飛ばなかった。


 カストル、やってみて。


 いいよ。兄ちゃん。


 カストルは片手でひょいと石を持ち上げると、振りかぶって遠くに投げた。


 推定十メートル。ちょうど俺の倍だ。圧倒的敗北。


 知らなかった。カストル、お前力強いんだな。


 きっと、体が同じでも、体の使い方の上手さとかで差が出るのだろう。くやじい。もう一本だ!


 俺の投げた石は、さっきよりも飛ばなかった。どうやら体の疲労は共通らしく、肩が痛くなった。



 力比べで完膚なきまでの敗北を喫した俺は、仕方がないので賢さでマウントを取ることにした。


 カストル、賢さ1って(笑)低すぎでしょ。


 まあ二歳だし仕方ないかな(笑)


 俺? 俺は14。カストルの十四倍(笑)


 カストルは無視してくるが、俺は必死に続ける。


 許せ、カストル。これは、兄ちゃんの尊厳を守るために必要なことなんだ。兄ちゃんは弟に負けてはいけないんだ。


 続けていると、カストルから反応があった。


 ん、ごめん寝てたよ。どうしたの兄ちゃん。


 え、あ、ああ。カストル。俺は賢さ14だ。お前の十四倍えらいんだぞ。


 え! そうなんだ! 兄ちゃんすごい!


 う、うん。


 そっかあ。兄ちゃん昔から頭がよかったもんね。すごいなあ~。


 そうだな。ごめんなカストル。兄ちゃんが間違っていたよ。


 え? なにが?


 弟のピュアな心がまぶしいぜ。俺はこんなに純粋な弟にマウントをとっていたのか。恥ずかしくて涙がでてくるぜ。


 本当に涙が出てきた。俺はカストルに、目にゴミが入ったとバレバレの言い訳をしたのだった。入ってないよ?とカストルは不思議そうにしていた。





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ステータスが二個あるんだけど 熊野石鹸 @gyunyui_i

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