第9話 不幸か幸運か
「へい! らっしゃい! 安いよー美味いよー!」
「お兄さん! 一つ頂戴!」
「毎度あり〜。リッキーちょっと火加減強くしてもらえる?」
「しょうがねぇーなー」
リッキーが両手を突き出すと、火が強くなった。
「っておい! 一体何やってるんだよ俺様達は!」
「何って……仕事だよ? この店を手伝う依頼だよ」
「俺様の魔法をこんな事に使わせるんじゃねえよ!」
「いいじゃんか。便利なんだしさ」
「俺様の魔法は、便利なモノじゃねえ! 崇高なモノなんだよ」
「そんな事言っているとご飯抜きだよ?」
「ふんっ! まあちょっと位なら手伝ってやってもいい」
「カーミカミカミ」
――。
一日中お店の手伝いをして、報酬を受け取りに行く。
あれからEランクの仕事をこなし、冒険者としての日々を送っている。
仕事を終えた俺は宿を取り、フカフカのベッドに横になる。
「あ〜疲れた〜」
「言っておくが、魔法使うほうが疲れるんだぞ!」
「リッキー人形なのに疲れるとかあるの?」
「あるに決まってるだろ! 肉体ではない。精神的な疲れだ」
「ナイツも疲れたりするのか?」
「オイラに疲れとかないじゃん!」
「そう言えばリッキーやナイツに言いたい事があったんだ。俺は決めたよ。人の為になる仕事をしようと思う」
その言葉を聞いて、リッキーはポカーンとしていた。
ナイツにも同じような空気を感じた。
「人の為って……どうやって?」
「分からん! だからそれを一緒に考えてくれよ。何かいい案出してくれよ」
「ダダンお前、よく分からない奴だな。すでに人の為に仕事をしているだろ!」
「えっ!?」
「先日は、足が悪いお婆さんの代わりに買い物。別の日は街の下水道を掃除して、今日は店主の代わりに店番していた。すでに人の為に仕事してるだろ?」
「カーミカミカミ! 確かにリッキーの言う通りじゃん!」
「いや、そう……だな」
確かにリッキーの言う通りだ。
でもそうじゃない。そうじゃないんだよな。
「偉大な魔法使いリッキーと何故か幸運になった俺。そしてナイツの力を合わせればもっと沢山の人間を救う事が出来るんじゃないかと思ってしまったんだよ!」
「やめておけダダン。過ぎた力は必ず己を滅ぼす。ダダンがいくら他人の為に力を使っていたとしても、いつかは目立って目を付けられる。権力者と貴族っていうクソ野郎にだ」
「過去に何かあったの?」
「ああ、そうだ」
「俺様は貴族に、最終的には弟子に殺された」
リッキーが突然、自分の過去を話し始めた。
「人間だった頃、俺様は魔法研究に没頭していたんだ。それが評価されて、とある国のお抱え魔法使いになって、魔法を研究する日々を送っていた」
「新たな魔法や応用などを考え開発、国に貢献していた。研究の殆どは人を殺す為、戦争に使われている事も知りながら、俺様は研究していた。実際にどれほどの効果があるのか……データとして取れるのは研究者としては嬉しいデータだった」
「しかし、国は俺様の事を殺そうとしてきたんだ。暗殺だよ暗殺。国の発展に貢献してきたんだぜ? 俺様が居なかったら国ごと滅んでいたかもしれないのにだぜ?」
「暗殺の理由は『恐怖』だ。俺様の研究が凄すぎて逆に恐怖を与えちまった。あいつがその気になったら国が乗っ取られるかもしれないという恐怖」
「国王が暗殺命令を下した。すぐ遠くに逃げたよ! 国を渡って誰も知らないような田舎の山、そこにある洞窟を住処にして研究を続けていたんだ」
「数年経ったある日、十数年一緒に居た弟子に毒を盛られで俺様の人生は終わった。弟子が何故俺様を殺したのかは分からない。だけど過ぎた能力、特に得体の知れない強さに人間は恐怖する生き物なんだ。ダダンがそれでもやりたいなら止めないけどな」
「俺がリッキーみたいな魔法を使える訳がないだろ? 使えないんだから目立つ事だってないだろ?」
「さあ、それはどうかな? 分からないぞ?」
「オイラは、ダダンが好きに生きればいいと思うじゃん!」
「冒険者をしながら、ゆっくり見つけていく事にするよ」
次の日の朝――。
ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!
部屋の扉を強く叩く音で起こされた。
「何でしょう?」
扉を開けたそこには、この宿の女将が立っていた。
腰に手を起き、何やら怒っている様子だった。
「あんたの事を呼んでる奴らが外に居るんだよ。早く外に行っておくれ! 店の前にあんなズラッと並んでたら迷惑なんだよ……」
「え!? あ、はぁ」
呼んでる? 俺を? 誰が?
俺はすぐに着替えて宿の外に出た。
「あなたがダダン様でしょうか?」
「はい、そうです」
宿の外には、武器を持った兵士達と一台の馬車が。
「こちらの馬車に乗って侯爵に会って頂けませんか?」
「侯爵!? 俺が!? 何でですか!?」
「詳しい事は屋敷で、侯爵様が話されると思います」
「……断る事は出来ますか?」
「手荒な事はしたくありませんが、不敬罪で無理やり連れて行く事も出来ます」
そう言って目の前にいる男は、腰に付いた剣に手を伸ばした。
「な? だから言っただろ!? 分からないって」
肩に乗っているリッキーが意地の悪い笑みを浮かべた。
「つまりは、行くしかないって事じゃん!」
「分かりました。お会いしましょう」
「ありがとうございます」
馬車に乗った俺達は、侯爵の屋敷へと連れて行かれた。
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