第8話 出会い
竿谷日向はあっという間に二人を海沿いまで連れてきた。そこでようやく二人を開放し、竿谷日向はスカートのことなど構わず、ひらりと防波堤の上に立ち、深呼吸をする。
「海はでっかいどー!!!」
大声で竿谷日向は言った。
「何なんだよ急に」
「見ろ!この大きな海原を!透君!君が言ったことは大変小さいのだよ!」
「はあ?それだけ言うために僕らを連れてきたのかよ」
井出透は脱力したかのように海に背を向けるように防波堤に寄り掛かった。
「ボーイズビーアンビシャスなのだよ、透君!」
「今度は何だよ」
「少年よ、大志をいだけ。大きくあろうよ、透」
「うるさい」
「聞こえませーん!!」
両手を横に伸ばして、竿谷日向は天を仰ぐ。まるでヒマワリが太陽を向くみたいだと井出透は横目で見て思った。雨洞氷雨は竿谷日向の影で悲し気に微笑んでいた。
「・・・大丈夫?」
声を潜めて井出透は聞いた。
「何が?」
雨洞氷雨は風で流れる長い髪を抑えて聞いた。
「やっぱり、さっきのあれ、傷ついてるんじゃない。ってか傷つかないわけ、ないし」
ふふ、と雨洞氷雨は笑う。
「傷ついて、ないよ。本当。ただね、私が日向ちゃんみたいだったら、もっと、色々何か変わったんじゃないかって」
「やめとけやめとけ。俺ら陰キャがこんな陽キャ目指したら火傷しちまう」
「陰キャ?」
雨洞氷雨は小首を傾げた。
「えーと、暗いキャラクター?」
「ひどい」
「えっと、言葉にするとひどいな。えーっと」
「嘘」
そう笑う雨洞氷雨は陰キャというより小悪魔に近いんじゃないかと井出透は思う。笑顔が染み込む感じがする。日向の刺激と違って。ぎゅっと握る手が少し汗ばんでいることに、井出透は気づいた。
「ねえ!ちょっと何二人で話してんの!私も入れて!」
竿谷日向はこともあろうに、雨洞氷雨と井出透の間に防波堤からダイブした。二人を両腕に抱えて、竿谷日向は着地する。
「きゃっ」
「お前!首!首!」
「あはは!」
竿谷日向の笑い声が海原にこだまする。ふわりと柑橘系の匂いがした。竿谷日向はにやりと井出透に笑った。
「意外。ひーちゃんと仲良くなれそうじゃん、透」
「お前な!」
「あはは!」
井出透は竿谷日向の腕を外した。雨洞氷雨は嬉しそうに竿谷日向の腕の下に収まっている。井出透は半ば呆れて秋の水色の空を見上げた時だった。
シャン、シャン。
鈴が連なってなる音が遠くから聞こえる。
「鈴?」
井出透は息を呑むように音の先を探していた。雨洞氷雨はまだ竿谷日向の腕に挟まっていた。井出透は音が鳴る方をじっと見て、言った。
「マジかよ」
「ちょっと透!」
井出透はいきなり駆け出した。慌てて、雨洞氷雨と竿谷日向はその背中を追いかける。
「龍だ。龍神!初めて見た!人についてるの!」
リリン、リリン。
小さい街の防波堤側の道をかけていく。大きくなる鈴の先に、小麦色の網代笠、黒い袈裟、草鞋を履いている男がどんどん近くなる。鈴の音は彼が持っている錫杖から聞こえて来ていた。
「あの!」
井出透はその修行僧に後ろから声をかける。
「あ?」
迷惑そうに、その男は振り返った。
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