ワインの木

@kitanokaneuo

ワインの木

マスカットシャンデリアを作ったおじさんが、またまたおかしな物を作っているというので見に行きました。

今度も葡萄だというのです。

「また葡萄で変な物作っているみたいですね」

「変な物と言うな。立派な葡萄だぞ」

「でも普通の葡萄じゃないでしょ」

「ああ、普通じゃないな。マスカットシャンデリアが果汁が多くて美味しいから、これでワイン作ったら美味しいでしょうといわれてね」

「まさか、ワインの木、作っちゃたの」

「そうだよ、葡萄の実からワイン作るより、木に果汁だけ貯めさせる方が美味しい物になるだろう。ワインって葡萄の果汁を発酵させただけで、できるから以外と簡単なんだ」

「それはそうでしょうけど、そんなに上手くできないでしょ」

「それが素人の考え。こっちに来て」と案内されたところには葡萄の木が一杯。

「なんですか、これ」葡萄の木に近づいて、蔓から下がっている実を見てびっくりです。

葡萄の実が、一粒毎にミニミニサイズのボトル型なのです。

「どうだ、どうせワイン作るならこれくらいしないとね」と言っておじさんが笑うのです。

一粒というか一瓶もいで飲んでみると、甘くて口当たりの良いワインです。

「美味しい、でも、このサイズじゃ飲んだと言うより舐めた感じ」

「そう言うだろうと思って、こちにはもう少し大きいのもあるよ」

と言われた方に行ってみると、ミニサイズのボトル型の葡萄がありました。

「やっばり、これくらい無いと飲んだとはいえないよ」

一房分の果汁が詰まったボトル型の実です。

「この実を摘んで保存すれば、何年も熟成できるから便利だろう」

「でも、皮だと腐りませんか」

「何年持つかはまだ分からないけど、葡萄の木が言うには、10年くらいは大丈夫だそうだ」

「凄いね、この木を売って一儲けですね」

「期待はしてるけど、まだまだ問題があってね」

「ワインは美味しいし、手間もかからないのなら、もう改良するところなんてないでしょう」

「葡萄って個性が強いんだよ」

「それがワインの美味しさになるでしょ」

「そうなんだけど」

と言われて案内された葡萄畑には先程見た葡萄の木とは違った感じの木が並んでいました。

「これは」

「こいつら変わってて、上戸と下戸がいて上戸だと自分で作ったワイン、自分で飲んじゃうのだよ。下戸はワイン知らないから、葡萄ジュース作るし」

「葡萄ジュースも良いじゃないですか」

「まあね、でも、自分で飲むのはだめだよ」

「これ、変わった実を付けてますね。ボトルが逆立ちしてますね」

「そいつの口を開けてみろよ」と言われて逆立ちボトルの口を開けました。

中から一滴も出でこないのです。

「全部飲んだという印なんだそうだ」

「そんなことも、洒落てますね」

その奥の葡萄の木は真っ赤になっています。

「酔っ払っているんだよ、その木は。真っ赤になって仕方の無い奴だよ」

その奥には隣りの木に絡みついているのもいます。

「酒癖の悪いのは人と同じみたいだ」とおじさんが言うのです。

「ところで、種なし葡萄ってどうして増やすんですか」

「葡萄はみんな種あるんだよ。その種を無くすジベレリン処理液に一房毎に浸けて、受粉しなくても実がなるようにしているんだよ。そんなことも知らないのか」

「いえ、確認だけですよ。どうしてオヤジさんのところは娘さん一人だけなんだろうと思って」

「できない物は仕方ないだろう」

「いえ、オヤジさんのところのお風呂、他の家のお風呂とちょっと違ってたなと思って」

「他の家の風呂なんて知らないから、違うのか」

「ええ、ちょっと薬品の匂いがしたから、もしかした奥さんがお風呂にジベレリン液を入れていて、おじさんを種なしにしたのかなと」

「何でそんなことするんだよ」

「あんなに言うこと聞かない娘さんが、もう一人できたら奥さんも大変でしょうから」と言ったところで、目から星が出ました。

余計なことを言って、私も悪酔いしたかも。

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