第13話 作戦と出発

 リタ姉に森から連れ出された俺は、実戦的な訓練をこなしていった。

 魔物との戦闘は勿論の事、人間との戦闘訓練が主な内容だった。王になる為の戦いは当然人間と戦う。人間を相手に本当の殺し合いをした事が無い俺にとっては、魔物との戦闘よりも大変だった。


 リタ姉なりの荒治療なのか、俺を山賊や盗賊、はたまた海賊達の住処に放り込んで、全員始末してくるまで帰って来るなという、とんでもない訓練をひたすらさせられた。

 

 放り込まれる度に、敵全員が俺を殺そうとしてきた。

 俺は必死に戦い、始末していった。人を殺したくないとか躊躇するなんて考える余裕すらなかった。野犬が何十匹と群れで襲ってきたらどうだろうか?

 犬は、人が好むペットだから殺せないなどと考える余裕があるか。絶対にない。戦うか逃げるか。俺には戦うという選択肢しかなかった為に必死にもがいて戦った。


 ただただ、毎日生きる事に必死だった。リタ姉のしごきは厳しかったが、俺は以前と比べて遥かに強くなった。そしてリッキーもだ。


 「ああそう言えばダダンとリッキー。明日から私達は動き出すぞ?」

 「動き出すって??」


 「何の為に訓練したのか忘れたのか? 王を決める戦いが始まるんだよ」

 

 え? あれ? もう一年経ったの?

 そんな事すら忘れていたみたいだ。いや、そんな事よりも大事な事を思い出した。って事は一年ソフィー様に会っていない事になる。俺にとっては大問題だ!


 「明日でもう一年が経つの?」

 「いや、実際に戦闘が始まるのは二十日位ある。だけど侯爵に呼ばれてんだよ。まあ始まるまでの準備と作戦って所だろうな」


 「リタ姉は、たった四人で勝てると思う?」

 「おいダダン! 俺様もちゃんと入れろよ!」


 「さあね。だけど逆に一万人居れば勝てるのか? と言われると勝てないと思う」

 一万人居て勝てない? なんだそりゃ……。


 「へぇ〜そいつは大変な戦いになりそうじゃん」

 「一万人の兵士が居ても勝てないと?」


 「兵士達を倒すのが目的じゃないからね。大将、つまりは私達で言えばソフィー様さえ殺せればそれでいいんだ。やり方はいくらでもある」

 「ソフィーが女王になったら、俺様専用の魔法研究所を作ってもらおう! 楽しみだ」


 「何を考えてもいいが、ソフィー様が勝ち残らなかったら全ては意味がないからな。ソフィー様を勝たせる為に全力で戦えいいな!」


 俺達は、森の中で一夜を過ごした。

 次の日の朝、王都へ向かい始めた。約一年ぶりの王都。リタ姉による地獄の訓練が終わったという安堵と、ソフィー様に久しぶりに会えると思うとテンションが上がった。


 ジェノ侯爵の屋敷に到着し、侯爵に会いに行く。

 「それじゃあ行くぞー」

 リタ姉は屋敷にズカズカと上がり込み、勝手にドアを開けて周り、侯爵を探していく。


 二階にあるドアを開け、書斎のような部屋に侯爵とソフィー様がいた。

 「はぁ〜。リタ! いつも言っていますが勝手に入って来ないで下さい」

 「別にいいだろ? こっちの方が早い」


 「リタ! 久し振りですね」

 ソフィー様がリタに抱きつく。


 「ソフィー様、元気にしてたかい?」

 「勿論元気ですよ! リタも元気でした?」

 「元気だよこの通り!」


 「ところでダダンの方はどうなんですか? 仕上がったんですか?」

 「ただのクソガキだったのが、少々出来るガキ程度には仕上げてきたよ」

 「ほ〜。リタがそんな事言うなんて面白いですね」

 面白いのか? リタ姉、俺の事馬鹿にしてるでしょ?


 「ソフィー様お久しぶりです!」

 「ダダン顔赤いじゃん」

 「うるさいナイツ」

 久し振りに会った俺は声をかける。


 「ダダン様ですね? お久しぶりです。声が少し変わりましたか?」

 「声ですか?」

 少し不思議に思ったが、そう言えば一年前と比べて俺の目線が高い。遅い成長期だったのか。それにしても以前に増して益々可愛くなっている。一年前は勢いで言ったが、本当に俺はこの子と結婚できるのか?


 「随分と逞しくなったのですね」

 「えっ!? ありがとうございます!」


 「なに照れてんだよダダン! 結婚相手だろ?」

 「リッキーの馬鹿! なんかそう言われると恥ずかしいんだよ!」

 「フフフ!」

 ソフィー様が笑った。とてもカワイイ。

 ダダンの体になってから俺の精神もどこか少年、若くなってきていた。


 「全員が集まった所で、どう戦っていくのか作戦をお伝えします」

 そうだ。勝利する為に一番大事な作戦とは、一体どんな作戦なんだ?


 「今までずっと隠してきました。それはどこから漏れるか分からないからです。魔法の類で聞かれている可能性があるので心にずっと止めていました」


 「勿体ぶるなよ侯爵。さっさと話せよ」

 「分かりました。私達はバジルの森を目指します」

 「バジルの森だって!?」

 リタ姉の荒げた声に、ビクッと身体が反応する。


 「なんだよ! リタがそんな反応するって事は、そんなにヤバい森なのか?」

 「カーミカミカミ。ヤバい森へレッツゴー!」


 「バジルの森に一歩踏み入れると、一切魔法が使えなくなるという魔境の森です。凶暴な魔物も数多く棲み着いており、普通は近づく事もしない森です」

 「魔法が使えないだって? そんな場所何で行くんだよ! 自殺行為だろ!」


 「だから行くんですよリッキー。他の十二人の候補者は、バジルの森に逃げ込むなんて誰も想像していないでしょう。なので時間を稼ぐ事が出来ます。さらに、バジルの森を目指す目的はもう一つあります。中心地にあるというダンジョンです」


 「侯爵……真面目に言っているのか?」

 「勿論本気ですよリタ」


 「森の中心地には、まだ踏破されていないダンジョンが眠っていると言われています。私達はそのダンジョンを探し出してダンジョンに入り、踏破するつもりです。そこで得られると言われているドラゴンの秘宝を持ち帰り、他の候補者達と対抗します」


 「他の候補者って強いんですか?」

 「強いです。ですがそれよりも、不明な事が多いです。それに本人の力量に関しても隠している事が多いと思っています。候補者達の情報については、バジルの森を目指している道中にゆっくりお伝えします」


 「候補者の誰かと組んで戦うって事は、考えなかったのかい?」

 「勿論考えましたよ。しかし、手を組む方が後々面倒事が増えると思いやめました。だからこそ時間稼ぎが出来る作戦を取るのです」


 「なるほど……ダンジョン攻略している間に戦況が動く。出てから考えればいいという話しか。手を貸すのも貸さないのも、戦っている候補者同士を横から刺すのも攻略後に考えればいいって事か」


 「まさにリタが今言った通りです」

 確かに侯爵が考えている作戦は悪くなさそうだ。ただこの世界の事も、他の人達の動向も分からな過ぎて、本当に良い作戦なのかどうかは俺自身では判断出来ない。

 ソフィー様をチラッと見たが、毅然きぜんとしていた。


 「普通に戦ってもお兄様やお姉様達に勝てるとは到底思えません。だからこそ型破りな考えや行動が必要になってくると思っています。私は侯爵の作戦には賛成ですよ」


 「ソフィー様が、そう言うなら仕方ないね。行くしかないな」

 「ありがとうリタ!」


 「へぇ。ウチの大将はてっきりやる気がないと思ってたけど、やる気じゃねぇか!」

 「リッキーさん。私はいつでも本気ですよ? じゃなきゃ殺し合いに参加なんか……しません」

 「悪い悪い! 本気がどうか気になっただけだ。俺様達の命だってかかってるんだしな! 頼むぜ大将」

 

 ここへ来てだんだん不安になってきた。今日まで勢いだけできてしまったが……これから長い期間に渡って殺し合いをすると思うと不安でしかない。

 「気楽にいこうじゃん!」

 「……」


 「皆さん今日は私の屋敷に泊まって疲れを癒やして下さい。明日王都を出て、バジルの森へと向かいますよ?」


 俺達はジェノ侯爵の屋敷に泊まることに。今まで野宿が多かった俺にとっては天国みたいな場所だった。大きな風呂に、豪華な食事。

 こっちの世界に来てから確実に一番美味しい食事だった。そして今日眠るベッドは、信じられない程フカフカしたベッドで、疲れていた俺は一瞬で眠りについた。


 

 「皆揃いましたね。それじゃあ行きますよ?」

 夜明け前の暗い中、俺達は荷馬車に乗って王都を出発した。

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