復帰1便:「―リカバリー&ネクスト エキシビションー」《TS要素有》

 ――それから。侵外等の観測基準時間で数週間が経った。


 その間に、侵外等の側の超空宇宙の外交機関や自治体を始めとする各所各部門と。優未達の銀河宇宙のコミュニティの間では様々な調整が行われ。

 優未達の宇宙世界には超空宇宙側より。復興のため、救命救護のため、その他様々な面での提供のために、膨大な人の手や物が送られ入った。

 そしてそのための多くの活動が、今も銀河宇宙中で継続している。



 そのある多忙な、ある種の賑わいの中にある銀河宇宙で。

 その日、ある展示。催しが開催された。



 そこは優未達の国、故郷。アキツ帝国がその首都を置く、一つの豊かな有人惑星。その衛星軌道上。

 その軌道上宇宙空間には、ある一つの巨大な施設が展開されていた。


 それは全長数十kmにも及ぶ巨大な宇宙施設。その正体は、移動展開型の巨大コロニーステーション。

 軍事目的から民間利用まで、様々な利用目的を想定して作られたそのステーションは。この銀河宇宙のものではなく、超空宇宙側の一組織が持ち込み展開したものだ。




 惑星軌道上展開されたコロニーステーションは、ある一つの〝目的〟を主たるものとしているのだが。

 それに伴いいくつもの催しが、その内包する施設の各所で行われていた。

 それらは新たに国交、いや空間交流とも言うべきか。ともかく交流を持つこととなった超空宇宙とこの宇宙銀河が、互いを知るための催し。

 今回にあっては、「リカバリー&ネクスト エキシビション」と名称されたそれ。

 扱われる分野は互いの文化、歴史、技術、生態系――多岐に渡る。

 そのそれぞれを扱い、展示し、伝え教え合うためのブースが。このコロニーステーション内の要所施設内で数多展開している。

 言ってまえば一種のイベント、フェス――祭りの側面を持つそれであった。


 コロニーステーション内の一区間。フィールドスポーツが一度に複数開催できそうな空間面積を持つその区画も、会場となって多種多様なブースが展開され、喧騒に包まれている。

 この宇宙銀河世界はまだ大きな傷を負い癒えぬ状況であり。そして安全保安、リスクの分散上の観点から。今回のエキシビションへの来賓来客はいくらかの制限を受け、選択を受けた上での数であったが。

 それでもその賑わいの様子はなかなか壮観なものであった。


 その賑わいの中。ブースが立ち並び囲われる中に透る通路を、人の波にいささか難儀しつつも歩み進む、二人の女の姿がある。

 内一人は、先日侵外等が駆けつけた現場で会ったパイロットの少女――優未。

 そしてもう一人は、他ならぬ管理隊女隊員の身目であった。

 優未にあっては学徒動員された未成年軍人に官給される、各所要所に階級章などの軍服の意匠を施した、女学生用の制服姿。

 そして身目の方は、頭部こそ武骨な管理隊用ヘルメットでは無くキャップ、略帽であったが。他姿服装はいつもの管理隊の制服のそれであった。


 優未はこの今回のエキシビションに招待された――というか彼女達の宇宙銀河文明は人手が足りていないので、半ば強引に主たる参加者の補佐の名目で頭数に入れられた身であり。そして身目はまた、超空空間側の要員として業務参加を指示され赴いた身であった。

 そんな二人はしかし赴いて来たはいいものの、ここ現地では特段割り当てられる仕事も無い状況であり。果てに「適当に時間を潰して来なさい」と、自由時間を与えられる名目で会場へ放っぽり出されたのであった。


