第15話 "いまの貴方のほうが好き"
承知の上だった。カルエ・キャベンディッシュは原作でも、最重要指名手配犯、モスト・ウォンテッド・フェージティヴ、略してMWFにもなってしまうからだ。それが(とてつもなく)早く訪れただけに過ぎない。
「武器取引?」
しかし、ルキアが疑念に感じたのはそこではなかったらしい。彼女はカルエの目を覗き込む。
「アラビカとオルタナが武器を売り買いしようとしてたってこと? 貴方、なんでそんなこと知ってるのよ? やっぱり貴方、人格乗っ取られてるでしょ?」
ルキアの疑念は収まらないようだった。彼女は不安げに、
「どうして、そんなこと知ってるのよ?」
カルエは一瞬黙り込み、ルキアの目をじっと見つめる。カルエの中には、この物語の大ファンである少年の意識が入り込んでおり、物語の顛末を知っている。だからこそ、不意に情報を漏らしてしまうことが多々あった。これまでも、いまも。
そんな中、一瞬の静寂を切り裂くように、
「夢で見たんだ」
カルエは語り始める。
「3日前、おれは悪夢を見てるみたいにうなされてただろ? そこで見た夢は、おれに色んな情報を与えてくれた。オルタナの豚野郎とアラビカが取引を企ててることや、マルガレーテの弱点が胸周りだとか……。まあともかく、予知夢が使えるようになったらしい。おれは」
ルキアは驚愕と疑問が入り乱れているような表情で、こちらを見つめてくる。
「可愛いなあ」思わず言う。
「惚けないで。予知夢が使えるようになった? それは結構なことだけど、貴方もうひとつ変わったものがあるわよね?」
「なにが?」
「性格よ。そんなに温厚そうな話し方するようなヒトじゃなかったわ、貴方は」
どこまでもルキアは問い詰めてくる。怪訝そうな顔しているルキアも愛くるしいなぁ、とかふざけたことを考えているカルエだが、ここで全部を暴露するのは良くないような気もする。
「それは前も言ったろ? ヒトは変わり続けるんだよ」
「すこしずつ変わってくものなんじゃないの? ヒトって」
「それは──」
そんな折、携帯電話が鳴った。ラブ・コールを飛ばしてきたのは、きのう同盟を結んだランクAAAの、最重要指名手配犯MWFのマルガレーテだ。
「もしもし」
『カルエか? おめえ、MWFに指定されたみたいだな。隠れ家用意してやろうか?』
カルエが電話に応える頃、ルキアはボソリとつぶやく。
「……まあ、いまのほうが好きだけど」
電話のスピーカーを一旦オフにして、カルエはルキアに微笑みかける。
「なら良いじゃん。おれもルキアのこと好きだよ。愛してる」
「は、はあ!?」
慌て顔を赤くするルキアをよそに、
「ああ、用意してくれるとありがたい。メイ地区で活動してることまでバレちゃったしな」
『了解。メイ地区はアラビカの手が届いちまうし、別のシマに移ったほうが良いな』
「と、いうと?」
『あたしのシマに来い。マーキュリー区だ。タワーマンションの一室に暮らすってのも、良いものだぜ?』
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