緊急5便:「―進入開始 別件入電―」
侵外等の巡回車とパトカーの隊形は、主戦場――排除作業の主たる現場を追い越して遥か後方へと離し。受けた指令の、救難信号を発して来たという巡洋戦艦を探して、それぞれ赤色灯りを煌々と灯しながら宇宙空間を進んでいた。
「――アーツクロークIC同次元軸通過」
その隊形の2番手、巡回車21号車の助手席で、侵外はまた巡回車の経路をパトロール・レコードに記載している。
「――見えた」
運転席の辻長が声を上げたのはその直後だ。
辻長の視線は巡回車の前方左手下方へ向いており、侵外もそれを追い視線を向ける。
――その向こうに見えたのは、宇宙空間に見えた巨大な〝亀裂〟だ。
〝次元断層〟。
宇宙空間に神出鬼没に発生出現する、空間の歪。異常点。
その直径は数千、数万kmでも収まらない。
そしてその亀裂の内は不気味な彩色の異空間が覗く。近づきその凶悪な引力に捕まり飲み込まれれば、未知の異空に、宇宙世界に迷い込み二度と変える事叶わぬだろうと伝えられていた。
そんな恐るべき亀裂。
「あの断層、ホートネスト初層空間域に接続してますね」
しかし、そんな光景を眼下にして。
侵外はそれを一瞥する程度で、そして手元の携帯端末に視線を落として言葉を紡ぐ。携帯端末には検索アプリを起こされ、そこには何かマップのような画像情報が表示されている。
それは、眼下の次元断層がどの別宇宙に繋がっているのかを詳細に伝えるものであった。
「プライムエリア管制の担当管区じゃねぇか。行くハメになったら帰ってくるだけで残業確定になっちまう」
それを聞き、そんなボヤきの声を返す辻長。
凶悪そのものな次元断層を眼下に、しかし両名の交わす言葉はなにでもない事のようなそして実際そうである物であった。
「っと」
そこで、侵外は別の〝動き〟を視界の端に見止め気付いた。
見えたそれは前方左を進む巡回車14号車の運転席。そこで14号のハンドルを預かる身目が、目線とジェスチャーを送って来たのだ。
――そして直後。巡回車14号車は大きく機敏な動きを見せた。
巡回車14号は左に90°バンク。自動車にあるまじき、まるで戦闘機のような動きで車体を傾けその腹を見せ。そしてそのまま高度を下げ、次元断層を目指しての降下行動を始めたのだ。
「開始だ」
それを見た直後、こちらの運転席の辻長は呟くと。大きくハンドルを左へ切り。
その意思を反映するように、侵外等を乗せた巡回車21号車は車体を90°左へ傾けバンク。そのまま続け先行した14号に倣い追うように、降下行動を開始した。
さらに後続の、警察超空隊の3台のパトカーも順にバンクし降下に移っていく。それはまさにまるで戦闘機の編隊が降下を開始したようなそれ。
14号を筆頭に計5台のパトロールカーは。縦の少し崩した斜めの列隊で、バラバラとまるで舞い落ちる枯れ葉のように、次元断層を目指しての降下行動を開始した。
指令目標であるその巡洋戦艦はまだ到底目視できる距離ではないが、管制からもたらされた位置情報を頼りに、降下接近しながらの調査を開始。
少し距離を離した斜め隊形を維持しながら、パトロールカーの隊形は次元断層へと降下近づいていく。
「宇宙モンスターの群れは?」
「断層の周辺に確認」
運転席の辻長は、指定排除生物であるディマイズをそんな呼び方で表しながら、その存在の有無を尋ねる。侵外はそれに端的に回答。巨大な次元断層の主張によりその存在気配が若干気迫となっているが、次元断層の周辺近辺にもまた、指定排除生物の蠢く群体が無数に見て取れた。
「――ッ」
――閃光を伴う爆発のようなものが。
その時。何が光の線が飛来し見えたと思った瞬間、パトロールカーの隊形のすぐ傍で巻き起こった。
明かせばそれは、高エネルギー光線の飛来からの膨張炸裂。
その衝撃は巡回車に伝わり来て、車体を微かに揺らす。
「来おったなッ」
その閃光と振動を感じ、侵外等それぞれは顔を顰めつつ。そして辻長はそんな一言を零す。
そして。前方眼下よりは無数の高エネルギー光線がパトロールカーの隊形向けて飛来。隊形の近辺でまた、無数のエネルギー爆発が巻き起こり始めた。
まるで防空高射砲火――いや、正体はまさにそのもの。それは眼下に蠢くディマイズ達の撃ち上げる、防空砲火なのだ。
ディマイズ達の中には高エネルギーを砲火として投射できる種別個体も存在。それが、今接近を始めたパトロールカー隊形を〝敵機〟とみなし、攻撃を撃ち上げて来たのだ。
撃ち上げられ、パトロールカー隊形の近辺で巻き起こる数多無数のエネルギー爆発。それは超巨大戦艦や宇宙要塞さえも一撃で消滅させる、そしてこの世界の艦隊をいとも容易く屠って来た、あまりも恐ろしい代物。
しかし――巡回車やパトカーはその衝撃に幾度も車体を微かに揺らしながらも。健在の様子で隊形を維持しての、降下直進を継続する姿を見せていた。その姿はまるで高射砲火を潜り抜ける戦闘機隊の様。
