第25話 インテリ気取りは、暴力主義者と取引を試みた
「よろしい」
その態度に満足したのか、トラマーはSDカードらしきものを置いて去っていった。
カルエとルキアは顔を合わせ、互いに首を横に振る。
「なんなの。アイツ」
「ムカつくヤツなのは間違いないさ。でも……」
「でも?」
「無根拠な万能感に酔った人間は、必ず自滅する。おれが思うに、アイツは──」
「ねえ、ねえ!! この家ゲーム機ないの?」
預けられた幼女カリナは、壁に落書きしていても意味がないことに気づいたのか、テレビをつけ始めた。カルエは、「あるよ、たぶん。レースゲームでもやろうか」とカリナの相手をする。
「……、まあ、貴方が言うように、自滅することを祈るわ」
ルキアは肩をすくめながらも、無理やり施錠された玄関ドアを直しに向かった。
*
「ボス、なんか警察の偉いのが会いたがってるらしいぜ?」
「なんか偉いのが、じゃ分からんよ。ジーターに対応させとけ」
マルガレーテ率いるブラッドハウンズの事務所では、カルエの提示した目的に向けて準備を行う構成員で溢れかえっていた。そんな繁忙期に、オレンジ色のロングヘアと赤い目が特徴的な美人マルガレーテは、自身の最強の部下に責任を投げたのだった。
「ボス、珍客は第3警察署の副署長だ。どうする?」
「あぁ? なんでウチらと反目してるヤツが来るんだよ?」
「知らんよ」
「面倒臭せえ。適当に応対してやれ。舐めた口叩くようだったら、ぶっ殺しても構わん」
「御意」
そんなわけで、高身長でアスリート並みに鍛えている、スーツが良く似合うジーターは、事務所の応対室へ向かう。
「おお、クソ野郎がなんの用だ?」
「あ? なにほざいてるんだ、社会のダニ虫が」
「汚職警官の部下なんざ、クソに決まってるだろうが。で? 話ってなんだ?」
「チッ、てめェンところのボスは出てこねェのかよ?」
「ボスは忙しいんだ。オマエと違って」
友好的な雰囲気からもっとも程遠い現場で、ジーターは座ることなく、トラマーを煽り散らす。
「けッ。ムカつくヤツらだぜ。カルエ・キャベンディッシュは従順だったのに」
「あァ? オマエ、なに? カルエになんか命令した?」
「したが、なにか問題でもあるのか?」
「問題か」
刹那、ジーターは近くにあった花瓶をトラマーの頭にぶつけた。なにが起きたのか分かっていないトラマーに対し、ジーターは言う。
「てめェ、ブラッドハウンズの情報網舐めすぎだろ」トラマーの胸倉を掴み、「てめェがアラビカのクソ野郎を踏み越え、出世してェことくれェ分かってるんだよ。それでおれらも利用しようってか? あーあ。最近の警察は礼儀がなってねェなぁ」頭突きをくらわせた。
「て、てめェ……!!」
「言っておくが、ランクAのてめェじゃ
頭から血を垂らし、朦朧とするトラマーを押し倒す。そして、ジーターは改造済みの脚で彼の頭を踏み潰した。
「ッたく、暴力主義者と取引できると思うなよ。インテリ気取りが」
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