第16話 いっぱいの自然に人工物
ゴンッ!
頭に強い衝撃が走り、痛みで目を覚ます。目の前には、土や獣の血で汚れたリタ姉が立っていた。
「ほら起きろダダン! 出発するぞ!?」
「あれっ? リタ姉? いつの間に?」
「ついさっきだよ。行くぞ!」
俺は、まだ眠い目を擦りながら立ち上がる。
「なあジェノ侯爵、ソフィー様! あそこにドアがあるんだがどう思うよ?」
リタ姉が指を差した方を見ると、確かにドアがあった。
気が付かなかったな。一体どこに続いているのだろうか……。
「あんな怪しいドアを開けるつもりなんですか?」
「だから一応訊いてるんだよ侯爵」
「カーミカミカミ! 開けた方が面白そうじゃん!」
「珍しく俺様と意見があったなナイツ!」
「ソフィー様どうしますか? 入ってきた入り口から森へと戻って進むか、如何にも怪しいドアを開けて道があればそちらを進むか?」
「フフフ。何だかワクワクしますね!」
にこやかに笑うソフィー様。
「良いねぇ大将! お嬢様のくせして楽しんでいるのかい?」
「私は目が見えないから外に出て、ましてや森の中を駆けずり回るなんて事は一切出来ませんでした。人生で初めての冒険。楽しくなってきました!」
「つまり、そのドアを開けて進んでみましょう。リタ頼めますか?」
「分かったよソフィー様! それじゃあ進もうか!」
「仕方ありませんね。行きましょう」
「ダダンがドア開けろよ?」
「えっ!? 俺が開けるの?」
「その為の要員だろ?」
クソッ。平民の俺……どう考えてもそうだよな。
「分かりましたよ……開ければいいんでしょ!?」
「ダダンが開けた途端、ドカーンって爆発したりしてな!?」
「カーミカミカミ。死亡確定!」
「いや本当に嫌な事は言うなよ! フラグになるだろ? それじゃあ開けるぞ……」
周りの外野からフラグを言われた俺は、少し緊張しながらドアの取っ手に手を掛けてゆっくり開けていく。
ギイィ。と音を鳴らすドア。
緊張した俺が馬鹿に思える程、普通にドアは開いた。
「……何もないんかい!」
思わず声が出てしまった。
「急にどした!?」
「あ、いや、別にリタ姉……」
「先に進むぞ」
「りょうかい」
ドアを開けた先には、ただ真っ直ぐに道が続いていた。その道の地面と天井には、何かが光っていて、太陽の明かりが届かないというのに明るかった。
そんな道を俺達は進んでいく。
「キラキラと何だか綺麗じゃん!」
「確かに……そうだよな」
一体この道はどこに続いているのだろうか? そんな疑問を抱きつつ、ただただ前に進む。
しばらく歩くと階段が現れ、上がっていった先は地上へと通じていて、俺達は地上へと出た。
「眩しっ!」
太陽の光に俺は、目を背けた。
目が慣れてきて前を向くと、大森林の中に人工的な建造物、遺跡のような巨大な建物が忽然と現れた。
「何で森の中に、こんな建物が??」
俺はそう単純に疑問に思った。
「ここですよ。この建物がダンジョンのはずです」
「ここが……ですか?」
「報告書に書いてあった特徴と似ています。入り口を探しましょう」
「不思議な建物だなこりゃあ」
「ああ、そうだな」
巨大な建造物をグルりと回りながら、入り口を探していく。
たまたま逃げ込んだ場所から地上に出たら、たまたま目指していたダンジョンに通じていた。ラッキーだな!
