第3話 ウィング・シティ
噛ませ犬に生まれ変わってしまった少年、基カルエ・キャベンディッシュ。まず自らが乗り移ったと思われるカルエのスペックを再確認するべく、ルキアへ訊く。
「とはいえ、悪夢が鮮烈過ぎて別世界に入り込んじまった気分だ。色々確認しておきたい」
「なにを確認するの?」
「まずウィング・シティという箱庭、いや、おれたちの街だな。この街を一言で言うと?」
「そんなにひどい夢を見たの? まあ良いわ。一言で表すのなら、『世界最悪の街』ね」
「だよな。『夢が眠る街』とも言うけど。んじゃ、おれとルキアの立ち位置は?」
「貴方はランクB。私はランクCね」
「それだけじゃ説明不足だよ。誰かに説明するつもりで言ってくれ」
「注文が多いわね……。ランクというのは装着できるギアの数と質で計算されて……ああ、ギアというのはウィング・シティにしかないSDカードみたいな物体で、いや、そもそもギアを挿すためには身体の改造が必要で……。はあ。日が暮れても良いのならちゃんと説明するわ」
ルキアは拗ねてしまったようで、ノートパソコンに向かい始めた。いきなり推しキャラに生まれ変わって困惑する少年の表情は見られなくて済むわけだ。
(身体の一部改造が流行ってる、いや、改造しなきゃ誰かに食われる街。ぼく……おれは右腕と両足を改造してて、機動力が最大の売り。でも、この段階だとギアすら持ってないはず)
試しに腕を見てみる。ギアを装着できるスロットには当然もぬけの殻だった。
(ということは、まだ本編に登場してないのか。カルエはギアを獲得するところが初登場だもんなぁ)
カルエの初登場。それは痛烈なものだった。主人公たちを蹴散らし、目的のものを手にして去っていく。なお、このとき彼らにトドメを刺しておけば後々苦戦することもなかったのに、と語られていた。
「ねえ、あ……なあ」
「……。やっぱり貴方オカシイわね。誰かと入れ替わったみたいな態度だし」ルキアは顔をグッと近づけ、「ウィング・シティには人格が込められたギアもあるわ。埋め込まれてないわよね?」と強めな語気で、しかし弱気な表情で言う。
「…………、大丈夫。おれを誰だと思ってやがる? 世界最大のチャンスを獲る男だぞ」
カルエらしい傲慢な言い草に、ルキアは胸をなでおろす。
「良かったわ。これからルーキーどもが手にしたギアを強盗するんだから」
(やっぱり作中に出てくる前の話なんだ)
「どうしたの? さっきの覇気がないわ」
「いや……その作戦を見直したいんだ」
「え?」
「おれが駆け出しに負けることなんてあり得ないけど、手に入れられる報酬がしょっぱい。それに、当局はおれのことを逮捕したがってる。ここでアイツらと対峙したら損しそうなんだよ」
カルエは初登場時、主人公とその仲間を圧倒する。そこまでは良い。
だが、その結果主役たちに覚醒イベントを与えてしまう。しかもカルエは一度目の敗北──警察機関のあるキャラに逮捕される。そしてその劇中人物に敵う術を現状カルエは持っていないのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます