第4話
「ちゅてーたつおーぷん」と声を出したが不発に終わった。虚空を見つめていたママがこちらを向く。
「どうしたの、カストル。なんて言ったの?」
俺は、ママの問いかけを無視してたずねてみることにした。
「ママ! 今、なに見てたの?」
「何って、ステータスだけど」
おお!! やはりステータスを見ていたんだ。
そうかそうか。この世界はやっぱりステータスがあるタイプの異世界だったか。それならそうと早く言ってくれ。
ステータス。なんて魅力的な響きなんだ。
ステータスがあるってことは、きっとレベルやスキルなんかもあるんだ。俺は詳しいんだ。
はじめの村でスライムを大量に超効率的に倒したりしてさあ。そんで、ものすごいレベルを上げてから俺つえーするんだ。うへへ。
「なにニヤニヤしてるの? カストル、気持ち悪いわよ」
おっと失敬。
俺が体の主導権を握るとき、時々キモい顔をしちゃってるようだ。俺のキモさで周囲の評価を落とすのは、カストルに申し訳ないからな。気をつけねば。
表情筋をリセットして、自然な笑顔でママにたずねる。
「ママ、その、ちゅてーたつってどうやって見るの?」
「え、どうやってって……え、カストルあなた、もしかしてステータス見てないの?」
しばしの沈黙。
ママが呆気にとられた表情でこちらを見ている。なんか気まずいな。
「そんなことあるのかしら。みんな自然とできることだと思ってたから、考えたこともなかったわ」
むーっ、といった表情で、ママが首を傾げる。
おいおい、想像とちがう展開だぜ。もしかしてみんなステータス見えてんのか。
俺だけ見えないなんて、そんな逆チートはよしてくれよ。
なあ、カストル! お前、ステータス見えてるのか?
んー? ステータスってのはわからないけど、さっきママが見てたやつなら見えてるよ。
はー!? いつから見えてたんだ!? なんでそんな大事なことを内緒にしてたんだ!?
え? はじめから。聞かれてないから。
はいでました、聞かれてないから。お前みたいなやつは社会でやっていけないぞ。報告・連絡・相談は基本だから! ばかやろう!
というか、兄ちゃんは見えてないの?
見えん!!
ちなみにカストルは俺のことを兄ちゃんと呼ぶ。おじさんと呼ばれたら立ち直れないから、兄ちゃんと呼ぶようにお願いした。年の離れた兄弟ができたようで、ちょっと嬉しい。
その後、なんやかんや練習したら、俺にもステータスが見えるようになりました。めでたしめでたし。
感覚としては自転車に近い。
前世で初めて自転車に乗ったときは、何度もころんで傷だらけになりながら練習した。ところが一度乗れるようになると、自転車は手足のように動くようになる。なんでこんな簡単なことが、今までできていなかったのか。不思議で仕方がない。
あるいは、呼吸。生まれたときには当たり前にやっていて、できなかったことがない。しかし、考えてみるとなかなか高度なことをやっている。体をポンプのように膨らませたり縮ませたりして空気を取り入れる。考えながらやると実は難しい。
ステータスを見ることは、それらに似ていた。鳩尾から新たに腕を一本生やして操作するような、未知の感覚。
コツをつかんだらなんてことない。だが、異世界から来た俺にはコツをつかむのにも一苦労だった。
そこで、俺は異世界転生の特典をつかった。カストルに手取り足取り教えてもらったのだ。
カストルは無意識にステータスを見ることができたらしいが、それを俺に教えるように、丁寧に何度も再現する。体の感覚は共通していたため、簡単に慣れることができた。
カストルの存在は俺にとってチートなのかもしれないと思った。一人で異世界転生していたら、ずっと俺だけステータスが見られないままだったのかもしれない。
「しかし、これは」
俺はいつになく真剣に考え込んでしまった。
予想と違ったのだ。
カストルがステータスを見ているとき、同じ体を持つ俺にステータスが見えていない理由。
ステータスは、俺とカストル、それぞれに存在していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます