第17話 黒い生物×黒い生物×桃色の生命体

 俺達は、一体どこかへ飛ばされたのか……。

 白い光が消えていくと共に、熱い熱風と何かが焦げたような臭いが鼻腔びくうを刺激した


 「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 叫ぶ声が聞こえてそっちへ目やると、さっき会ったマネルの兵士達が何かと戦っている様子。


 いや、あれ? まさかね……。

 薄暗く、大きな部屋の中で大きな図体が動くのが見える。羽が生え爬虫類のような鱗に覆われた、おとぎ話ではよく見た生物。あれってドラゴンだよな……。

 唸り声のようなものを出しながら、口からは赤い火がユラユラと漏れていた。


 「こりゃあ、大変な事になったね〜」

 リタ姉がため息混じりの言葉を出した。


 「まさかこんな場所にいるとは考えもしませんでした。ドラゴン」

 「えっ!? ドラゴンだって!?」

 あれがやはり、ドラゴンという生物か……。


 マネルの兵士は、ドラゴンに火を吹かれ、叫び声を上げながら火だるまになっていく。さらに噛み付かれ、噛みつかれた状態で首を振るドラゴン。口に加えたおもちゃを投げ飛ばすように兵士を投げ飛ばすと、その兵士はこっちに向かってきた。


 ドサッ!

 丁度俺達の目の前に降ってきた。

 真っ黒に焦げた人間、ギリギリ人間だったと認識が出来る人間の死体だった。あそこにも、あそこにも同じ死体が転がっている。マネル達は全滅か……。


 「ねえ、ねえ、リタ!? ドラゴンってどんな生物なのですか!?」

 「この世界で最強の生物だね」

 「リタでも勝てないですか?」

 「一瞬でやられちまうよ」

 ジェノ侯爵とリタ姉の緊迫した表情とは裏腹に、ソフィー様は、好きなおもちゃを目の前にした子供のようなウキウキした表情と声をしている。

 それにしてもリタが、一瞬でやられるってどんだけ強いんだよ。


 「ドラゴンか! 俺様にはピッタリの相手だな!」

 「リッキー勝てるのか?」

 「ふっ。相手はドラゴンだぞ! 勝てる訳がないだろ!」

 腰に手を当てて胸を張り、自信満々に言い切るリッキー。


 「勝てねぇーのかよ!」

 「カーミカミカミ」

 勝てるかのような雰囲気を出していたので、思わず突っ込んでしまった。しかし、リッキーが呆気もなく言い切るって事は、本当に勝てないんだろう。


 「リタ。ソフィー様を連れて逃げる準備してもらえますか? 私とダダンでドラゴンを食い止めます」

 「ジェノ侯爵何を言っているのですか? 私も戦います」


 「いえ、それだけは絶対になりません。リタと逃げる事だけを考えて下さい。リタ頼みます」

 「いいのかい? ジェノ侯爵が逃げなくて。あんた侯爵だろ?」

 「まだまだ戦いは続きます。私よりもリタが生き残った方が、勝つ可能性がありますから!」


 そんな話をしていると、ドラゴンが俺達の存在に気付き、こっちに向かってきた。

 

 おいおいマジかよ……。

 一歩一歩向かってくる度に迫力と圧力が増していく。今まで大きな魔物と相対した事も、命がけの鬼ごっこもしてきた。

 だけど、こいつだけは別格。生物として明らかに上位で捕食者。食物連鎖の頂点。


 ドラゴンが息を大きく吸い始めた。胸の辺りが風船のように膨らみ始める。

 「ブレスがきます!!」


 吸い込んだ息を炎と共に一気に吐き出すドラゴン。

 「アクアウォール!」

 侯爵の発声と共に、目の前に水で出来た大きな壁が聳え立ち、ドラゴンのブレスを防いでいく。


 「流石は侯爵。こんな場所でこれだけの水魔法を出せるのは大したものだな」

 「感心してないで、リッキーも手を貸せよ!」

 「しょうがないなー。侯爵! 俺様も手伝うぞ?」

 「お願い……します」

 侯爵の方を見ると、苦しそうにしている。大量の魔力を消費しているんだと思う。


 リッキーから魔力が溢れ出し始め、バンザーイと手を上げた。すると、地面が揺れだし、床から壁が出現した。

 

 「魔法解いていいぞ侯爵。俺様が、ブレスなんか防いでやる!」

 「分かりました」

 リッキーが両手を前に突き出して魔力を注ぎ続けている。

 ブレス一回でどんだけだよ……。


 ドンッ! ドンッ!

 と地面に鉄球が落ちているような鈍い音が近づいていくる。


 「キタキター!!」

 次の瞬間、リッキーの壁が勢い良く破壊され、ドラゴンの姿が手の届く範囲に。

 とつもない迫力だ。ゲームや映画でしか見た事が無いドラゴンを目の前にして、恐怖と興奮が入り交じりながら心は躍っていた。

 ドラゴンは黒い鱗に覆われていて、漆黒の色にかかわらずエナメル質の素材のようにキラキラと輝いていた。


 「リタ逃げろ!」

 侯爵のその一言で、ソフィー様を背負いながらリタ姉がドラゴンの横を抜けようと試みる。が、ドラゴンの尻尾による薙ぎ払いを食らってしまい、再びこっちに戻されてしまった。

 それにしてもこんな図体で、あんな俊敏な動きをするのか。ドラゴンってやつは……。


 「ドラゴンてやっぱり凄いな! なあダダン?」

 「何でこんな状態でそんなウキウキしてるんだよリッキーの馬鹿!」

 「ドラゴンブレスなんて初めての経験だから興奮しちゃってさ。あれは凄いよ!」

 「相手褒めてどうすんだよ! 目の前のあいつどうにかしないと死ぬぞ!?」


 「侯爵!? リタ姉!? 打開する策はあるんですか?」

 「ねぇーよ!」

 「……」


 ないってか。

 再びドラゴンが息を吸い始めた。

 

