少女inおっさん 第4話 おっさんマイスター(1)

 金属のこすれ合う音と油の匂いの香る工房にて。


 鉄錆のゴーレムを引き連れたミーナは、ゴーグル付きのフェイスガードを被ったメカニックと価格交渉していた。


「はぁ? 足元見てんじゃねぇぞ。工具と工房の端を借りるくらいなら、音声の魔道具一つでお釣りが来るだろ!」

「全くわかっとらんな! 他人に商売道具の工具を触らせるんだぞ! もしもの為の保険じゃ保険! 音声の魔道具と光学式の読み取り魔道具は貰わんとな!」


「強突く張りが! 材料は当然自由に使うからな!」

「ほっほ! ケーブルはお主の両手を広げた長さまで、魔術触媒は下級のみ、じゃ。それ以上は別料金」


 頭突きしそうなほど顔を近づけて威圧するミーナだが、少女がやっても可愛らしいだけでメカニックに対して大した威圧にはなっていない。


「かー! ドケチ! あっ耐汚染の帽子を普通に買うわ」

「ケチで結構じゃ! 毎度あり。その耳に合いそうな奴を探してくるぞい」

『楽しそうだねぇ。ちゃんと覚えていてくれてありがと』


 交渉を済ました後、お互いにスンと普通の態度になった二人は特に交渉も無く、奥から引っ張り出された耳の形に膨らみのある帽子と紙幣を交換した。


「こっちに来てくれ」

「大丈夫なのか?」

「おうよ! 任せておきたまえ。まずは真っ二つのお嬢さんから直そうか」


 ――ミーナの金目が弧を描く!


   ――z__

 【魔術A】【整備A】【魔導A】

  ――z__


 鉄錆ゴーレムの心配を余所に、帽子を被ったミーナは芝居がかった動作で工具をとると、女性型ゴーレムの首後ろにあるメンテナンスハッチを手慣れた様子で開いた。



 楽しげに調整用端末片手に通信ケーブルのジャックを突き刺した彼女が、付属の小型キーボードを使い高速で何やら入力する。

 一瞬赤く輝いた女性型ゴーレムの上半身は再起動を果たし、第一声を上げる。


「なんじゃこりゃあ! 下半身が無くなってるんですけど!」

『それはそうなの。ビックリするよね』


「おっ、元気そうだな! キレーに斬られてたから、ほぼ無事だったっぽいぜ」


「凄いな」


 女性型ゴーレムの両手で頬をはさみながらの第一声に対してそれぞれに反応するミーナ一行。


「ちょっと見知らぬ皆さん!? 私みたいな美少女が大変な目に遭っているんですよ! もっと騒いで! 心配して!」


「おっ、そうだな。先にお嬢さんの下半身をつないでおくか。ケーブルを取り替えーの端子を差し替えーの……どうだ?」


 素早く新たなケーブルの末端処理をしてみせたミーナが、騒ぐ女性型ゴーレムのちぎれたケーブルと入れ替えると下半身もジタバタと動き出した。


「私の美しい下半身ちゃん! そんなところに居たんですね!」

『離れた下半身が動いてるの』


「ふはは! 上と下で別々に動いてるのも愉快だな! お前の名前は……Aパーツ+Bパーツで……ABに決定だ!」


「何ですかその名付け方は!? しかも勝手に名称登録されてるし!」


 ケーブルだけで上半身と下半身の繋がれた女性型ゴーレム改めABは、勝手に変な由来の名前を付けられたことに抗議しつつ、それが正式に登録されているので頭を抱えた。


「次はワゴンセールを直してやるからな。手軽な錆取りから始めるぞ」

「お手柔らかに、頼む」


「もっと凄い名前を付けられてる人も居た!? というか早くくっつけて!」

『あっ、ゴーレムさん的にも凄い名前なのね』


「ちと手間がかかりそうだし、後でな!」

「すまないなAB」


 騒ぐABを無視したミーナは、錆取り研磨機を片手にワゴンセールの整備に取りかかる。

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