日本一不運な人間が、異世界一幸運な人間に?異世界でなら幸せになっちゃってもいいですよね?

yuraaaaaaa

第1話 不運な男、異世界に逝っちゃいます

 世界は平等である。

 そんなのは偽善で嘘だ。


 絶対に世界は不平等だ。

 イケメン。可愛い。美人。

 ただ表面的なモノが良いだけで、人生がイージーになる。


 運が良い。


 親が金持ち。それだけで人生がイージーモードだ。


 運が良い……。


 外見だけじゃない。

 頭が良い。運動が出来る。身長が高い。耳が良い。目が良い。指先が器用。健康な体。

 持って生まれた何かがないと、なれない職業だってある。


 運が良い。


 言葉に出さないだけで、ほとんどの人は思っているだろう。

 世の中には努力で補えない『才能』『天才』は存在すると。


 俺のおばあちゃんがこの前死んだ。115歳だった。

 死因は老衰。


 眠るように死んでいったとの事だった。悲しいけど、そんな悲しい訳じゃない。

 115歳……凄い。


 おばあちゃんは、魚も野菜も食べない人だった。

 肉ばっか食べて、朝からコーラを飲み、コーラが大好き。

 酒も飲むし、タバコも吸っていた。


 医者には、そんな生活をしていると早死するぞ。

 といつも言われていたらしいが、注意していた医者が全員先に死んだ。

 おばあちゃんは、笑っていつも俺にそう話していた。


 おばあちゃんの身体も、一つの『才能、天才』の類だろう。


 今述べてきたのは、全て目に見えるモノしかない。

 目に見えない『才能』もこの世にはある。それは……。


 『運』だ。

 

 しかし、それだけは誰も信じていない。

 いや、信じたくない。認めたくない。

 という表現の方が正しいだろう。


 でも確実に存在する。圧倒的に『運』が良い人間は存在する。


 そして俺は、生まれながらにして圧倒的に『運』が悪い。

 普通に歩くと、一日に一度は鳥の糞が身体にかかる。

 だから子供の頃から毎日晴れでも傘を差していた。


 上を気にすると、今度は下で犬の糞を踏む。


 高校受験は手違いで受験資格を失い、大学受験では受けた事にもなっていなかった。

 仕事して給料が振り込まれないなんて事もあった。大事な取引の日には事故。

 初めての海外旅行ではスリに遭い、パスポートも盗られた。


 人生を思い返したら、数え切れない程の不運に見舞われてきた。


 そんな俺が、今オヤジ狩りにあっている。

 こんな時代に……ありえないだろう。目が合っただけだぞ。


 「イェーーイ! ゆうTVを見てる皆〜。今日はおっさんがこの橋から川に飛び込みまーす! 面白そうでしょ!?」

 

 肩と背中にはタトゥー。坊主頭で半分は金髪で半分は緑色。耳と口、鼻にはピアス。

 どんなセンスしてんだよ。

 他に二人の男と女が三人。


 「ゆうくん最高〜! 面白そう〜!」

 俺は目が合っただけで何発も殴られた後、引きずられて今この場所にいる。


 「おい! オッサン! 早く飛べよ!」

 「「「ハハハ、ハハハ」」」

 人を人と思っていない、馬鹿にした笑い声が聞こえる。


 俺が何したって言うんだよ。


 ここで飛ばないなんて事をしたら、きっとボコボコにされるだろう。

 いや、むしろ飛び込んだほうがいいかもしれない。


 川に飛び込んだ後まで追ってくる事はないだろう。


 よし!

 飛び込んでやる。


 「「「とーべ! とーべ! とーべ! とーべ!」」」

 バシャン!!


 飛び込んでやったぞ!!。


 あ! まずい!

 そういえば俺……泳げないんだった。


 俺の人生最後はこんな終わり方なのか?

 苦しくなっていき、徐々に意識が遠くなっていく。


 ――――。



 「痛ぇー」

 頭がガンガンと痛み、痛みで目を覚ました俺は、体を起こした。


 ここは、どこだ?

 天国? 地獄?

 というより、死んだ人間に痛みとか感覚があるのか。


 何が起きているのか全く理解出来ない。

 全く見覚えもない場所で、頭が混乱している。


 俺は、立ち上がって周りを見渡す。

 目の前にある土の道には車輪の跡のようなものがあり、遠くまでそれが続いていた。

 線路のように跡を辿っていけば、どこかに辿り着けるはずだと思い、俺は歩き始めた。


 死ぬ前の頃とは目線の高さが違う。

 明らかに身長が低い。


 それに知らない格好と靴。靴下は履いていない。

 肩がけのバックを下げている俺。中を見ると、お金が入った小袋と少しの食料、水が入っていた。


 どう考えても俺……これって生きているよな?

