第14話 旅路と参加者

 馬車の手綱を引いてガラガラと揺られ、かれこれ十日以上、ずっと道を進んでいた。

 今向かっているバジルの森の道中、ジェノ侯爵から戦いに参加するソフィー様以外の兄弟姉妹についての話を聞く事に。


 ソフィー様を含めて参加するのは十三人。男は八名、女は五名で、ソフィー様は四女なんだそう。

 そしてその十三人にいる中で、最も警戒しなければいけないのが、たった七歳の五女、シャルロッテ様だというから驚いた。圧倒的な魔力量と魔法の才能があり、単純な戦闘になったらまず誰も勝つ事が出来ない程の人物だと。

 弱点なのはまだ幼いから汚い戦い方を知らない事と、一直線な事だけ。後ろ盾になった貴族はかなり機転が利く人物らしく、侮れない。最年少で王になるかもしれないと言われているのだとか。


 「へぇ〜そいつは凄いな! どんな魔法を使うのかとても興味がある」

 リッキーは隣で嬉しそうに話す。


 「止めておいた方がいいと思いますよ。そんな余裕なく魔法で殺されると思います」

 「七歳の子供が、そんな強いんですか?」

 

 「……ある戦争のせいで、シャルロッテ様が好きなお菓子が隣国から届かなくなる事があったんです。その事に対してシャルロッテ様は怒り、自ら戦場に出向いた事があるのです。それもたった一人で。シャルロッテ様はたった一人で相手国の兵士一万人を魔法で葬り去り、戦争を一瞬で終わらせた事実があります」


 は? 一万人を一人で? なんだよそれ! 化け物じゃねえかよ!


 「カーミカミカミ! 化け物じゃん!」

 「もしかして、相手にするのはそんな化け物ばかりなんですか?」


 「シャルロッテ様が特殊過ぎるだけです。そんなシャルロッテ様の強さを他の方々が、そのままに放置するはずがありません」


 「どういう事です?」

 「他の方々が手を組んで協力し、最初にシャルロッテ様を排除する動きをとるのではないかと私は思っています」


 「正々堂々もクソも無いな全く!」

 「リタの言いたい事も分かりますが、それが戦いというものです。私達がバジルの森に逃げるのもシャルロッテ様を警戒してというのもあります。探知魔法にも感知されない場所ですし、シャルロッテ様にとっては天敵のような場所ですから」


 「シャルロッテ様以外で警戒した方がいい人物は、まだいるんですか?」


 「長男のペドリ様に次男のリベルト様、長女であるカミラ様は特に警戒が必要です。だからと言って他の方々が弱いという訳ではありませんがね」

 なるほど……やはり長男や長女は強者なんだな。

 

 俺は、今日までただの勢いできてしまった。参加する事を決めてからは訓練の日々、ジェノ侯爵にちゃんと訊いていない事があった。


 「ジェノ侯爵は、何故ソフィー様を女王にしたいと思ったんですか?」

 肝心な事を俺は、全く訊いてすらいなかった……。


 「この殺し合いで王を決めるというこのやり方、ダダンとリッキーはどう思いますか?」

 「別に! 面白いとも言えるが、国の在り方としてはどうかと思うけどな!」

 「俺もリッキーとほぼ同じ意見です。仮に優秀な人が三人居たら、その内の二人は死ぬ事になるんですよね? どう考えても国としては不利益だと思います」


 「オイラは結構賛成だけどなっ!」


 「この決め方ならば、兄弟姉妹による権力争いのようなものは起こりません。そして、どの貴族が王を支持していたのか一目瞭然で、その他の権力争いも起きづらく、少ないという事実はあります」


 「ですが私は、この制度ではいつか破綻すると考えています。わざわざ優秀な人材を殺す必要なんてありません。協力しあって国づくりをしていくべきなんです。今後のパンプキン王国を考えると、この制度を廃止した方がいいと私は常々思っていました」


 「この制度を廃止出来るのは王だけど決まっており、他の制度とは違い、王が望まなければ廃止する事が出来ないのです。そんな中、ソフィー様だけが私と同じ様な意見をお持ちだったのです。ですから私は、ソフィー様を女王にしたいのです」


 「まずは『廃止』し、そこから新しいパンプキン王国を、ソフィー様と共に創っていきたいと思っているのです!」


 普段喋るジェノ侯爵の柔らかい口調ではなく、男らしいと表現すればいいだろうか? 

 強さの中に覚悟を決めた、男の矜持を俺は感じた。不純な理由な俺とは段違いな事だ。


 「私はジェノ侯爵が後ろ盾になってくれると聞いて、戦う覚悟を決めました。」

 「ま! 戦う理由なんて何でもいいんじゃねえか? どれだけ崇高な思想があろうが勝たなきゃ意味がないだろ!? まずは勝つ事だけを考えりゃいい」


 確かにリッキーの言う通りだ。今はどう勝つかだけを考えて行動すればいい。まだ始まってすらいないけど。

 「まずは無事にバジルの森を目指そう!」


 「ダダンの言う通りだ。さっさとバジルを目指すぞ! はっ!」

 リタが馬車の速度を上げて、道を進む。


 その後の俺達は、馬車で人里を離れ、いくつもの山脈を越えて、さらに人がいない場所へと進んでいく。

 

 人間、動物、魔物もいない平原を越えた先に、見渡す限りの森が見えてきた。

 「リタ姉、もしかしてあれがバジルの森?」

 「ああ、そうだよ」


 「やっと到着したか!」

 「大変なのはこれからです。入ったら魔法は使えません。魔物に相対した時、武器で対抗するしかありません」


 「私に任せな! それにダダンだって結構やるぞ! なあダダン?」

 「出来るだけ頑張るよリタ姉!」


 「ソフィー様も準備は良いですか?」

 「はい。行きましょう!」


 「カーミカミカミ! テンションが上がってきたじゃん」

 俺達は、魔法の使えないバジルの森へと足を踏み入れていく。

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