第2話 出会いと初めての経験
いらっしゃい? ここが店?
しゃがれた声で老婆がそう言い、こちらをチラッと見た。
「ヒャッヒャッヒャッ! 小僧は運が悪いさえ〜。ゆっくり見ていきな」
「……」
「ここは、何のお店?」
「ヒャッヒャッヒャッ! 見て分かる通りガラクタを売っているのさえ」
膝を叩きながら老婆は爆笑する。
「オイラを買えじゃん! お前のようなやつを待ってたじゃん!」
目の前に並べらた中にある、指輪から話しかけられている気がする。
「おばあさん……ここにある商品は喋ったりします?」
「喋るだって? ヒャッヒャッヒャッ! 面白い事を言う小僧じゃないかえ」
「いや、だって……」
とにかく気になった俺は、その指輪を手に取った。
「そうだ。良いじゃん良いじゃん! オイラを指に
「その指輪、気に入ったのかえ?」
「この指輪は、普通の指輪なんですか?」
「呪いの指輪、不運の指輪とも言われた代物さえ。それを最初に身に着けた貴族は、不運に見舞われて没落し処刑。数々の人間を不運にしてきたとされる代物だえ」
何だ……その物騒ないわく付きは。しかも不運って。
俺が身に着けたらさらに不運になってしまうじゃないか。
そう考えていると、手が滑り、手の平から指輪が落ちた。
マズイ!!
反射的に体が動いて拾う事ができ、地面に落とさずに済んだ。
はぁ〜。良かった。
地面に落としたら流石に買わないといけないもんな。
「流石はオイラが求めた男じゃん!」
「えっ?」
掴んだと思った右手を開くと、指輪は俺の中指に
すぐに外そうとしたのに、何故か指輪が外せない。
力一杯引っ張っても少しも動かない。
「そんな事をしても無駄じゃん! お前はもうオイラと一心同体じゃん!」
「何だよそれ! ふざけんな……」
「ヒャッヒャッヒャッ! 気に入られたみたいだえ!」
「なんで……これ……外れないんだ」
「ヒャッヒャッヒャッ! お買い上げありがとうございます」
クソ。とりあえず買うしかないか。
「いくらですか?」
「千ルギーだえ」
意外に安いな。良かった。
ボッタクられる値段だったらどうしようかと思っていた。
お金を探す。
あれ……あれ……お金がない。え? なんで? もしかして? あの時か?
俺は串焼きを買った後にぶつかった人を思い出した。
「あぁぁぁぁぁぁ! あれかぁクソー!」
「どうしたんだえ?」
「すいませんおばあさん。どうやら……スリにあったみたいで、お金がないんだ」
「ヒャッヒャッヒャッ! ヒャッヒャッヒャッ! そいつは不運だえ」
「そうかい、そうかい。その指輪は小僧にくれてやるえ」
「いいんですか?」
「誰も買う人がいなくて困ってたえぇ。別に無料でいいさえ」
「次ここに来たときに必ず払います」
「別にいいさえ」
「キミ! キミ! 探したよー!」
俺は、左肩をポンと叩かれた。
叩かれた方を見るとそこには、武器と防具を身に着けた人が立っていた。
「これ君のだろ? たまたま見てて取り返したんだ!」
渡されたのは、さっき取られたお金が入った袋だった。
「あ、ありがとうございます……」
「スリとか多いんだ。次からは気をつけろよ少年」
その人はそう言って去っていった。
マジかよ。超ラッキー!
絶対に見つからないし返ってこないと思っていた。
「そうだ! おばあさんこの指輪の代金――」
すぐ側に居た老婆の姿が、跡形もなく無くなっていた。
えっ? 一体どういう事?
何が起こったのか分からない俺は、その場に立ち尽くした。
「おい! おい! 相棒!」
指輪の声で我に返る。
「何だよ一体……」
「今日から一緒なんだから相棒じゃん? 名前はなんて言うんだ?」
「ダダンって名前だよ」
「ダダンか! ちなみにオイラに名前はまだ無いじゃん!」
「なんだ、マダナイジャンって言うのか」
「違うじゃん! 名前はないじゃん」
「ナイジャンか」
「違うじゃん! ダダンが名前を決めてくれじゃん!」
「今のは冗談だよ冗談。冗談も通じないのかよ! それにしても名前か〜」
「そうだなぁ。ナイツってのはどうだ?」
「ナイツ……いい響きじゃん! 気に入ったじゃん!」
「それは、よござんした。所でナイツって不運を呼び寄せる指輪なのか?」
「カーミカミカミ! そうとも言われてるじゃん!」
「最悪なんだけど。ただでさえ俺は生まれながらにして不運なのに!」
「オイラはお前のような男と出会うまでに何十年もかかったじゃん。オイラは嬉しいじゃん!」
「嬉しいって、俺は嬉しくないわ!」
「まあそう言うなじゃん。これからよろしくじゃん!」
変な指輪、変な相棒を持ってしまったようだ。
どうにかして外せないものだろうか。
これから不安でしかない。
とにかく俺は、冒険者ギルドとか言う場所に行ってみることにした。
裏路地を抜けて中央通りに戻り、正面に見える大きな建物を目指した。
剣が交差しているマークが特徴の建物で、とても大きい。
ドアを開けて中へと入る。
中はテーブルが沢山並べられ、そこでは食事や酒を楽しむ大勢の大人達。
奥にはバーカウンターがあり、そこで注文などをしているようだった。
俺は真っ直ぐ歩みを進め、バーカウンターにいるお姉さんに話しかける。
「こんにちは!」
「あら? どうしたの?」
「お姉さん、冒険者ってなんですか?」
「知らないの?」
「詳しくは分からないから、聞きたいなと思って」
「そうなのね! それじゃあ教えてあげるわ」
冒険者とは?
