第7話 三人の昼休み
「ひーちゃんも、行こっ」
右手に井出透の腕、左手に雨洞氷雨の手をひいて、竿谷日向はずんずんと歩いて行った。やがて、人気のない体育倉庫の前までつくと竿谷日向はようやく二人を開放した。
「考えても見たんだけどさ」
うん、と頷いて、竿谷日向は井出透へ言った。
「あれ、やっぱりよくないよ。あんなの呪いじゃん」
「守れって言ったのはお前だぞ」
「そうなのよー。だから考えたの。守れって言っといて、守り方に関してまで文句言っていいものかしらってね。だけど、うん、あれ、いや」
「いやってお前なぁ」
「だって、覚えとけよってさ、それって透も覚えておくってことじゃない。なんかそれってさ、そう、アンフェア!アンフェアだ!」
覚えたての単語を思い出したかのように、竿谷日向は言った。
「なんだよ、アンフェアって」
「え?うーん、公正じゃないというか、平等じゃない感じ?」
「じゃあ何が平等だよ。僕は、やばいことをしてるやつに文句言ってやっただけだ」
「もう、待って!ちゃんと考えるから。えーっと」
ふふ、と鈴がなるような笑い声が聞こえた。
「日向ちゃんも、井出君もありがとう」
雨洞氷雨はとても嬉しそうで、井出透は少し頬が紅潮した。
「あのね、大丈夫だよ。私、あの子たちがすること何にも気になってないの」
「そんなわけないじゃん!人のノートにあんなこと書いといてさ」
ううん、と雨洞氷雨は首を振った。
「本当に、平気なの。あれより、ひどいことを私は知っているから」
「え?」
井出透はそれが本心だと理解した。井出透には雨洞氷雨を覆う薄暗い膜のようなものが見えていた。恐らくそれはいじめではなく、家に関係しているものだと直感していた。
「あれよりひどいってどういうこと?」
「内緒。でも、ううん、だから、ありがとう」
内緒と雨洞氷雨は人差し指を唇に当てていった、その姿があまりにもかわいらしくて、竿谷日向と井出透は黙ってしまった。
「あ、わかった」
「なにが」
「私、いじめてた子が本当に反省していじめをやめて、ひーちゃんが笑って許せたらいいんだ」
井出透は鼻で笑った。
「じゃあ俺がやったことはアンフェアなんかじゃない」
「透、そこはフェアでいいんだよ」
井出透は竿谷日向をじろりとにらんだ。
「…やった奴よりやられた奴の方がずっと覚えてるもんなんだよ。そんなのおかしいだろう。だから僕のやったことは正しい。あいつらが一生覚えておくくらいでようやく平等だ」
「えー、何それ何それ!!なんかヤダ!!」
竿谷日向は地団駄を踏んだ。両手で頭を抱えて、言葉を絞り出そうとする。
「日向ちゃん、ほら、もうチャイムなるし。戻ろう」
「さぼろう!」
「え?」
二人の声がリンクした。
「さぼろう!大丈夫!私、保健の先生と仲いいし、3人とも体調不良で早退させたって、言ってもらえるから!ほら、行くよ!!」
「嘘だろう、おい、日向!」
「日向ちゃん、私、学校から連絡あると困るから」
「大丈夫、大丈夫!!」
そう言って竿谷日向はまた二人の手を取って、あっという間に学校を後にしてしまった。
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