第3話 不思議な力

 「ここがダンジョンか……本当に徒歩三分だったな」

 目の前にある洞窟が、どうやらダンジョンのようだ。

 

 入り口には、王都の子供達が遊びに来るような安全なダンジョンです。

 危険度0。ここに失敗したあなたは、冒険者をやめましょう!

 などと書かれた看板が立てられていた。


 「早く、中に行こうじゃん!」

 「分かった。分かった」

 

 俺は腰に身に着けた剣の柄を掴み、剣を抜く。

 キラリと光る剣身を見て、俺は興奮を覚えた。

 剣を構えると、扱いやすく、かなり良い剣という事が一瞬で分かった。


 俺は学生時代剣道部だった。

 竹刀とは違うし、本物の剣など握った事もないが、そんな俺でも分かる程良い剣。

 

 こいつはラッキーだ!


 「なにジッと剣を眺めてるんだよ。行こうじゃん」

 「ああ、そうだな」

 洞窟の中へと入る。


 中は暗い、どころかむしろ明るい。

 道筋の天井にはランプが下げられていて、キラキラ光る鉱石のような物が地面を照らし、洞窟内は外の様に明るかった。


 それにしても分かれ道など一切なく、一直線だけの道。

 そして目の前に、何やら変な物体が現れた。


 「ナイツ、あれはなんだ?」

 「あれはスライムじゃん」


 「もしかして始まりの町とかによく出てくる最初の魔物か?」

 「よく分からんが、魔物じゃん」


 「強いの?」

 「いや弱いじゃん! 子供が捕まえて投げ合って遊ばれるような魔物じゃん。掴んで壁に投げつけたら倒せるじゃん。剣でもすぐに倒せるじゃん」


 俺はスライムに近づいて触ってみた。

 ブニブニしていて気持ちいい。

 ゼリーよりも柔らかいが、かと言って柔らか過ぎない。

 水色のスライムにチクッと剣を刺してみる。


 突然水のようになり、倒してしまったようだ。

 「本当に弱いんだな」


 洞窟を進んでもスライムしかいない。

 確かにこんな洞窟なら安全だ。他に何かある訳でもなさそうだし。

 そしてドアを見つけた。ドアの上には『終着点』と書かれていた。


 洞窟に入ってから十五分も経っていない。

 危険度0というのは本当らしい。


 そして俺はドアを開けた。

 

 ドアの先は開けた広い場所。人工的ではない神秘的な明るさが、その場所には注がれていて、中心には大きな宝箱が置いてあった。


 「宝箱じゃん! やったじゃん!」

 「罠とかじゃないよね?」

 「大丈夫じゃん? 開けてみろじゃん!」

 俺は宝箱近づき、怖さと興奮が同時に押し寄せ、心臓がバクバクと大きく動くのを感じながら、ゆっくりと開けていく。


 中には弓と矢。矢筒が入っていた。

 「弓矢か……」

 使えないなと思いながら、一応持って帰る事に。


 「これでダンジョンは終わりじゃん」

 「終わりだよね? 道ももうないしね」


 一応この広場を一周してみる。壁を触ってみたり、どこかに隠し部屋がないか探してみるが、何も無かった。


 確かにこんなダンジョンなら失敗しないな。

 洞窟から外へ戻る道中で出くわしたスライムに矢を放ってみた。

 見様見真似で弓矢を射る。それが見事に命中する。


 マジか! たまたまか?

 俺は次々に弓矢を放つ。全て狙ったスライムに命中した。


 「おいダダン! お前凄いじゃん!」

 「いや、流石にこれは……この弓が、実は凄い武器なんじゃない?」

 「そうじゃん!!」

 「ギルドに戻ったら聞いてみよう」


 最近幸運な事が続いているから、レアな武器なのかもしれない。

 とんでもない値段で買い取ってくれたりして?

 期待に胸を膨らませて、帰り道をスキップして帰る。

 

 ――。


 「百ルギーです」

 「今なんて?」

 

 「ですから百ルギーです」

 「本当ですか?」


 「ええ、買取は百ルギーです」

 俺は騙されているのか?

 この武器が、そんな安いはずがないだろ。


 「なんでそんな安いんですか? こんな命中する弓なのに」

 「ハハハ! 命中するって? 嘘でしょ! 当たらないでしょ!」

 

 「嘘じゃないってお姉さん」

 「ダダン君? あそこ見てみて!」

 お姉さんに言われた場所を見ると、同じ弓が樽の中に、山のように無造作に置かれていた。


 「どういう事??」


 「ダダン君が持ってきた弓は山のように持ち込まれるのよ。正直言ってもういらないわ!」

 

 「それにこの弓矢は、物の特性を視れる鑑定士に視てもらったら、どんな人が扱っても命中率が0.1%なの。鑑定士に視てもらったから間違いない。弓の達人が使っても全然当たらないから武器としても最低。本当ならお金にすらならないけど、ギルドマスターが善意で百ルギーをあげることにしているの。ギルドとしては赤字だけどね」


 何だそれ……じゃあなんで俺はあんな簡単に当たったんだ?

 まさか……ナイツのおかげなのか?


 「鑑定士に鑑定してもらうってどうすればいいんですか?」

 「鑑定ギルドに行けば視てもらえるわよ。でも高いわよ? 最低でも十万はかかると思うわ。ちょっと難しい物だとすぐに百万とかかかるわよ?」


 「高っ!! 分かりました……」

 「弓はどうする?」


 「せっかくなんで持ち帰ります」

 「そう? 分かったわ」


 俺は宿に戻り、ベッドに仰向けになってナイツを眺めた。

 実はこいつ、不幸とか不運を呼び寄せる指輪じゃないのではないか。

 じゃないと俺にこんなラッキーな事が何度も起こるはずがない。


 「なあナイツ! お前は一体何者でどんな指輪なんだ?」

 「知らないじゃん。鑑定士とやらに視てもらったら分かるんじゃん?」


 「俺の所持金で視てもらえる訳ないよ。でもいつかは、ナイツの正体を知りたいな」

 「オイラだって自分の正体を知りたいじゃん! だから――つかは――ぜ――相――」


 気付いた時には、朝になっていた。

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