追放令嬢 第3話 ゴブリン(1)

 私はゴブリン集落の広場にある大きなイスに腰掛けています。

 少し汚いですがハンカチをお尻に引いているので大丈夫です。


「ふむ」


 私が何か声を上げる度に、大きな葉っぱでこちらを扇いでくれているゴブリン達がビクビクと怯えます。


 イスは汚いですが悪くない歓待なので罰を与えるつもりはないのですが、言葉が伝わらないのは少し面倒ですね。


 仕方が無いのでイスの傍らに置かれている杖を手に取った私は、それを使って地面に絵を描きます。綺麗に磨かれていたので汚れ具合は許容範囲内です。

 こちらのことをあり得ない物を見たような目で見てくるゴブリン達の目は気になりますが、木の棒をちょっと汚すくらいは許して欲しいです。


 彼らにとっては素晴らしいモノを書いてあげているのです。


 ゴブリン達は私の描いた絵をのぞき込み、小躍りし始めました。


 ゴブリンは人間ブタさん並みに悪知恵が働くと本で読んだことがあります。

 その話は本当だったみたいです。すぐに木片や小石を使い私の描いたモノを再現し始めると、少しずつ規模を大きくして木や岩を指さし材料をどうするか話し合っています。


 私がゴブリンにみせたのは環集落の環濠集落の図です。


 現状のゴブリン集落は木製の簡素な柵に囲われているのみであり、何の防衛力も無かったので防衛アイディアをプレゼントしてあげました。


 木の実についても知識を与えてあげた方が良いかもしれません。

 差し出してくる木の実は美味しいですが、腹痛を起こす程度の毒のあるモノが多いのです。ちなみに私は貴族の嗜みで少しずつ服毒して耐性を付けているので、効きませんから大丈夫です。


 嫌がらせで盛られた時のために耐性を付けておいた甲斐があります。


 もしかして効かないのかもしれないと、試しに近づいてきたゴブリンの子供に分けてあげたら、トイレらしき異臭のする場所へ駆けていきました。


 毒性のある食べ物を見分けられないのは困ります。

 言葉が伝わらないので、軽く食べさせながら教えてあげましょう。


 そんなことを考えていると、ゴブリン達が不思議なことをし始めました。

 広場の中心にある大きな木の周囲を同じ振り付けで踊り出したのです。腰みのをカサカサ、骨で作られた装飾品をチャカチャカと一心不乱に振り乱しながら踊っています。


「ギャッギャ!」


「アーイウー!」


 急にどうしたのでしょうか。

 南方の国々で似たことをする人間ブタさんがいるという噂を聞き驚いていましたが、まさか森の中で実物を見ることになるとは思いませんでした。


 不思議な光景を葉っぱで扇がれて涼みながら眺めていると、突然に木が輝きます。

 輝く木からは美味しそうな果物や製材された木材、オマケに小さなゴブリン達が降り注いできました。


 おかしいです。

 魔力探知では全く存在していなかった生き物や物品が急に現れました。

 私の魔力探知は小規模な街を覆う程度の感知範囲と、ネズミも逃がさない精度があるので、この場で現れたということになります。

 種族に伝わる何らかの古式の儀式なのでしょうか。生命を誕生させる神秘の儀式とは、大変に興味深いです。良い物を見せて貰いました。


 降ってきたゴブリン達の成長は一瞬でした。

 踊った後で汗だくなゴブリン達から果物を与えられたミニゴブリン達はみるみる成長していき、他のゴブリンと変わらない見た目まで一瞬で成長しました。ここまで成長が早いと、人間ブタさんの誇る早熟さは、ゴブリンに譲った方が良さそうです。 


 広場の端で気絶したまま転がっているクチバシ鼻のゴブリンのように特徴のあるモノも居ますが、緑の肌に腰程度の身長というのは一定みたいです。私にハグしようとしてきたデカゴブリンは突然変異という奴なのでしょう。


「これから集落を環濠集落に改造します!」


 私は立ち上がり、宣言します。

 言葉が伝わらなくても雰囲気は伝わるのです。その証拠に他のゴブリン達もそれぞれ好きに叫びながら立ち上がり、製材された木材を協力して持ち上げたりボロい家から木製のスコップを持ち寄ったりしています。


 雨露を凌ぐ家がマシになるのは大歓迎なので、私も多少は手伝ってあげましょう。

 使えそうな働き手のデカゴブリンを気絶させてしまったし、多少の肉体労働に勤しむのも、やぶさかではありません。

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