第26話 ハッピーなおもちゃ

 トラマーだったものを踏みつけ、ジーターはタバコに火をつける。

 瞬殺だったためか、構成員たちも違和感に気がついていないようだった。あるいは、日常の一部として捉えられているのかもしれない。


 そんな中、


「おー、ジーター。殺っちまったか」

「ボス。この下衆野郎、やはり舐めた口叩いてきたぜ。だから殺っておいたよ」

「そうかい。まあ、オマエのやったことに間違いはねえ」

「だろ? それで、コイツの装着してたギア、どうするよ?」

「あぁ? ギアごと丸めて、ゴミ収集車に打ち込めば良いだろうが」

「いや、それじゃ勿体ねェ。正気度の高けェ子分にプレゼントしたほうが得だぞ──」ジーターの言葉を遮り、「そうだな、カルエにくれてやるのはどうだ? アイツ、アラビカとやり合うつもりなら、攻撃型のギアがほしいはずさ」

「また思いつきで……、まあ良いや。アンタが言うんなら、おれが届けてくるよ」


 *


 カルエとカリナはレースゲームに勤しんでいた。

 子ども相手だ。当然、手加減くらいする。ただ、カリナは改造の性質上、とても勘が鋭い。なので、程よく手を抜かなければならない。意外と難しいな、と感じながらも、カルエは30戦目を15勝15敗で飾った。


「兄ちゃん、あともう一回やろーよ! 次で白黒つけよーぜ!」

「ようやく解放される……」

「んん? なんか言った?」

「いや、なにも」


 その構図を傍から見ていたルキアは、ここ何日なかなかお目にかかれなかった、カルエの不機嫌そうな表情に違和感を覚える。


(……予知夢? で見られなかった未来ってことかしら?)


 いまのカルエは、表面的には笑顔だが目は笑っていない。4日前のカルエ・キャベンディッシュがしばしば露呈させていた表情だ。

 だから、ルキアは疑念を覚える。とはいえ、指摘しても交わされるだけだとも思う。

 そんな状況で、


「……!? テレポートで侵入!?」


 ルキアは、『シックス・センスVer3.5』の力で危険を感じ取る。それは即座に言葉となり、カルエの耳へも届いた。


「テレポート? ああ、ジーターが来るのか」カルエはコントローラーを手放し、「ごめんな、カリナ。すこし野暮用ができたみたいだ」

「えーっ!? まだ決着ついてないよ?」

「ルキアに相手してもらいな」

「あのお姉ちゃんに!?」

「驚くこと?」

「いや、あのお姉ちゃん、あたいのこと睨んでくるからさ……」

「だってさ、ルキア」

「睨んでなんかないわよ」


 とか話していると、部屋の中に誰かが現れた。無から、きのう会ったブラッドハウンズのNo.2が現れたわけだ。


「貴方は……」

 ルキアの言葉を無視し、「あァ? カルエ、オマエ妹いたの?」ジーターはカルエと向き合う。

「まあね」疲労困憊といった表情だ。

「なんでそんなに憔悴してるんだよ。まあ良いや。ハッピーなおもちゃ持ってきたぞ」


 ジーターはカルエのもとへ、誰かの右腕を投げた。


「ばっちい! 誰かの腕?」


 カリナは、汚い虫でも見たかのような態度だった。


「…………、腕?」


 ルキアは、怪訝そうに、なおかつ顔をやや蒼くした。


「ほらね、ルキア。無根拠な万能感に酔った人間は、必ず自滅する」


 カルエは、その腕からギアを取り出し、自身の腕に取り付けた。

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