安寧(2)

「死にたいというより消えたい」とよく聞く。死ぬよりも、自分の存在が無かったかのように何にも影響しないように消えたい、と。私はそれには当てはまらない。

 死にたい。

 自分にはできるだけ残酷で悲惨な死を迎えてほしい。私は、自分がこの世に存在しているという事実そのものが受け入れられない。今すぐに殺したい。もし私の目の前に私と同じような人間性を持ってしまった人間が現れたならばすぐに殺すだろう。私が今まで生きてきて殺されなかったことの方が不思議だ。それくらい救いようのない人間なのだ、私は。

 そもそもと言うのも受け入れ難い。私は自分のことを人間だと思えない。人間ではなく、ごみとかそういう部類だと思う。卑下とか自己肯定感が低いとかそういうのじゃない。割と本気で思っているので、自分は不燃ごみなのか可燃ごみなのか考えることがよくある。燃えないほどに最悪の人間性を持っているから不燃だろうか。はたまた、やはり火葬される部類の生物を装っている自分はあっけなく燃えてしまいそうでもあるから可燃だろうか。そんな具合で、入るごみ箱を真剣に考える。やっぱり不燃な気がするなあ。

 消えたいわけではないけれど、他人に迷惑をかける死に方はしたくない。車道に飛び込めば運転手を犯罪者にしてしまう。あからさまな自殺をすれば親や周囲の人間が吊し上げられる可能性が高い。死に方選びも難しいものだ。けれど、他人に迷惑をかけずに、かつ悲惨に死ねる方法がある。それは猟奇殺人の被害者役をやること。殺す側の希望も死にたい私の希望も叶えられる。誰か猟奇殺人したい人いませんか?私が殺される側やりますよ。

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短編 広瀬 空 @u_tsu_ro

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