「チッ、不快な出迎えだ」
そして21号車の車内助手席では、その伝わる心地の良くない振動に、侵外が不快を表す一言を零している。
その視線の向く、巡回車のフロントガラス向こうでは。飛来し起こるエネルギー炸裂に合わせ、対応するように。幾度もいくつもの青白いシールドのようなものが可視化されては消えていく光景が在った。
それは、巡回車が内臓する抗生フィールド機構。一種のバリア、シールドが稼働機能している様子だ。
そしてその様子を見せるは、前方の14号車や後続の警察パトカーも同じ。
超空空間で万が一の巨大な乗り物や物体との接触や。また、強力で危険なエネルギー物体等の接触、扱い処分等を想定している管理隊巡回車や警察超空隊のパトロールカーは。
それに備え隊員等を守るための、保護安全機構を内蔵、備えていたのであった。
その内臓機構、抗生フィールドの効果で襲い来る高エネルギー光線や、その炸裂を退けながら。パトロールカー隊形はその内を掻き分け、潜り抜け降下直進を続ける。
「お邪魔してほしくないらしい」
引き続き立て続く不快な振動に顔を顰めながら、辻長は軽口を零す。
「嫌でもパーティーに乗り込ませてもらう」
それに侵外も。伝わる振動にその身を微かに揺らし、しかし受け流しつつ。淡々としかし芯の通った色で言葉を返す。
《――アーマ本部から、高速ヴォイドフィールド14》
車内備え付けの無線機から、音声が響いたのはその時であった。それは前方を行く、渥美等の巡回車14号を呼び出すもの。
「ぬぉぉッ、こんな時にか」
傍受し聞いた、まさにディマイズの攻撃の最中を潜り抜け進入している真っただ中で寄こされた呼び出しの通信に。辻長は歓迎し難そうな一言を零す。
《――アーツクロークIC同軸通過で、指令地点の次元断層へ進入中。どうぞ》
それをよそに通信に続け上がるは、渥美の声での14号車の現在地点を。そして今現在の状況行動を答え、管制側へ伝える通信音声。
《アーツクローク通過で進入中――了解です。すいません、別件救難信号入りました》
14号車の現在位置他を了解し、続け管制からもたらされたのは、また別の案件が入った事を伝える報だ。
《行方不明となっていたまた別の艦船部隊から、救難信号をキャッチしたとの事です。場所はスクランブルJCT先、ホーナーオーバー軌道の3243万kp同軸。こちらが発信源との事――恐れ入ります、14にあってはこちら先行調査願いたい。どうぞ》
さらにその詳細情報が伝えられ。そして14号車にはそちらへ先に向かい調査を行うよう、要請指令が伝えられた。
《ホーナーオーバー3243で別件救難信号、先行向かえ――了解です。こちら管理隊は当局14のみ離脱で、ギャラクシカ支線経由の急行でよろしいか?どうぞ》
それを了解する渥美の声。さらにその詳細、現場への経路他を再確認する声が通信に上がり管制に返される。
《それで願います。別隊21には管制から、巡洋戦艦の調査継続を要請します。以上、アーマ本部――アーマ本部から、高速ヴォイドフィールド21》
それに肯定と補足の言葉を返すと、管制は通信を終了。そして間髪入れずに、今度は侵外等の21号車へと呼びかける声が来た。
《21です、無線傍受。別隊14は別件離脱で、巡洋戦艦は当局で調査の件、了解です。どうぞ》
傍受していた無線通信により、管制がこちら21側に何を要請したいのかすでに掌握している。現在位置もまた同じ。
その上で。侵外は無線を取ると、指令詳細をすでに了解している旨を淡々と返した。
《了解、その件確認でしたー。お手数ですが願います、以上アーマ本部――》
管制側もそれを知っての上での、念のための確認を寄こしたの過ぎない。回答で確認が取れると、管制は願う言葉を紡いで通信を向こうより終えた。
《――だって侵外君。ゴメンね、こっちはお願いするよ》
入れ替わり、侵外の身に着けるトランシーバーから渥美の声が響く。それはここの現場を侵外等に任せ、渥美等は別指令へ向かう事を示すもの。
そして直後。
前方左手を行く渥美等の14号車が、現在の降下進入の姿勢から尖る機動で45°バンク。フロントを持ち上げる動作で隊形を離脱。
さらにすかさずといった様相で、後続の警察超空隊のパンダが一台、14号車を追いかけるように同様に離脱。警察側にも同様の別件対処指令がもたらされたのだろう。
「気を付けて」
その離脱した2台を視線で追いつつ、トランシーバーを用いて渥美へ一言を伝える侵外。
巡回車とパトカーの2台は、その別件現場へ向かうべく。斜め上方へと進路を取り離れて行く。
それを見送り、侵外はシートに座し構えなおして。目指す前方下方の次元断層の根元を見据えた。
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