そろそろ一周、回りきろうかという頃、すぐ近くで何やら音が聞こえた。
「やあソフィー! まさかこんな場所で会うとは思わなかった!」
「その声は……もしかしてマネル兄様?」
「ダダン構えろ!」
俺は腰につけた剣を抜いて構える。
相手の周りにいる、白銀の甲冑を着た兵士達も同じ様に構えた。
「まさかこんな場所で出くわすとは、想定外ですね」
「ソフィー様、しっかり掴まってろ!」
「はい……」
ソフィー様にマネル兄様と呼ばれた人物は、長い黒髪で、前髪で片目が隠れる程長く。猫背で陰険そうな雰囲気を出していた。ソフィー様との兄貴とは到底思えない風貌。
兵士の数は、圧倒的にあっちが多い。三十? いや、五十はいるか。魔法が使えないこの場所では完全に不利だ。逃げるしかない……か。
「やめていいよ! 相手にしなくていいよ! 武器をしまえ」
マネルは、兵士達を諌めた。
「むこうにはジェノ侯爵とリタがいる。戦ったらこっちもただじゃすまないだろう。俺の目的はダンジョンを踏破する事で、ここで争っても仕方ない。それにやつらもダンジョン踏破が目的ならたった四人で何が出来る? きっとその前に死ぬから別にいいさ」
「流石はマネル王子! まさにその通りでございますね!」
「それじゃあ行こうか」
マネル達一行は、入り口らしき場所へと入っていった。全員が入ったのを見届けた後、肩の力がやっと抜けて、俺は剣を鞘へと戻した。
「何だよ! あいつも王位継承権を持った王子なのか?」
「七男のマネル様ですリッキー。まさかこんな場所で会うとは思いませんでした」
「先に入られちまったけど、どうするんだジェノ侯爵」
「慌てても仕方ありません。少しの時間ここで休憩してから我々も中へと入りましょうか」
「気楽過ぎねぇーか? 先に踏破されたらどうすんだよ!?」
「先程攻撃されなかっただけラッキー、命拾いしました。あの人数を相手にするのは厳しいですからね」
「それじゃあ少し休憩しましょう。天気も良いですからね」
ソフィー様がそう言ったので空を見上げると、確かに雲一つない快晴だった。ダンジョンの遺跡がある為に、この場所だけは、木に遮られる事はなく太陽の光が降り注ぐ。
いい天気だ……。
俺達は呑気に座りだし、リタ姉に至っては寝始めた。
軽いとは言っても人間一人をずっと背負って移動するリタは、想像以上に疲れるはずだ。
「そんな事より、日向ぼっこするには最高の天気だなぁ」
「ええ、本当にそうですね」
「あれ? 俺って今、声出てました?」
「出てましたよ?」
「ハハハ、心で思ったつもりだったんですがね」
改まってソフィー様と喋ると緊張するなぁ。
「おいダダン! 俺様腹が減って死にそうなんだが!」
「分かったよ……これでも食べなよ」
俺は携帯食をリッキーに渡した。干し肉とカッチカチのビスケット。
「美味しくねーな!」
「文句言うなよ!」
――。
「さてと、そろそろ行きますか? ソフィー様もよろしいですか?」
「ええ、行きましょう。リタ!? リタ起きて!?」
ソフィー様の声にリタ姉はすぐに反応し、目を覚ます。
「ふぁ〜あ。出発か?」
「リタ行きますよ? ソフィー様をお願いします」
「りょうーかい。ソフィー様行くよ?」
「はい」
遺跡の入り口へと、俺達は向かう。
入り口から一歩遺跡の中へと入ると、変な違和感を体に感じた。目に見えない壁のようなものを通ったような……そこだけ空気が違うような……。
俺は自分の手の平を見て、グーパー、グーパーと拳を握ったり開いたりを繰り返した。
力が、自分の中に眠っていた力が戻っていく感覚が。
「リタ姉!」
「ああ、ダダン分かってる! ジェノ侯爵も魔力が戻ったのを感じたろ。どうやらここでは魔法が使えるみたいだ」
「吉報と同時に悪い知らせですね。ダンジョン内でマネル様達に出くわしたら、今度は確実に襲ってきますね……」
「キタキター! 魔力が戻ってきたぜ!」
リッキーが嬉しそうにクルクルと宙を舞う。
「魔力が戻ったならば、私も力になれます! 進みましょう」
「分かりました。皆さん決して油断しないで下さい。警戒して行きましょう」
「よっしゃ行くぞー! 俺様に付いて来い!」
「おい! 待てよリッキー! 勝手に先行くなよ!?」
リッキーを追って真っ直ぐの道を進んでいく。
ここがダンジョンなのか?
初めて行った超初心者向けのダンジョンと同じで一本道。奥にはドアが一つ。
再び俺の番か。
「開けますよ?」
「開けていいぞ!」
ふぅ〜と深呼吸をして、ゆっくりとドアを開けると、そこには何もない部屋が。
いや、中に入ってよく見ると、中央の床に薄く魔法陣が描かれていた。
「へぇー魔法陣か」
「リッキー。一体どんな魔法陣なのか分かりますか?」
「簡単、簡単。転移魔法の魔法陣だよ。魔力を流したらどこかに飛ばされるぜ」
「転移魔法ですか? 一体どこへ?」
「そんな遠くまで転移出来ないだろうから、この遺跡のどこか! だろうな。ここの地下には迷宮があってそこへ飛ばされるとか、それはそれは強いボス部屋に飛ばされるとかな。または死亡確定部屋かもな」
なるほどな……。
「行きゃあ分かるだろ!? 魔法が使えるようになったんだ。そうそうやられる事はないよ。任せな! ソフィー様だけは私が絶対に護るよ」
「ソフィー様いかが致しましょうか?」
「行きゃあ分かりますよ!」
意外な返答に、ジェノ侯爵はフフッと笑みを浮かべた。
「それでは皆さん、魔法陣の上に立って下さい」
俺達は魔法陣の上に立った。
「面白くなってきやがったじゃん!」
「俺様に任せろ!」
「準備はいいですか? 行きます!」
ジェノ侯爵の魔力を込めると、魔法陣が光り出し、白い光に包まれて目の前が真っ白になった。
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