第12話 脳筋女との修行
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 死ぬ死ぬ死ぬ!」
「黙っときな! 舌噛むぞ!」
リタ姉が走ってジャンプしながら移動しているのだが、軽く飛ぶだけで、簡単に建物を超える高さまで飛び上がる。
いま落とされた完全に死ぬ。
ジェットコースターなどとは比べ物にならないチンさむが、俺の下半身を襲う。目を閉じて、騒ぎ、恐怖を和らげようとするが効果はない。
「よぉ〜し! 到着したぞ!」
俺は涙目になりながら、やっと解放された。
体には浮遊感がまだ残っていて、膝が笑っている。
「リタ姉……ここは一体どこ?」
「森の中にある私の家だよ。今日からここに暮らしてもらう」
周りを見ると確かに森の中にいるようだ。目の前にはログハウスの一軒家が建っていた。
「あの筋肉バカ! クソ! 俺様が人間の肉体だったらやれるのに」
「リッキーの力量は分かった。今度はダダンの力が見たい! 全力でかかってこい」
リタ姉は拳を上げて、ファイティングポーズを取る。
力量って言ったって、さっきの二人の戦い見たら敵うはずないじゃん。
「ダダン! やってやれ! ぶっ殺してやれ!」
「思いっ切りいけばいいじゃん!」
手始めに俺は弓を手に取り、弓矢を放つ。
リタ姉の顔面に向かって飛んでいったが、簡単に避けられてさらにキャッチまでされた。
「こんなスピードじゃあ食らうわけないだろ? 簡単に避けられる」
次に剣を構え、俺の全力を持ってリタ姉に向かって剣を振り下ろした。
リタ姉は、人差し指と中指のたった二本で剣を挟み、白刃取りのように止めた。
俺は外そうと試みるが、全く剣が動かない。
マジかよ! どんな力……してんだよ。こっちは両手だぞ!
「平民出身の十四歳でこれだけの剣筋なら大したものだ。だがな――」
「うわぁ」
挟んでいたたった二本の指で軽く払われただけで、俺はゴロンゴロンと後転した。
人間の力なのか。と疑いたくなる力だ。
「私らが相手にするのは化け物しかいない! 一年しかないからみっちりしごいてやる!」
リタ姉によって、すぐに訓練が始まった。
「ぎゃああああああ。ヤバいってヤバいって! リタ姉ーーー!」
「さっさと走れーー!」
俺は今、森の中を全力疾走して駆け巡っている。
最初に始まった訓練はとにかく走る事だった。魔物が大好きで興奮する匂い袋を持たされた俺は、森の中に入ってすぐに魔物達に追いかけ回されていた。
森の中を走るのは、とんでもなく疲れる。木や草、根っこが邪魔し、デコボコで
「ホラホラ頑張れダダン!」
浮遊魔法で寝そべりながら、あくびをして後を付いてくるリッキー。
「ヤベェ!」
木の根っこに躓いて、転んでしまった。
後ろから追ってきていた数体の魔物が、俺めがけて飛びかかってきた。
マズイ……。
「カーミカミカミ。絶体絶命じゃん」
そう思った瞬間、魔物がまとめて吹っ飛んだ。
「転んだら死だと思えダダン。戦闘中のミスは死に直結するぞ?」
リタ姉が魔物をぶん殴って助けてくれたみたいだ。
「ハァハァハァハァ」
「って事で、訓練はこのまま続けるぞ? 逃げろよ!?」
すぐに他の魔物が現れ、俺を追いかけてくる。立ち上がって再び逃げる。とにかく逃げる。
森の中を駆けずり回り、一日中走り続け、何回も死にかけた。しかし、とにかく俺は、息をして生きている。
「よし。帰るかダダン」
喋る事が出来ない程疲れ果てた。やっと休む事が出来ると思った。
「飯食ったらそのまま夜も訓練するぞ!?」
「えっ!?」
「夜は筋トレだ!」
「えっ!?」
「帰るぞー」
「えっ!?」
リタ姉の家に戻って食事を摂ると、無理やり引きずられて再び外へと出る。
俺はリタ姉に言われた筋トレをやるしかなかった。
その近くでリッキーとリタ姉は、戦い始めた。
戦いと筋トレに回数や時間という概念はなく、気付いた時には朝日が昇り始め、朝を迎えていた。
「よし! それじゃあ走りに行くぞ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよリタ姉!」
「どうした?」
「今から!? 睡眠は!?」
「限界でぶっ倒れたら睡眠は取るから大丈夫だよ。ほら行くぞ!」
俺は甘かった。とんでもない地獄に自ら首を突っ込んでしまったみたいだ。
「カーミカミカミ! ダダン死ぬなよ!?」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
「しっかり走らないと死ぬぞーダダン!」
そんな地獄の日々を送る事になったが、自分の身体がみるみる変わっていった。体力も筋肉も付いて身体だけは別人に。
「それじゃあ次のステップだダダン。今まで逃げていた魔物と戦って勝て!」
「えっ!? 戦うの!?」
「そうだよ早く行ってこーーい!」
リタ姉に森の中へと投げ飛ばされた。
正直逃げる事は出来るようになったが、戦った事はないし、戦って勝てるとも思えなかった。魔物と言っても化け物みたいな魔物だからだ。俺が使う剣と弓だけで対抗できるとは到底思えなかった。
とりあえず木に登って気配を消し、魔物に近づいていく。この森に棲み着くトラみたいな魔物に俺は、弓を使って弓矢を放ってみた。脳天に向かって弓矢が飛んでいく。
しかし、弓矢は弾かれ、かすり傷すら付かない。
「カーミカミカミ! 無傷じゃん」
「何やってんだよダダン。弓矢なんて効くはずないだろ?」
「じゃあどうすりゃあいいんだよ?」
「リタ位の馬鹿力か、魔法じゃないと効かないと思うぜ?」
「はぁ? 無理だよそんな事。てか俺って魔法使えるの? 教えてよリッキー」
「使えるけど無理だな! 魔力量が少な過ぎるんだよダダンは」
「どういう事?」
「簡単な魔法なら使えるけど、相手を滅殺するような魔法は使えないよダダンは。焚き火の火を起こす程度だな。ハッハッハッハ」
「マジかよ! じゃあどうすんだよー!」
俺はリッキーを捕まえ、両手で揺すった。
「まあ解決策がない訳じゃないけど、オススメしないぜ?」
「本当かよリッキー! なんだよ教えてくれよ!」
「俺様がフザケて創ったユニーク魔法があるんだが、これがまたとんでもない仕様にしちまってさ。運要素が強い魔法なんだよ」
運要素が強い? 最高じゃないか……。
俺の為にあるような魔法だろそれ!
「教えてくれ! 俺その魔法使うよ!」
「落ち着けって。取り敢えず手を離せ」
「あっごめん」
「とにかく俺様の話を聞け」
「魔法には――」
リッキーが言うには、魔法の威力を上げるには様々な方法があるのだという。単純に魔力量を上げたり、より強い魔法を覚えたりなど。
それだけじゃなく、特殊な方法もあるのだという。一つは制約。この魔法以外使わない。水魔法を一切使えなくするなどの制約をかけると威力が跳ね上がるのだとか。
さらにもう一つは、『運』要素を付け加えると威力が上がる事をリッキーは過去に見つけたのだとか。そしてリッキーは、この二つを混ぜたユニーク魔法を完成させたという。
「だからこの魔法を覚えるとそれしか使えなくなるし、運要素のせいで、いざという時でも全く効果がない可能性もあるから使いづらいんだよ。最悪自分自身に攻撃が向かう事だってある。実際に使った事がないからどんな事が起こるのかも分からないしな」
なんだよそれ……博打過ぎるだろその魔法。
「いいじゃん! ダダンその魔法覚えちゃいなよ!」
「すんげー他人事だなナイツ……」
「カーミカミカミ」
クソッ。でもこのまま訓練を続けてこの魔物に勝てるようになったとしても、果たしてソフィー様を女王にする程の力が付いたと言えるのか?
リタ姉をぶっ倒せる位強くならないといけないんじゃないだろうか?
このまま強くなっても、ソフィー様が王にならなかったらそもそも意味がない。結婚できない。だったら博打でも強くなるなら何でもやってやる。
「いいよリッキー! その魔法を使えるようにしてくれ!」
「いいのか!?」
「頼む」
「分かったよ……それじゃあ手を出せ」
言われたように手を出すと、手の平にリッキーが魔法陣を描き始めた。
「もうこの魔法以外使えなくなるからな!」
「分かってるよ」
「よし! これでもう使えるようになったぞ。使ってみろ!」
両手に魔法陣を描かれた俺は、早速魔法を使ってみることにした。
魔力を両手に流し込んだ。すると空が曇り始め、何やら不穏な空気に包まれていく。
そして忽然と、大きな大きな何かが現れた。
その姿は、顔はドス黒い赤色で、口の周りには髭を蓄え、しゃくを持ち、頭には『王』と文字の入った被り物。
どこかで見たことがある風貌。どう見ても『閻魔大王』だった。
「ワシを呼んだのはお前じゃな! 早速始めよう!」
そう言って閻魔大王は、初詣などでよく見るおみくじで使う六角形の箱を振り始めた。
「何が出るかな? 何が出るかな? ジャガジャガジャーン!」
「吉ーー!」
閻魔大王が叫んだ。
六角形の箱から出てきた棒に書かれていたのは、赤い文字で『吉』。
良い事が起こるのか。どうなるのか。
曇っていた空が光り、一瞬目の前が真っ白に。少し遅れて身体が痺れる程の轟音が降り注いだ。モクモクと煙が立ち込めていき、閻魔大王は消えていった。
木の下に集まっていた数体の魔物は、黒焦げになって引っ繰り返っていた。
「何が起きた?」
「雷だろ? 雷が魔物に落っこちてきたんだよ! それにしても吉でこんな天災が起こるのか。面白いな『閻魔のおみくじ』せっかくだからデータを取らせてもらうぞ」
「カーミカミカミ! 強くなったじゃん!」
『閻魔のおみくじ』って、おみくじの結果によって起こる事が変わるのか。大吉ならいいけど、大凶とか引いたらどうなるのか? 死んだりしないよな……。
考えても仕方ない。出さなきゃいい。頻繁に使わなきゃいい。運否天賦の必殺技だな全く。
倒した魔物を俺は引きずって、リタ姉の待つ家まで持っていく。
「倒してきたぜリタ姉!」
リタ姉は、倒してきた魔物を見て、初めて俺の事を褒めてくれた。
「成長したなダダン。良くやったな」
リタ姉に褒められて素直に嬉しかった俺。
「これで次のステップにいけるな」
「えっ!? マジで!?」
ニヤッとリタ姉は笑って、俺を担いで森を飛び出していく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます