第5話 ジャンケンの秘密

 「お帰りなさいスチュワートさん」

 「見張り、ご苦労様です」

 

 「ジャーンケンポン!」


 門番している二人が、交互にジャンケンをしてきた。

 ビックリしたけど、声に体が反応し手を出した。


 ここの人達は、ジャンケンが好きなのか?

 疑問が解決しないまま、敷地へと入る。


 見事な庭園と呼べばいいのか。赤い花や黄色い花。白い花まであり、カラフルで綺麗だ。

 仕事をしている庭師の横を通りかかるとまた同じように。

 「ジャンケンポン!」


 「ジャンケンポン!」

 すれ違う全員にジャンケンを挑まれた。


 やっと屋敷の玄関に到着し、スチュワートさんがドアを開ける。

 「「「いらっしゃいませ」」」


 大勢の女性が、花道を作って出迎えてくれた。

 皆が同じメイド服を着ている。この屋敷のメイド達なのだろう。

 ただあまりにも慣れない光景に、たじろいでしまった。


 「ダダン様、屋敷の中へどうぞ」

 「あ、はい」

 屋敷の中へ一歩入る。


 左のメイドから――。

 「ジャンケンポン!」

 次は右。

 「ジャンケンポン!」


 えっ! もしかしてこの人数とジャンケンやらないのといけないの?

 スチュワートさんはジャンケンを止めようとはしていない。


 この家のルールなのか? 趣味か?

 次々とジャンケンをこなしていく。


 なんとか最後の人とジャンケンを終える。

 「ダダン様。二階へお上り下さい!」

 赤い重厚なカーペットが敷かれた階段を上がっていく。

 上がりきると、一階の花道のように二階でも同じような花道が。


 今度は男女。武器を身に着けている人や筋骨隆々の大男。

 料理人っぽい風貌の人や、年配の女性まで幅広い。


 「この中を通っていきます」

 「わ、分かりました。あの〜」

 

 「何でしょうか?」

 「またジャンケンするんですか?」

 

 「はい、お願いします」

 「……」


 「ジャンケンポン!」

 また何十人とジャンケンをする羽目に。

 正直もう面倒くさくなっていた。しかし、ここまで来たら引き返す事もなんか嫌だ。流れに身を任せよう。

 「ジャンケンポン!」


 やっと廊下の奥にあったドアの前に。

 コンコンコンッ。

 「入れ」


 スチュワートさんによってドアが開けられ、部屋に入る。

 長いテーブルの向こう側に、一人の男性が立っていた。

 

 「ジャーンケンポン!」

 俺はグーを出して、相手はチョキだった。


 「見つけてきたのだなスチュワート」

 「はい。ギルドでの依頼及び屋敷の門からここまで全て全勝しました」

 

 「それは凄い。こんなに早く見つかるとは――私の名前はルッツ・バイエンだ」

 「俺は……ダダンと言います」


 バイエン伯爵は、見た目はまだ二十代後半といった所。いっても三十代前半の若さ。

 茶色い髪でオールバックスタイル。スタイルも良い。


 「ダダンには私個人が頼みたい依頼があり、屋敷まで来てもらった。達成すれば一千万出そう。どうだ?」


 「一千万ですか!?!?」

 「ええ、そうです」


 怪しすぎる……。

 スチュワートさんも、この部屋に来るまでに会ってきた人達も皆人当たりは良かった。

 そしてルッツ伯爵も正直言って、見た目と第一印象は良い。


 しかし、金額が金額だ。

 危険でヤバイ依頼なんじゃないか?


 「この依頼受けようじゃんダダン!」

 「何言ってるんだよナイツ。命に関わる依頼かも知れないだろ?」

 「別にヘッチャラじゃん」

 「本当にテキトーだなお前!」


 「ルッツ様。ダダン様にきちんと説明された方がよろしいかと」

 「そう……だな。少し先走ってしまったようだ。座ってくれるかな?」

 「はい」


 「私には五歳になるエリーという娘が居るんだが、四歳のある時突然、体に模様が現れた。それは誰かに掛けられた呪いで、エリーの体を徐々に蝕み、最後には命が果てる呪いだと分かった」

 ルッツ伯爵は、体を小刻み震わせながら、強い口調で言葉を発す。


 「エリーは、今では一日の殆どをベッドで過ごし、食事をしても吐いてしまい、衰弱している。呪いを解く方法は見つけた。見つけたのだが……どうしても作る事が出来ない」


 「その材料を取ってこいって事ですか?」

 「いや、そうではない」


 「材料はもう揃っている。実力のある錬金術師を何十人と集めて何度も作らせたが、誰一人成功する事はなかった。ダダン君には娘を助ける為に『解呪人形ドール』を作ってもらいたい」

 「解呪人形なんて珍しいじゃん」

 「ナイツ知ってるのか?」

 「全く知らないじゃん!」

 「知らねぇーのかよ!」


 「作ってもらいたいって……俺別に錬金術師じゃないですよ?」

 「それは勿論分かっている。何故『解呪人形』が作れないのか? この国一番の錬金術師でも原因不明だという。我々は考えた――運が良い奴が作ると成功するのではないかと!」


 「だからジャンケンで勝ち続ける人間を探していたんですか?」

 「そういう事だ。どうか手を貸して貰えないだろうか?」

 ルッツ伯爵は立ち上がり、見ず知らずの子供、俺に深々と頭を下げた。


 「分かりました。失敗しても文句はナシですよ?」

 「ありがとう」

 冗談っぽくおどけたつもりで言ったが、ルッツ伯爵は真っ直ぐ俺を見つめてお礼を言った。

 彼がどれだけ真剣なのか、その表情だけで読み取れる程に。


 「では早速その解呪人形とやらを作りましょうか」

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