 肌に感じる風と匂い、地面を歩く感覚、そして空腹と喉の渇き。

 それらが俺に、これが現実だという事実を突き付ける。


 ただ、俺が何故生きているのか分からなかった。

 とにかく今は進もう。


 どれだけ歩いたか分からない。時計も持っていないので時間すら分からない。ただ太陽は、てっぺん付近にある。


 少し坂道になっている道を歩いて頂上に到着すると、そこから見える景色の先に、街が見えた。

 その街は周りが壁に囲われた街で、ここが日本ではない事が一見いっけんで分かる。


 ただ、街だと分かる場所を見つけた俺は、ホッとしたと同時にテンションが上がった。


 ポトッ――。

 右肩に何かがかかった。

 生々しい温度と臭いですぐに分かった。


 「ボギャー! ボギャー!」

 聞いたこともない鳴き声の鳥が空を飛んでいた。


 「テメェーか! この野郎!」

 大声で叫んだが、当然反応が返ってくる事もない。


 俺は鳥を追いかけるように走って街を目指した。

 身体が軽い。この身体はどうやら体力があるみたいだ。


 「ハァハァハァハァ……」

 街の入口にやっと到着した。

 調子に乗りすぎたか、息を整えるので精一杯。


 「随分遠くから走ってきたな小僧。水でも飲むか?」

 槍のような武器を持ったおっさんが俺に水をくれた。


 水を飲み干した俺は、お礼を言う。

 「ありがとうございます」

 「随分丁寧な小僧だな。王都で仕事でも探しに来たのか?」


 「えっ!? ああ、はい!」

 「入門に必要な身分証明を持っているか?」

 「え〜と……これですか?」

 バッグの中にある丸められた紙を見て、その紙を渡す。


 「……うん。十四歳か! ブロッコリ村のダダンか! 冒険者でもなりにきたのか?」

 「え〜と、まあそうですね」

 冒険者? 何だそれは……俺はどうやらダダンという名前らしい。おっさんの言葉には、適当に相槌を打つ。


 「門を潜って道を真っ直ぐ歩いていけば大きな建物が見えてくる。そこが冒険者ギルドだ」

 「はぁ。分かりました。ありがとうございます」

 「ようこそ! ここはパンプキン王国の王都、パンプキンだ」

 丁寧にお辞儀をした俺は、門を潜り街へと入った。


 目の前に広がった世界、街並みは、まるでどこか別世界に入り込んだような景色だった。

 学生時代に一人で旅行に行った北欧の街並みのようだ。


 騒がしく活気のある通りを進んでいく。

 出店などが並び、買い物をする人々でごった返していた。

 上京してきた田舎者のように、俺は辺りをキョロキョロと見渡す。


 「おい! あんちゃん! 王都は初めてか?」

 俺は声をかけられた方に顔を向ける。

 「そうそう! お前だよ!」

 屋台で肉を売っているおっちゃんに話しかけられた。


 「今来たばっかりです」

 「じゃあこいつを食った方がいい! 俺の店自慢の串焼きをな!」

 「有名なんですか?」

 「おうよ!」


 「じゃあ一本貰います」

 「はいよ! お代は百ルギーだ」

 バッグから袋を取り出し、勘でお金を渡す。


 「お釣りは九百ルギーな」

 「どうも」

 お釣りと串焼きを渡される。


 美味しそうな匂いが、鼻と胃袋を刺激する。

 そう言えば、俺は気が付いてから何も食べていなかった。


 グルグルグルグルギュ〜。

 凄い勢いでお腹が鳴った。


 ヨダレが出る。さっそく歩きながら一口を食べる。

 クゥー!!


 噛んだ瞬間に肉汁が飛び出し、涙が出るほど美味しかった。

 あのおっちゃん、やるなぁ。


 「いて!」

 「おっとごめんよ~」

 味に感激していたら、人とぶつかってしまった。

 気をつけて歩かないとな。


 さらに一口食べようとした時――。

 「にゃーー!!」

 飛び出してきた猫が、俺の串焼きを横取りしていった。

 

 「あーーもう! なんて不運なんだよ!」

 俺は猫を追いかけた。


 「まてーー!!」

 人との間を走り抜けて、横道に逸れた猫を追う。


 建物と建物の間に入っていく。

 入り組んだ道に入り、結局見失ってしまった。


 いつもこうだ。何かあれば不運が俺を襲う。

 まあいい。また食べられるだろう。


 さっきの道に戻ろうとした時。

 「おい! おいお前! オイラの声が聞こえる!?」

 

 耳元で話されているような、脳に直接話されているような感覚に陥る。

 どこだ? どこから聞こえているんだ?


 「こっちだ! こっち! こっちじゃん! そっちじゃねえこっちじゃん!」

 聞こえた声の方を見ると、裏路地に一人の老婆が座っていた。


 「そうだ。こっちこっち! こっちに来いじゃん!」

 その声が気になり、俺は老婆の方へと近づいていく。


 ゴザのような敷物が敷かれ、ローブを羽織って地面に座っている老婆。

 ガラクタのような物が無造作に並べられていた。


 「いらっしゃい」

 老婆は口を開いて、俺にそう言った。



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