第8話 ダダンに芽生えた思い
「これが約束の報酬、一千万ルギーだ。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
バッグに入らない程のパンパンに膨れた袋を渡され、バッグに入れた。
「ダダンとリッキーには本当に感謝している。娘を助けてくれてありがとう。」
ルッツ伯爵が俺達に頭を下げた。
「へぇ〜。貴族が平民と人形に頭下げるんだな! 貴族じゃあ珍しい奴だなお前」
やっぱりそうなのか?
貴族と聞いて湧いてくるイメージは、卑しくて汚い。
日本でいうと、国会議員より偉そうで横暴なイメージがある。生まれながらにして高い地位と資産が約束され、平民とは人間としての位が違うのだよ。
とか言ってきそう。
自分達は偉い。平民を導く存在なんだという矜持さえありそうな存在。ルッツ伯爵を見るとそんな事はないのかもと思ったけど、他を知らないから何とも言えない。
「娘を助けてくれたんだ。何度だって頭を下げたい位だ」
「なら俺様にも報酬ってのを貰いたい。いいか?」
「内容によるが、出来るだけ要望には応えよう」
「ダダンに同行させてほしい。伯爵に付いて行くより、ダダンと一緒に居た方が面白そうだ」
「そんな事か。勿論構わない」
話がトントン拍子で進んでしまったが、要するに喋る人形という、これまた奇妙な仲間が加わったという事か。
喋る指輪に、喋る人形。よく分からないトリオが完成したようだ。
これはラッキーなのか?
幸運って言うなら、超頼りになる逞しく、リーダーシップのある男が仲間とか、超絶美人の女の子とかが仲間になるってものだよな?
どうやら旅のお供には、運が無いみたいだ。
「何だか騒がしくなっていきそうじゃん」
まだこの世界に慣れてもいないのに、大変だよ全く。
「ならもうここに用はないな! さっさと行こうぜダダン! 俺様は貴族が嫌いなんだ」
リッキーが宙を舞い、ドアに近づくと勝手に開いて、部屋から出て行った。
俺はルッツ伯爵にお辞儀をして部屋を後にした。
リッキーを追いかけて、街中を走る。
「おーい! 待てよリッキー!」
空中を自在に飛び回り、クルクル回った後、俺の肩に着陸した。
「これからもよろしくなダダン」
「オイラも忘れるなじゃん!」
「おいダダン……今なにか声が聞こえなかったか?」
「こいつだよ」
俺はナイツ、右手の中指に嵌った指輪を見せた。
「これがどうかしたのか?」
「カーミカミカミ! オイラの名前はナイツじゃん! お前がリッキーだなよろしくじゃん!」
「うおっ! 指輪が喋った……」
驚いたリッキーが、肩から落ちそうに。
「偉大な魔法使いリッキーに聞きたいんだけど、この指輪は一体何なんだ?」
「何だよダダンの物なのに分からないのか?」
「全く分かんない!」
「なるほど……」
考え込むように腕を組んで下を向くリッキー。
リッキーは何かを知っているのか?
「一つだけ言える事がある! なんも分からねぇ!」
「えっ!?」
「俺様は魔法については詳しいが、それ以外は何も知らん! それに喋る指輪なんて初めて見たよ。ハッハッハ!」
「なんもわかんねぇーのかよ!」
「偉大な魔法使いでも分からない事はある!」
「リッキーなら何か分かると思ったけどね」
「そんな事より腹が減った」
「はっ!? 人形なのに物を食うのか?」
「知らん! とにかく腹が減った。どこか食べ物を出す所に行こう」
「分かったよ」
一度ギルドに寄り、大量のお金をギルドに預けた。ギルドは銀行の役割も果たしている。
懐も潤った事だし、少し豪華な宿を取りに行った。
宿を取り、すぐに食堂へと向かい食事を頼んだ。
食事が届くや否や、貪り頬張るリッキー。
人形の大きさに対して、食べる量が明らかにおかしい。
どこに消えているんだ……。
いや、この世界は魔法なんてモノがある世界だ。
考えるだけ無駄なのかもしれない。
「この時代の、食事ってのは、中々、美味いな、ダダン!」
「前の時代を俺は知らないから。食べながら喋るなよリッキー」
「そりゃ、そうか」
「オイラも一緒に食べたいじゃん」
「ナイツに食欲とかあるのか?」
「全くないじゃん!」
「無いのかよっ!!」
「ゲプッ。あ〜食った食った」
「食いすぎだろ」
俺よりも量を食べたリッキーは、満足そうな顔をしていた。
部屋に入るとベッドは二つ。
テーブルと椅子。机まで備え付けられていて、広く良い部屋だ。
窓を開けると、心地よい風が入ってくる。
空を見ると、半分が緑色で半分が赤い色をしたまん丸の天体が見える。
やはりこの場所は、俺の知らない世界なんだと思いに
「じゃあダダンおやすみ! 俺様は寝るぞ!」
リッキーは、人形のくせしてベッド一つ使って寝やがった。枕まで使って……。
意味も分からずに、この世界に来てしまった。
日本に居た頃は、不幸な出来事が多くて自分自身をいつも悲観的にしか見えていなかった。
他人の事なんか気にしている余裕すらない生活だった。
ありがとう……か。
上辺じゃない感謝の言葉を聞いたのは、いつぶりだろうか。
会社内や取引先でよく使われていた気がするけど耳には残っていない。
ルッツ伯爵のありがとうは俺の耳に残った。
感謝される……悪くない。気持ちが良い。
俺は今後、これからどうなっていくのか、どうなりたいのか分からない。
だけど、俺の力は人の役に立つのではないか。人の為に使えるのではないかとこの時思った。
感謝されるような人間に、そういう人間に俺はなりたい。
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