第18話 次なる目的地

 「どうやら助かったみたいですね」

 「ダダンのおかげで助かったな……」

 

 「……マネル兄様達はどうなりましたか?」

 ソフィー様のその発言に、リタ姉とジェノ侯爵は顔を顰めた。


 「全員死んだよ大将。ドラゴンのブレスのせいで真っ黒に焦げてるよ」

 「リッキーそうですか……どの遺体が、マネル兄様か分かりますか?」

 「どうだろうな? ジェノ侯爵とリタなら分かるんじゃないのか?」

 二人は言葉を出さずに首を横に振った。


 「どの死体が、どいつなのか分からないとよ」

 「分かりました。それでも遺体を集めてもらえますか?」

 リタ姉はソフィー様を下ろして遺体を、ジェノ侯爵も無言で遺体を一か所に集め出した。ただ突っ立って訳にもいかず、俺も同じ様に遺体を集めた。


 一か所に並べられた遺体を前にソフィー様が佇む。

 「ジェノ侯爵、あれを」

 「はい」


 ジェノ侯爵からソフィー様へと手渡されたのは、お坊さんが右手に持つシャンシャンと鳴る錫杖しゃくじょうのような物だった。


 そんな杖を持ったソフィー様は、遺体を前にして舞い始めた。優雅に、そして可憐に舞う姿に、遺体を尊ぶかのような、さながら鎮魂の舞といったような。


 舞っているその姿に、目が奪われる。さらにそれだけじゃない。


 「おいリッキー!」

 「なんだよ!?」

 「あれって……お前も見えてるのか?」

 「ああ、見えてるよ」


 ソフィー様の舞いに呼応するように遺体がほのかに光り出し、心臓辺りからソフトボール程の何か、あれはきっと魂、人魂が出ていた。そしてソフィー様の周りをウヨウヨと浮遊している。

 「魔法じゃ……ないよね?」

 「カーミカミカミ! 不思議じゃん!」


 「あれがソフィー様の持つ不思議な力なのです。これからのパンプキン王国を担っていく人物は、ソフィー様以外にいないと私は思っています」

 「こんな姿を見せられると、そう言いたくなる気持ちも分からなくもないよな? なあダダン?」 

 「そうだね。そう思うよリタ姉」


 ソフィー様の舞いが終わると、人魂は天に昇っていくように空へと向かっていき、消えていった。地面に並べられた黒く焦げた遺体は、舞いによって、雰囲気が何処と無く朗らかになったとせえ思えた。

 きっとそれぞれの魂は、穏やかに天に昇れたのに違いない。


 「これで少しは安らかに眠りにつけたと思います」

 「少しじゃありませんよ。ぐっすり眠りにつけたと思いますよソフィー様」

 「なら良いのですが。ところでダンジョンの秘宝は見つかったのでしょうか?」


 「「あ!」」

 そう言えばそうだ。元々はダンジョンの秘宝目的でもある。でも、周りを見ても何かあるようには思えない。

 手分けしてあちこち探ってはみたが、何も見つかる事はなかった。


 「ドラゴンは居ましたが、ドラゴンの秘宝はありませんでしたね」

 「とりあえず、ここから出るか!」

 「出るってリタ姉……どう出るんだ?」

 「あぁ!? ドラゴンが開けてくれた穴から出てもいいしな」

 「ここを??」

 とても普通に登っていける距離じゃない。


 「ちっ! しょうがないな。皆ダダンに近寄ってくれ。俺様の浮遊魔法を使う」

 押しくらまんじゅうをするかのようにくっつくと、リッキーが魔力を込めた。体がフワフワと浮遊感に包まれていき、地面から足が離れて浮き始めた。


 「おおおおお、なんだこれ!」

 「ベロベロベロベロベロベロ!」

 「うるせー! 集中してんだよ!」

 俺達は、そのまま穴を通じて外に出る事が出来た。


 「戻るにしても、今日中にバジルの森を抜ける事は出来なそうですね」

 「今日の朝に居た、あの場所で一夜過ごして、朝になったら出ようか」

 「そうですね。リタの言う通りにしましょう」

 

 俺達は、この遺跡に通じていた地下通路に戻り、一夜過ごした。

 そして次の日になると、朝早くから出発してバジルの森を抜けていく。


 来た時とは違い、森はやけに静か。魔物の気配も感じられなかった。

 そっちの方が好都合か。魔法の使えないバジルの森を安全に抜ける事が出来る。

 何かに襲われるかとも思ったが、そんな事はなかった。ラッキー!

 俺達は何事もなく、バジルの森を抜ける事が出来た。


 「抜けたー! これで魔力も使える!」

 「さてと! これから何処を目指しましょうか?」

 「えっ!? この先の事、考えてないんですか?」

 「ベロベロベロ、ベロベロベロ!」


 「おい! すいませんソフィー様!」

 「あら? この子は一体何なのでしょうかね?」

 「ベロベロベロベロベロベロ」


 「どうなのでしょうか? よく分からないのです」

 「プニプニしてて可愛い生物ですね!」

 「ベロベロベロベロベロベロ」

 クソッ。あいつなんだよ急に! 羨ましいぜ。


 「名前は何て言うのですか?」

 「まだ決めてないです」

 「ベロベロベロ」


 「私が決めてもいいですか?」

 「勿論いいですよ! むしろお願いします」

 「特殊な鳴き声をしていますからね。ベロンでどうですか? 可愛らしいでしょ?」

 「そのまんまだ――」

 リッキーの口を塞いだ。


 「可愛いと思いますソフィー様!」

 「おーい! 二人共そろそろ行くぞ!」

 森の入り口で置いてきた馬車に乗り込んだ俺達は、行き先は決まらないまま出発した。


 「侯爵! 特にこれから行く場所決まってないんだろ?」

 「ええ、決めてないです」

 

 「なら私の故郷にでも行かないかい? そこなら簡単に狙われるなんて事はないと思うよ」

 「リタの故郷ですか? 場所はどこなんですか?」

 「海沿いの街、ビーンズ」

 「海ですか!? 私って海を目の前にした事が無いんですよ。行ってみたいです!」

 「ソフィー様が言うなら決まりだな! それじゃあ行くよはいやっ!」


 俺達の次なる目的地は、リタ姉の故郷ビーンズに決まり、ビーンズに向かって馬車を走らせていった。

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