第24話 因果応報をくらう者

「兄ちゃん~抱っこして~!!」


 が、カリナは純粋で汚れを知らない目で、カルエに抱っこを求めてきた。カルエはすこし考えるが、まあ敵対的にも見えないので、彼女を抱き寄せる。


「わーお! 兄ちゃん、手が改造してある~!! かっこいい!」

「ありがとう。ところで、カリナ。どうやってここまで来たの?」

「えー? なんか、さっきのトラマー? っていうヒトに車で連れてこられた!!」


 カルエとルキアは目を合わせ、顔文字みたいに口を開けてしまった。


「それってつまり……」

「現住所がバレてるってことよね……?」


 一体、トラマーはなにを考えている? MWFのカルエを逮捕したければ、カリナは必要ない。住所が分かるのであれば、大量の警官を配備しふたりを捕まえれば良い。しかし、第3警察署の副署長はその手を打たなかった。なにか裏工作を仕掛けられているような気分になる。


「と、ともかく、マルガレーテに連絡しよう。隠れ家が当局にバレてるのなら、面倒なんて騒ぎじゃない──」


 そのとき、

 頑丈なロックのかかっている、玄関ドアが蹴り飛ばされた。けたたましい音とともに、だ。

 ルキアは机に置かれていた拳銃を手に持つ。

 そして、珍客は3人のいるリビングへたどり着いた。


「よう、社会のゴミども」


 茶髪で白いスーツを着ている、筋肉質な男トラマーが現れたのだった。


「あー! さっきのおまわりさんだー!」


 緊迫が深まる中、カリナだけが呑気な態度だった。トラマーはカリナの言葉を無視し、


「オマエら、おれと協定を結ばねェか?」


 と、カルエの目をしっかり見据えて言った。


「……協定? なんの約束事だよ」カルエが答えた。

「アラビカを引きずり落とすために手を組むんだよ。おれァ、もうあの野郎にはついていけねェ」

「副署長ともあろう者が、反旗を翻すわけ?」ルキアは怪訝そうだ。

「そういうことだな」あっさりと返事し、「ただまあ、当然オマエらもおれを信じられねェだろう。だから、そのガキをくれてやる。相当な戦力だ。大事に使えよ」


 大人の話に飽き、またもや壁に落書きし始めるカリナをよそに、トラマーは続ける。


「協定内容はシンプルだ。警察署のデータならくれてやるから、オマエらやマルガレーテでアラビカを消せ。それに、これは市長の命令でもある。もうこの街にアラビカみてェなヤツは必要ねェ。オマエらだって分かってるだろう?」


 涼しげに語るトラマーへ、カルエが眉間にしわを寄せながら言う。


「丸投げってことかよ。自分の手は汚さずに、出世コースに乗りたいと?」

「それのなにがいけないんだ?」即答だった。


 なかなかのクソ野郎だ。原作でも狡猾な性格だったが、いざ目の前にしてみると、余計に悪賢しい印象を覚える。


「分かったか? 分からねェなら仕方ない。ここでオマエらを逮捕するだけだ」


 スーツの脇ポケットに手を突っ込んでいるトラマーは、しかし凄まじい実力を誇る存在でもある。いま対峙しても、勝てるかどうかは定かでない。


 なので、カルエは舌打ちしつつも、


「分かったよ、腐れ外道」


 と、悪態をついた。

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