第6話 偉大なる魔法使い
「ダダン様、こちらの部屋です」
案内された部屋に入ると、ただのだだっ広い部屋。
中央には幅広く奥行きのあるテーブルと、テーブルの上には何か実験をするかのような道具が沢山置いてあった。
「どうぞテーブルの前に。ダダン様に行って欲しい事は、この錬金術の装置に魔力を注いでもらい、動かし、解呪人形を作ってもらう事です」
「魔力ですか?」
「はい」
「魔力なんて使った事がないんですが……」
「お任せ下さい」
スチュワートさんが
「人間誰しも魔力を持っています。多い少ないはありますがね――。私が魔力を今から流します。それを感じ取って下さい」
スチュワートさんの身体から、温かい何かが俺の身体へと流れてくる。
なるほど……これが魔力なのか。
右手から流れてきた魔力が、右足へと。それから上に昇って脳へと。
そして身体の左側へと順番に流れていき、最後は左手からスチュワートさんに。グルグルと循環する。
「どうですか? 魔力を感じましたか?」
「ええ……感じました」
「では、今度は同じように、私に魔力を流して下さい」
「分かりました。やってみます」
今までに感じた事がない感覚が、胸の中心辺りに芽生えた。
意識を集中するとそこは熱い。
ここからか。ここから魔力が生まれるのか。
感覚でそう思った俺は、湧き出る魔力が水のように流れるイメージを想像する。
清らかに胸から肩へ、腕を通って手の平に。そしてスチュワートさんへと流れていく。
「そうですそうです。飲み込みが早いですね」
「なんとなく、分かってきました」
「それでは今のような要領で、ここに手を置いて魔力を流してみて下さい」
テーブルの上に置かれた、呪文のようなものが書かれた石版に手を乗せた。
ふぅ〜と息を吐いて集中する。
石版に流れるように魔力を注いでいく。
カリカリカリカリ! カリカリカリカリ!
ガタガタガタガタ! ガタガタガタガタ!
目の前の装置が、嫌な音を鳴り響かせながら動き出した。
「ちょっとこれ大丈夫なんですか? 爆発とかしないですよね?」
「ええ、問題ありません」
プシュー!
部屋を覆い尽くすほどの煙が、装置から吹き出す。
ゴホッゴホッ。ケホッケホッ。
煙が晴れると、装置の前に一体の人形が出来上がった。
ピエロのような愉快な格好をしている。
これが解呪人形なの……か?
カタカタカタカタ……カクンッ。
自分の意志を持っているかのように人形が動き始めた。
「俺様を呼んだのは、どこのどいつだ??」
えっ!? 喋った……。
「なんだお前達! 黙ってないで何か喋れ!」
「一応俺が生み出した。人形なのに喋れるのか? 一体何者なの?」
「質問が多い野郎だな。俺様は偉大な魔法使いだ。名前はえ〜と……忘れた」
「忘れたって何だよ」
「最後に自分の名前を出したは、三百年振りだからな。忘れたからお前が名前を付けてくれ」
そう言って人形が俺に指を差した。
なんか凄い生意気な奴だなこいつ。
「あなたは、『解呪人形』で間違いありませんか?」
スチュワートさんが、人形に向かって質問を投げかけた。
「解呪人形? 俺様はそんな呼ばれ方をしてんのか?」
「違うんですか?」
「まあ人形って事は間違いないな!」
「カーミカミカミ! こいつ面白いじゃん」
「解呪人形は、喋るとか動くとか分かっていたんですか?」
「いえ、全く。今まで作って出てきたのは、ただの木の人形でした。正直私も戸惑っています
「それでお前は、人にかけられた呪いを解く事が出来るのか?」
「どうだろうねぇ〜。呪いの強さによるかな? 診てみないと分からない」
「つまりは、解呪出来る可能性があるという事ですよね?」
「まあな! 俺様は偉大な魔法使いだからな!」
その動く人形は、カッコつけたポーズをした。
「でしたらさっそく旦那様とお会いして、エリーお嬢様を診て下さい」
「そんな事より、お前の名前は?」
「ダダンだ」
「よろしくダダン! さあ俺様の名前を考えてくれ! カッコいいのを頼むぞ!」
「こんな奴の名前はナルちゃんで良いじゃん」
「ナルちゃんって……分からなくもないじゃん。だけどダダンのセンスゼロじゃん」
急に言われてもなぁ。
魔法使いって俺のイメージでは、どことなく陰湿なイメージがあるんだよな。
だけどコイツの格好がピエロのせいか、なんか道化師、明るいイメージが湧いて出てくる。
「ん〜、よし決めた! リッキーってのはどうだ?」
「リッキー!? 良いじゃないか! 俺様にぴったりだ! 今日から俺様はリッキーだ!」
そう言ってリッキーは、大の字になって天井を見上げた。
「さ、て、と、ちょいと肩を借りるぜダダン」
突然リッキーがフワフワと宙を舞い始め、ちょこんと俺の左肩に座った。
「リッキー!? 今のは何だ?」
「何って浮遊の魔法だよ」
魔法ってやつは何でもありなのか?
すげ〜な。
「それで? 俺様に呪いを解いて欲しいって奴はどこのどいつだ?」
「ルッツ伯爵のお嬢様。エリー様です」
「伯爵? つまり貴族か?」
「左様でございます」
「ふ〜ん」
「それでは参りましょうか」
貴族と聞いた瞬間、心なしかリッキーの声が暗くなった。
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