第4話 ジャンケンポン

 失敗しようのないダンジョンを攻略してからは、当たり障りのない依頼を日々こなしていった。

 街の掃除や店の手伝い。はたまた、家の庭に生えた雑草を抜いたりする仕事をしていく。


 そして今日も、誰でも出来そうな簡単な依頼を探しに、ギルドへと向かう。

 ギルドの中へと入ると、一つのテーブルにヘビのような行列が出来ていた。


 「ありゃあ一体なんだ?」

 「さあ」

 そんな行列を尻目に、俺は掲示板の方へと向かう。


 「今日はどれにしようかなー?」

 「外に行くやつにしない? ずっと王都内ばかりで飽きたじゃん」


 「って言っても外は魔物とかいるんだろ?」

 「大丈夫じゃん!」


 外に行くのは少し興味もあるし、弓や剣にもある程度慣れておく必要もありそうだ。

 ナイツの言う通り、近場で出来そうな依頼をするのも悪くはないか。


 「よし! 聞いてみるか!」


 カウンターのお姉さんに、王都の外で行う簡単な依頼を聞く。

 「そうねぇ。やっぱり薬草採取かしらね。王都からすぐ近くの森で、薬草が生えているのも入口付近で奥深く行かなければ安全よ!」


 「分かりました受けます。それとあの行列って何ですか?」


 「あ〜あれ? 今日張り出された依頼があってね。ランク不問。早い者勝ち一名様のみ。ジャンケン二十回連続で勝てば報酬三百万ルギーって依頼が出ていて、皆が挑戦しているのよ!」


 「三百万!? ジャンケンに勝つだけで?」

 「ええ、そうよ! しかも負けても罰則は何もなし! 挑戦はタダだし後でやってみたら?」

 

 「なんでそんな事で三百万?」

 「さあね、ちゃんとギルドで受け付けた依頼だから怪しい依頼じゃないわよ」


 「気が向いたら挑戦してみます!」

 「分かったわ。薬草採取気をつけてね」

 「ありがとうございます」


 カウンターから離れ、出口へと向かう。

 その時に、どんな人が依頼を出してジャンケンしているのか気になり、通りかかるついでにチラッと見る。


 テーブルで冒険者相手にジャンケンをしているのは、紳士のおじさん。

 タキシードに身を包み、シルクハットを被って片眼鏡。


 一体目的はなんだろうか。全てが謎だ。


 ギルドを後にした俺は、王都を出て、薬草採取をしに森へと向かう。


 「近くにこんな森があるんだな。それに薬草もすぐに見つかった。簡単な依頼だ」

 「もうちょっと奥に探検しに行かなーい?」

 「行かなーい! 俺はそういう時にいつも何か不運が起こるんだ。知ってるんだ」

 

 俺はナイツの言う事は聞かず、さっさと街へと戻る。

 薬草採取が思ったよりも早く終わり、日はまだ高かった。


 ならばもう一つ依頼をこなせると思った俺は早速報告しに行く。

 昼時という事もあってか、あれだけ並んでいたジャンケンの行列はなくなり、数人だけになっていた。


 「あら? ダダン君早いわね! もう終わったの?」

 「はい。森の入口に沢山生えてたんで簡単でした」


 「それはラッキーだったわね。確かに依頼通りの薬草を確認しました! こちらが報酬です」

 「ありがとうございます……」


 「ジャンケン……やっぱり誰も勝てていないんですね」

 「まだ五回連続が最高記録みたい」


 「ふ〜ん。じゃあ僕もちょっと挑戦してみます!」

 「ダダン君が三百万手に入れたら、お姉さんに何か奢ってね!」

 ニコッと俺に微笑んだ。


 勿論お姉さんの冗談だと分かっているが、こんな素敵な笑顔を見ると、ちょっと意地悪な事を言いたくなる。

 「ハハハ! こんな子供にたかるなよお姉さん!」

 

 受付を済ませた俺は、紳士のおじさんが座るテーブルへと向かう。

 「おやおや、今日一番の若い挑戦者ですね」

 

 「ジャンケンで本当に三百万貰えるんですか?」

 「ええ勿論です。ただし二十回連続で勝たなければいけませんが」


 「右手でいけよダダン!!」

 「じゃあいきますよ? ジャンケーンポンッ!」


 「ジャンケンポン! ジャンケンポン! ジャンケンポン! ジャンケンポン!」

 五回勝ったところで俺は、右の手の平を見た。


 やっぱり……。

 俺がこんなにジャンケンに勝つなんてありえない。

 給食のジャンケンでも勝った事がないのに。


 ナイツは、やはり幸運を俺に呼び寄せているみたいだ。


 「どうしました? まだたったの五回ですよ?」

 「続きをやりましょうか。ジャンケーン――」


 「ジャンケーンポン! これで二十勝ですね?」

 「お見事です!!」


 おじさんは立ち上がると、俺の目の前に来て跪いた。

 「あなた様に聞いてもらいたい話があります。この後お時間ありませんか?」

 

 「ダダン! 何だか面白そうじゃん」

 「立ってください。子供相手にそんな丁寧な態度はいりませんよ! それに沢山の報酬が貰えるんですから、話なら何時間でも聞きますよ」


 「ありがとうございます! ではギルドの外で待っています」


 「お姉さんこれお願いします」

 「まさか本当に勝っちゃうなんて凄いわねダダン君! ハイこれ報酬ね」


 ドサッ!

 お金がパンパンに入った大きな袋を受け取った俺は、ギルドの外へと向かう。


 外には紳士のおじさんと、ドアに紋章の入った光沢のある馬車が。

 「どうぞ。こちらにお乗り下さい」

 馬車に乗り込むと、緩やかに馬車が進み出した。


 「私は、ルッツ・バイエン伯爵の下で執事を務めておりますスチュワートと申します」


 「ダダン様には、ルッツ様にお会いしてもらい、ルッツ様のお話を聞いて頂きたいのです」

 「伯爵という事は貴族という事ですよね? 何故そんな人が俺に?」

 「詳細は、ルッツ様からお伝えします」

 「はぁ〜」


 カタンッ! 馬車が止まる。

 どうやら到着したようだ。


 「どうぞ降りてください」

 馬車を降りて目の前に現れたのは、絵に書いたような豪邸だった。

 入口には大きな門と門番が。庭は広大で立派な庭園が見える。


 門から屋敷まで、百メートル以上はありそうだ。

 「ウッヒョー! デカ過ぎじゃん!」


 「ではダダン様、参りましょうか」

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