 そんな経緯の先で、二人は偶然再会。そして意気投合し、今は会場内の各ブースを一緒に見て回っていたのであった。


「はぁー……何か、助けてもらったあの日以来、目が周りっ放しな感じです」


 そんな歩き周り各ブースを冷やかす様子を見せながら。優未は少し疲れた様子でそんな一言を身目に呟く。

 新たな宇宙との邂逅、そしてそれに伴うそれまで知っていた世界が目まぐるしく変わっていく現状に。彼女はどこか少しの疲れを覚えている様子であった。


「まぁ、だよねー」


 そんな優未の零しに、身目は生ぬるい口調で賛同の一言を返す。


「……ううん、そんなこと言っては罰が当たるよね。身目さんたちに、皆に救ってもらって、繋いでもらった未来――今だもの」


 しかし次に。優未は己の零した言葉を反省するように、凛とした顔を作りそんな言葉を紡ぐ。


「私は特に役立ってはないけど。力抜かないと余計疲れるよー?」


 そんな優未の姿言葉に対して、身目はと言えばまた生ぬるい口調様子でそんな言葉を紡ぎ伝えた。




 そんな二人はまたある一つのブースエリアに出た。

 そこは優未達の宇宙世界側の、軍事状況や歴史など色々を。機密に抵触せぬ範囲で公開展示する、一種の軍事広報のブースエリア。


「ん……?」


 しかし、何か少しその様子に違和感があった。

 お堅く、従来なら人の入りもそこそこなはずジャンルのブースだというのに、妙に人に溢れている。そしてどういう訳か、時折黄色い声まで聞こえて来る不思議。


「私達の統合軍の広報ブースのはずだけど……なんでこんなに……?」

「なんだろね?」


 二人は不思議に思いながら、人の波を潜って一つのブース前へと出る。


「あっ。可憐、アリュジャっ」


 そこに出て先に気付き見止めたのは、優未の親友の少女二人の姿。二人とも優未と同じく今回の催しに招待――というより半ば強引に出向かされた身であり。姿はまた優未と同じく軍用女学生服。


「あ、優未……っ」


 掛けられた声に気付き、振り向いたのはアリュジャ。その彼女の顔には、少しの何かに戸惑い驚いていたらしい色が見えた。

 一方、黒髪の少女の可憐の方は振り向く様子もない。そして覗き見れば、何かポカーンとした心ここにあらずといった様子で、そして頬を少し赤らめ視線を何かに注いでいた。


「ど、どうしたの?」


 二人の不可解な様子に、訝しみ疑問の言葉を向ける優未。


「いや、あれ……」


 そんな問いかけに対して、アリュジャはその先。彼女達の目の前に設けられているブースを指さした。


「……ん?え、うん?」


 そこに見えた様子光景に、しかし優未はまた訝しむ声を上げた。

 そのブースには小規模なステージが設けられている。そして目を引いたのは、その上に在る人影だ。

 

 まず真っ先に目に映ったのは、一人の少女。

 歳は13~4程で、美麗に整いしかし気の強そうな凛とした顔が目を引く。そしてその顔は、少しボリューミーなツインテールを作る美麗な白髪に彩られている。

 見るにかなりの美少女。さらに目を引くは、その美少女の姿格好だ。

 何か水着のような、しかし要所所々が敢えて誘惑するように切り欠き露出する、特異なボディスーツを纏い。そのローティーンの体の凹凸を彩り主張している。

 その細くも美麗な手足もまた、ニーソックスや手袋で覆われ彩られている。


 そして特段目を引くは、その美少女の体の各所を飾る装飾。

 尖る翼や刃物のようなそれや、一種のプロテクタのようなパーツのようなそれが。美少女の手足、乳房、腰、他要所に装着されまた彩っている。

 さらに極めつけは、美少女が身から下げる。または持たされている、何か物々しい小道具の様な物。

 優未はすぐさまそれに気づく。それは、彼女達のアキツ帝国宇宙軍の旗艦である巨大戦艦、アマテラスの。その船体や主砲を模した模型であった。


「あれって、アマテラス……?」


 察したそれを言葉にする優未。

 どうにもステージ上の美少女の姿格好は、戦艦アマテラスをモチーフとした、一種のコスチュームであるようであった。


「あれ……?しかも隣、零遠れいおん艦長……っ!」


 訝しむ色も束の間、優未は次に移った人物の姿に、驚きの声を漏らす。今の戦艦アマテラスのコスチュームの美少女の横には、また別の女性の姿が在った。

 アマテラスの美少女と対比して長身で美麗な、まるで王子様のような美女。

 その姿格好は競泳水着のような、しかしやはり要所を掻き切り魅了するボディスーツ姿。そしてやはりプロテクタやパーツのような装飾で体を飾り、そして背には宇宙艦の船体を模した模型小道具を装備している。

 明かせば実は、零遠と呼ばれたその美女は。優未達の所属艦であり、そして先日に侵外等が駆けつけた、巡洋戦艦マイムラを預かる女艦長。そして優未達の上官。

 その女艦長の零遠が纏い扮するは、その巡洋戦艦マイムラをモチーフとしたコスチュームであった。


「じゃあ、あれってマイムラ……?っていうか、何これ……?」


 ステージ上では、その艦船に扮する美少女と零遠が。その魅惑のなかなかに際どいコスチュームで、また魅了するようなポーズを取っている。というか美少女のほうは何か戸惑う色を見せながら、しかし零遠にやや強引に取らされている。