お姉さんの話を聞くと仕事を斡旋してくれる場所である事は間違いない。
十四歳から手続きとお金を払えば誰でもなれるみたいだ。
ランクというものがあり、A〜Eの五段階。
Aに近づくと難易度の高い依頼で報酬も多いとか。
冒険者は何でもやるそうで、ペットの世話から買い物代行。
魔物退治にドラゴン討伐まであるという。
魔物とかドラゴンって……ゲームかよ。
話しの中で魔法の話が出てきたりして、この世界はまさに、よく空想の世界で描かれるようなファンタジーの世界なのかもしれないと俺は思っていた。
指輪が喋るしな……。
精神的におかしくなって幻聴かもと疑ったが、どうやらそんな事もなさそうだ。
「あそこに見える掲示板から依頼書を取ってここで仕事を受理するわ。終わればまたここに納品や報告を終えれば依頼は完了。質問はある?」
「どうすればランクが上がるんですか?」
「いい質問ね。ランクの上げ方は、ランクの依頼を十回成功した時点で、成功率や失敗率、さらには仕事ぶりを見て、合格ラインに達していたら昇給試験を受ける事が出来るわ。そして昇給試験に合格すればランクが上がるって感じね」
「なるほど……」
冒険者か。
今はまだいいけど、仕事がないときっと数日でお金が尽きる。
この世界の事を知らな過ぎて危ないかもしれないが、Eランクならきっと大丈夫だろう。
仕事をこなしていきながら徐々にこの世界を調べていけばいいか……。
「よし! お姉さん俺冒険者登録します!」
「それじゃあこの書類に記入をお願いね」
「はい」
書類には、名前と年齢、出身地など簡単なものだけだった。
「後は登録料に三千ルギーかかるわ」
「これでお願いします」
「ちゃんと預かりました。これが冒険者の
「冒険者か! 面白そうじゃん!」
「なんでお前が、面白がるんだよ」
「えっ!? どうしました?」
「あ、でいえ! 何でもないです」
「今日はもう遅いから、依頼受けるなら明日にした方がいいわ」
「お姉さんありがとうございます。また明日来ます!」
俺は冒険者ギルドを後にし、近くにあった宿屋に泊まる。
その宿屋でなんと、前払いをもらった冒険者が緊急で行く仕事が出来て、泊まる前に宿屋を出た部屋がちょうど空いていて、たった百ルギーで泊まることが出来た。
ラッキー! しかも中々良い部屋だ。
外を見ようと窓に近づくと、ガラスに自分の姿が映り、初めて俺自身の姿を見た。
外国人の子供のような顔つきと、クリーム色した髪の毛。クルクルした天然パーマで、鼻から頬にかけてそばかすがある少年だった。
本当に違う人間で、ここは地球でもないんだなと改めて実感しながら、横にあるベッドに倒れ込んだ。
今日はあまりにも長く、あまりにも濃い一日で疲れ切っていた。
そのまま意識がなくなっていく。
「おーい! ダダン! ダダン! 起きろじゃん!」
「ん〜。どうした?」
「もう朝じゃん! そうだ。冒険へ行こうじゃん!」
「なんで朝からそんなテンションが高いんだよ」
「オイラには睡魔なんてものがないじゃん。ほら早く! 早く!」
「分かったよナイツ」
早速支度し、冒険者ギルドへと向かった。
朝一番だからか、昨日の活気はまだなく、ギルドは空いていた。
掲示板の前に立って、依頼を探していく。
Eランク、Eランクの依頼は……。
庭の雑草むしり。ペットの散歩。壊れた屋根の補修。
本当になんでもあるな!
「右上の依頼見てみろダダン! あれ面白そうじゃん」
「どれどれ?」
初心者募集! 超初心者向けダンジョン! 王都から徒歩三分!
死亡者0。負傷者0。成功率百%。失敗率0%。
と書かれた依頼が貼ってあった。
いくらなんでも逆に怪しいだろ。
「ダンジョン行こうじゃん」
「武器とか持ってないよ俺!」
忽然と人の影で目の前が暗くなり、俺は後ろを振り向いた。
二メートルはあろう体躯した大男が俺の後ろに立っていた。
「小僧! この初心者ダンジョンに向かうのか?」
「いやぁ。まあ行こうかなと」
その大男は、俺の姿を舐めるように下から上へとじっくり見た。
「手ぶらでは不安であろう。これをやる!」
渡されたのは剣。
「あの! いくら払えばいいですか?」
「いらん! 私の気まぐれだ気にするな! それにそんなやわな剣、私は使わないしな」
大男は、俺に背を向けてその場を後にしようとする。
「ありがとうございます! あの! 名前だけでも教えてもらえませんか!?」
俺の声に振り返った。
「私の名前はオーエンだ」
オーエン。
マジかよ……。武器を貰えるんて。超ラッキー!
「良かったなダダン! これでダンジョン行けるな」
「ああ……」
そう言えば、ナイツの指輪を嵌めてからお金が返ってきた。
宿屋の時も今もそうだ。こいつのせい……おかげなのか?
「何だよそんなにオイラを見つめて! オイラにそんな趣味はないじゃん。ダダンは相棒だが、オイラは女が好きじゃん」
「お前ってなんか愉快な奴だよな」
「褒めるなよダダン」
「……」
掲示板の依頼書を手に取った俺は、人生初の依頼、初ダンジョンへと向かった。
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