 「またくるぞ!?」

 「リッキー頼めますか?」

 「仕方ねぇーな!」

 リッキーが再び魔法を使って、壁を生み出した。


 「クッ! 何だこれ! さっきと全然違う! 壊れる!」

 壁はすぐに溶けていき、先程は違う黒い炎が俺達に向かってきた。


 「アクアウォーール!!」

 侯爵が同じ様に水の壁を生み出した。だが、『じゅ〜』と熱々の鉄板に水を垂らしたような蒸発音が響き渡り、水の壁が蒸発しきってしまった。


 ヤバい!!

 ――。




 「シャイニングバリア!」

 ソフィー様の声と共に、光り輝くバリアが、俺達を守ってくれた。


 ドラゴンが吐いた黒い炎が、俺達を焼き尽くそうとしてくる。


 「長くは持ちません!!」

 「へぇ〜。ウチの大将は光魔法使いなのか! まあこのままだと全員でまっ黒焦げだな!」


 「カーミカミカミ! ダダンの出番じゃん!」

 「えっ!? そうか。やるかないか!」

 「一か八かじゃん!」


 俺は魔力を込め始め、閻魔を呼び出した。


 「ワシが来てやったぞーい! 始めるぞーい!」

 「何が出るかな? 何が出るかな? ジャガジャガジャーン! おめでとう〜〜!」 

 「大吉ーー!」


 閻魔大王は大吉と言い終わると姿を消していく。

 『大吉』か。一体何が起こる?


 閻魔大王が居た場所の空気が、突然歪み始めた。

 歪んだ所から、ドラゴンがもう一頭現れた。どういう事だ?


 ブレスが止んだ。

 二頭のドラゴンが相対し、睨み合っている。おみくじによって出てきたドラゴンも同じ様に漆黒のドラゴンで、尚且一回り大きい図体をしている。


 俺が呼んでしまったドラゴンが、尻尾をブン回してブレスを吐いてきたドラゴンに攻撃を食らわせた。


 「……」

 一体何が起きているのか、全く分からない。

 

 目の前でドラゴン同士の戦いが始まった。耳を塞ぎたくなる程の鳴き声を発しながら。

 俺達を襲ってきたドラゴンが、一方的にボコられていた。

 

 「何が起きているんですか?」

 「分かりませんソフィー様。ダダンが魔法を使ったらもう一頭ドラゴンが現れまして、二頭が目の前で戦っています」

 「ドラゴン同士の戦いですか!? 見られないのが残念で仕方ありません!」


 ブレスを吐いてきたドラゴンが、倒れてひっくり返った。体と足がピクピクと痙攣してるかのように動いている。

 そのドラゴンをぶっ倒したドラゴンが、こっちに近寄ってくる。


 ジェノ侯爵とリタ姉は、いつでも動けるように体勢を整えた。

 目の前にまできたドラゴンが、俺達に向かってお辞儀をした。意外な出来事に俺達全員は固まってしまった。


 「妾をここに呼んだのは誰じゃ?」

 さらに意外な事にドラゴンが、人の言葉を発した。

 

 「お……俺が呼びました」

 「お主が呼んだのか? 感謝するぞ人間よ!」


 「感謝ですか? 何故……ですか?」

 「あそこにいるトカゲは、妾の夫なのじゃ! あやつはある日突然、巣から居なくなったのじゃ。だがたった今、お主が呼び出してくれたおかげで、見つける事が出来たのじゃ」


 そう話すドラゴン。凛々しく壮大な姿にたじろいでしまう俺。


 「ドラゴンってのは、人の言葉を話す事が出来るんだな! 初めて知った。勉強になったぜ」

 「長年生きて賢いドラゴンなら話す事が出来るのじゃ。そう、妾のようにな」


 結局俺達は、助かったの……か?


 「それじゃあ妾はあやつを連れて帰るとするかの。迷惑をかけたようじゃの!」

 「あ、いえ、そんな」


 「あ! そうじゃ! 良かったらこいつを預かってくれんかの?」

 そう言うと、ドラゴンの頭から急に俺の胸に飛び込んできた何かが。

 

 両手で引き剥がすと、ピンク色をしたウーパールーパーみたな顔した生物が、俺の顔を凝視していた。口を開けると、そこから長いベロが出てきて、俺の顔を下から上へとベロベロと舐められた。

 「ベロベロベロベロベロベロ!」

 その生物はそう鳴き声を上げた。


 な……なんだこいつ!


 「うわっ! なんだこいつ!」

 「カーミカミカミ! ダダン汚いじゃん!」


 「この生物は一体??」

 「妾にも分からないのじゃ! 妾と居るより人間と居た方がこいつの為になると思うたのじゃ! 頼めないかの?」

 

 正直断りたい……。だが、こんな強いドラゴンから渡されるような生物だから、実はとんでもない生き物なのかもしれない。

 「分かりました。預かりましょう!」

 「感謝するぞ人間。またどこかで会おうぞ!」

 

 部屋の真ん中で天井を向くと、ドラゴンブレスを吐き始めた。

 ドロドロと建物が溶けていき、ブレスを吐ききった後にチラッとこっち向いてから二頭は、突風を起こしながら羽を広げて飛び立っていった。

 

 二頭が居なくなると、部屋には外の光が差し込んでいた。

 俺達は生き残った。


 ラッキー!

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