 そしてそんな彼女達を囲う、ブースのギャラリーは沸き。時折、これが原因であったらしい黄色い声がまた上がり。さらにはカメラのシャッターを切る音が響く。


「零遠艦長、あんな格好で何してるの……?それにあの娘は……?」


 その光景を周囲に、増えていく疑問を言葉に漏らす優未。


「アリュジャ、どうなってるの?ここってアキツ宇宙軍の広報ブースじゃなかった?アマテラスの千郷せんごう艦長も見えられるって……」


 チラと見れば、確かにブース端にはアキツ宇宙軍の広報ブースを示す表記があった。そして記憶から本来そこに構えているはずの、アマテラス艦長の姿が無い事にまた疑問を覚える優未。

 その疑問の数々の答えを求め、優未は隣に立つアリュジャに問いかける。


「……あの娘が千郷艦長」


 その尋ねたアリュジャから返って来たのは、指さす動作と合わせてのそんな回答であった。そしてその指先は、ステージ上でコスプレをさせられている、白髪ツインテールの美少女を示していた。


「……は?」


 受けたそれに、優未は呆けた声を上げてしまった。

 何を言っているのか。戦艦アマテラスの艦長である千郷は、年齢50代半ばの壮年男性だ。その所在を尋ねたのに、なぜ目の前の美少女を示してそんな事を宣うのか。


「いやなにかね。向こうの世界(超空空間)って、性別が自由に変われるんだって……それもコツ程度で……それで……」


 アリュジャが言うには、そのこの世界にとっては新たな現象の展示を、軍でも実施してほしいという要請が急遽来たらしい。

 軍側はそれを最初は。軍の制服展示のモデルで実施する、少し盛り込む程度のもので想定していたのだが。

 誰が思いついたのか。広報でコスプレショーをする案がそこへ上がり割り込まれたという。そして冗談として片づけられると思われたそれは、その想像を超えて本気になった一部の軍人達の執念で実現にこじつけられた。

 そしてその役割の白羽の矢が立てられた一人がアマテラス艦長の千郷であり。その変貌した姿が今のステージ上の美少女であると言うのだ。


「え、えぇ……」


 しかし説明を聞いてなお理解は進まず、どころか親友の正気を疑ってしまう優未。しかしその親友のアリュジャもまた、自分自身の発現に困惑してしまっている様子であった。


「あー、そういうことね。完全に理解した」


 一方。身目だけは何か理解と納得が及んだ様子で。そんな一言を零す。


「あ……丁度、ゲーツ軍の方が今からやるみたい」


 その所へ、アリュジャはそこから見える別のブースの動きに気付き、何か示そうとするようにそちらを促した――



 そこはゲーツ連邦という国の宇宙軍が受け持つブース。

 そこに設営された小ステージに、ちょうど一人の男性軍人が連れられ上がって来る様子が見えた。


「おい、本当に俺じゃなきゃダメか……ッ?」


 その男性軍人は、先日に管理隊車限隊より足止めを喰らった重巡洋艦の若き艦長だ。猛々しいその顔立ちを、しかし少しの戸惑いに染めて。自分を連れて来た部下達にそんな訴えを上げている。


「往生際が悪いですよ艦長。リラックスして――」


 そんな艦長の訴えにしかし聞く耳持たずと言った様子で。部下の男性軍人は艦長の首元や腰など、身体の要所を持つないし手を添える。

 そしてその部下が、それぞれの手に少し力を入れ、押さえるような動きを作った瞬間――若い艦長の身に変貌が始まった。


 猛々しい顔立ちは小さく端麗な物へと変わり。

 強靭な胸筋は豊かな乳房へと変わる。固い腹筋周りはくびれを作り、尻はまた豊かな物へ。腕や足は筋肉を絶妙に残しながらも、細いものへと変わる。

 そして短く刈り揃えられていた頭髪は、長く美麗なプラチナのそれへと変貌――


 一瞬の後に、ステージ上には猛々しい男性に代わり。筋肉を有しながらも絶妙に豊かな凹凸を持つ、美麗な美女が現れていた。


「――……っ……!」


 それはまごう事無き、姿を変貌させた若き艦長自身。

 直後一瞬こそ、自身に起こった現象に気付けづ、その美麗な顔にしかし可愛らしく呆けた顔を作るが。すぐに自身の身体の変化に気付き、視線を落とす。


「!――……マジか……」


 そして己が身の変化をその目に映し、乾いた笑い交じりの驚きの声を上げた。

 そして特徴がもう一つ。若き艦長の美麗なプラチナの長髪の上には、同色の狼の物のような一対の耳が、ピコピコと揺れている。さらに尻からは下がり揺れるは、また狼のフサフサの尻尾。

 実はこちらの宇宙世界には、犬種や猫種などの動物の当直を併せ持つ、獣人と呼ばれる人種が存在するのだが。若き艦長は祖先にその獣人の血を持つ血筋なのであった。

 その獣人の血が、女体化に際して耳や尻尾として部分的に発現したようだ。


「ヒュゥ」

「予想通り、かわいくなりましたね艦長っ」


 そんな戸惑いの最中にある若き艦長に、何か妖しい声が掛かる。

 見れば若き艦長は、その身の前後をまた別の少女たちに囲われていた。実を明かせばその少女たちは、今さっき若き艦長をステージ上に連れて来た、彼の部下の男性軍人達だ。

 彼等は若き艦長の女体化に合わせて、ご丁寧に己達も同時に性転換していた。

 そして、そちらも若き艦長に引けを取らぬ美少女だが、その眼はいずれも何か妖しい色で艦長を見ている。


「お前ら……――ひぁっ!?」


 そんな部下達に恨み言の一つでも言おうと思った若き艦長だが。次の瞬間彼、いや彼女は、かわいらしくそして艶のある悲鳴を上げてしまった。

 見れば若き艦長は、美少女と化した部下達にその腰や腕を抑えられ、その身を挟まれ捕まえられていた。


「さぁ、変身タイムですよっ」


 反して、部下の一人は楽しげに言う。

 そして始まったのは、ギャラリーに鑑賞されながらの、若き艦長の公開衣装チェンジパフォーマンス。


「ちょ……!やっ、ひゃぅ……っ!」


 若き艦長は部下達にされるがまま、その体を弄られ。先まで男性だったとは思えない可愛らしい悲鳴を上げながらも、あれよあれという間に着替えさせられてゆき。

 ――そして物の数刻の後に、ステージ上には。

 若き艦長の預かる重巡洋艦をモチーフとした。際どい水着のような衣装の、〝狼ケモミミ重巡洋艦コスチューム娘〟が完成した。


「っ……」


 本人にとっては恥辱なまでのそれに、顔を真っ赤に染めている艦長。


「艦長カワイイーっ」

「ポーズくださーい!」


 しかしその直後。ギャラリーより飛び寄こされ出したのは、いくつもの歓声や要望の声だ。


「は……え……か、かわいいって……」


 そんな予想外の評する言葉に。艦長はまた別種の戸惑いに狩られ、そしてそれまでとは違う理由で顔を紅潮させる。


「ほら艦長」

「リクエストですよ」


 そんな若き艦長に促すは、美少女化した部下の二人。またいつの間に着替えたのか、二人の姿は脇役として若き艦長を飾るようなコンパニオンガール姿。


「え……え……」


 そして若き艦長は体感した事のない恥じらいと高揚に狩られながら。部下達に手を取られ腰を取られ。

 ゲーツ軍の広報ブースで、魅惑のコスチュームパフォーマンスが始まった。



「……ね?」

「えぇ……」


 そんなゲーツ軍のブースの光景で、アリュジャの言葉は証明され。二人は引き続きの困惑の色で言葉を交わす。

 さらに近隣にある各国各軍のブースを見れば。


 グラント・ブリュスクと呼ばれる王国の宇宙軍ブースでは。

 金髪の美麗な美女が、優美ながらもまた妖しい露出の、宇宙駆逐艦を模したコスチュームでポーズを取らされている。

 悩ましい困惑と恥じらいの表情を浮かべるその美女の正体は。

 先日、黄バイ隊にその突貫を押し留められた駆逐艦の青年艦長だ。


 さらにまた別のブース。ネーシャル・シートゥと呼ばれる巨大連邦国家の宇宙軍のエリア。

 他軍よりも多めの人員を派遣して来ていたネーシャル軍のそこは、特に多くの男性隊員が毒牙に――もとい女体化からのパフォーマンスに従事しており賑わいを見せている。

 その中でも特に、一人の美幼女が注目を集めて場を沸かしている。

 輝く鋼のような髪色に、人形のような端麗な顔立ちが目を引き。

 水着とドレスを合わせた様な、際どきも煌びやかなコスチュームでそのロリータ体系を飾り。またプロテクタやパーツ類の装飾と、艦船を模した小道具でその身を飾っている。

 そのモデルは、先の作戦で人類艦隊の総旗艦を務めた、超巨大航宇宙空母ユニティ。それに扮する美幼女の正体は、そのユニティに座乗していた艦隊提督。御年60を越える老練な男性その人。

 その、正体は老練な男性である、人形のような美幼女は。

 玉座を意識した小道具の座席に優雅に足を組み座し。同じく女体化してコンパニオンガールに扮した部下達を何人も侍らせ。

 絶対の王女のような姿を演じる。麗しいまでのパフォーマンスを演じていた。


(……儂は何をさせられているのだ?)


 その中身は老男性の宇宙空母コスチューム美幼女は。凛々しい顔立ちを作り保ち、ギャラリーを沸かし魅了しながらも。

 その内心では疑問と困惑を一杯に浮かべていた。



「………」


 そんな各方各ブースが、何やらちょっとついて行けない様子で沸いている様子を一巡眺めた後に。

 優未は己が所属の、目の前のアキツ宇宙軍のブースへ視線を戻す。

 そのステージ上には、自身の上官である女艦長と。中身は歴戦の壮年男性だが、今は美少女と化してしまった千郷その人が。

 際どい宇宙艦モチーフのコスチュームで、ギャラリーから要望されたポーズ、シチュエーションを演じ。その身を交え重ねる姿。

 今は前屈みで千郷がそのボディを主張し誘惑するようなポーズを作り。その体を背後から零遠が支え捕まえる、美少女と美女が絡み合う妖しいポーズが演じられている。


「フフ。可愛いよ、ボクのアマテラス」


 そんな二人の内、零遠からは千郷に向けて囁かれた言葉が聞こえ来る。王子様のような美女である零遠からの、甘く口説くようなそれ。

 しかし王子様のようなその台詞に反して。零遠の千郷を見降ろすその眼は何か大変に妖しい。

 いやそれ以前に零遠の手は。美少女と化した千郷のボディを、今は同性である事をいいことに、やらしく好き放題弄り堪能しており。その宿した下心をまるで隠せていなかった。

 零遠は元よりアキツ軍人として、千郷に敬愛の念を抱いていたのだが。その千郷が美少女してしまった事により、その敬愛は変な形で決壊発露し。ついでに少し捻じ曲がってしまったようだ。


「私は何をさせられて……ひぅっ!?」


 そんな零遠からの、もうほぼダイレクトなセクハラでその美少女ボディを弄られながら。

 千郷は困惑の声をぼそりと零すが、それは零遠の弄る手が与える甘美な電流を受け。上がった甘い嬌声になって掻き消えた。


「……」


 そんな千郷等の姿をステージ上に見て。

 少し労しく思いつつ。しかしそれ以上に未だ困惑勝る優未とアリュジャ。


「嗚呼……千郷少将、零遠艦長……なんて、なんて背徳的でしかし甘美な光景ですの……」


 一方、それまでやり取りに混じってくる様子の無かった可憐はと言えば。覗き見れば、そんな何か怪しい台詞を漏らしつつも、呆け切った様子でその視線と意識を完全にステージ上の二人に持って行かれていた。

 可憐はまた、千郷と零遠を強く敬愛する身であり。そんな二人が美麗な姿となって絡み合う姿に、当てられしまっている様子であった。


「くぃぃ……ッ。いくら零遠大佐と言えど、千郷艦長にあんな……!」


 さらに一方。優未達の反対隣からは、何か悔しげな呪詛の言葉が聞こえて来た。

 気付けばそこに立っていたのは、戦艦アマテラスの艦橋要員の女士官。彼女はまた千郷に敬愛の念と密かな想いを抱いていた身であり、そんな想う相手が美少女となってしまい、その上で別の女に手籠めにされている光景に。強い嫉妬の念を抱いていたのだ。


「……なんなのこれ」


 そんなカオスな様相の周辺に、最早ただ漏らすしかない優未。


「まぁ、そのうち騒ぐでも無くなるよ」


 そんな彼女の横から。差したことでもないと言う様な、いささか他人事のような生ぬるい口調で。身目がそんなフォローの一言を寄こした。

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