最終話 変態達、旅立つ

 訓練が再開されると、躍動するお尻を追う。巨尻、小尻、桃尻、美尻、柔尻…甲乙つけがたいお尻達。それが紺ブルマを穿いているのだ。男なら自然と目で追ってしまうのは当然の事。これはもうDNAに刻まれた本能と言っていい。



「ええのう~、ええのう~!!」



 真剣な顔をして見学をしているものの、つい本音が漏れてしまう。おっさん丸出しである。


 ここで一人の女性がやって来て、アリアさんに話しかける。どうやら女王様から呼び出しがかかったらしい。


 アリアさんは訓練を切り上げ、俺を連れて女王様の元へと急ぐ。



「アリアさん、何かあったのですか?」


「…騎士団の格好、紺ブルマが問題になっているそうです」


「な、なんだって!?」


「私が団員達を無理やり下着姿にして訓練させていると問題に…。団員達の中には、貴族の娘もいます。何人かの貴族が陛下に抗議を行ったという話でした」


「なんてこったい…」



 俺はぼやきながらアリアさんと共に、女王様が待つ正殿へと向かう。


 正殿の中に入ると



「アリア殿!!何という格好をしているのだ!!」


「下着姿で陛下の前に現れるとは不敬である!!」


「これだから平民上りは…」



 アリアさんに罵声が浴びせかけられる。


 アリアさんは着替えていない…という事は、問題になっている紺ブルマを穿いている。



「申し訳ありません。至急という事でしたので、訓練着のまま、急いで参りました。ご無礼をお許しください」


「かまわぬ!!」



 女王様の一喝で、周りにいた貴族らしき男達は沈黙した。


 しかし、俺は思う。



(男なら紺ブルマを喜べよ)



 と…。




「やはり…ブルマであったか…」



 女王様がアリアさんの格好を見て言う。温泉で静養の時、下着と一緒に渡したので、当然ブルマの事は知っている。



「はい。陛下、このブルマはとても動きやすく、団員にも好評です。少し露出が多いという事は否めませんが、大変に機能性に優れています。特に基礎トレーニングの時には、効果があるように感じます」


「うむっ、アリアがそう言うなら、そうなのであろう」


『し、しかし、女王陛下!?』



 女王様が手をかざし、貴族達の反論を抑える。



「いかに機能性に優れているといっても、露出が多すぎるというのも困る。男の騎士達が尻ばかりを見て、集中力が散漫になってしまうからな」


「私の団の中に、そんな者はおりません!!」


「そうかのう…今も『チラチラ』とアリアの尻を見ている者がおるぞ」



 自覚があるのだろう。何人かの男が顔をそむける。



「ぐぬぬぅっ!!貴様ら…。兎に角、私としてはアリア殿の処分を求めます!!」


「分かった。追って沙汰を出す」



 貴族達はそれを聞くと、正殿から出て行った。



「こんな事になるとは…女王様、それからアリアさん、申し訳ない」



 俺は頭を下げる。



「ツバサ、気にする事は無い。あ奴らは、本気でブルマを問題視しているわけではない」


「えっ!?」


「ただアリアを追い落としたいだけ。第一騎士団団長というポストが欲しいのだ」


「…ポスト!?」


「第一騎士団とは近衛隊と言っていい。私に一番近い重要なポストだ。そして第一騎士団の中には、あ奴らの娘達も所属している。だからアリアを排除すれば、第一騎士団団長の座が空く。あわよくば、自分の娘を団長に…そう思っているのだ」


「……………」



 アリアさんは女王様の言葉をうつ向きながら聞く。


 女王様が立ち上がり、アリアさんを見据える。


 そして…



「第一騎士団団長アリアを団長の座から解任する!!」



 と、言い放った。



「女王様!?」



 俺は思わず大声を上げるが、アリアさんは目を閉じ、黙って一礼をする。


 女王様は含みがある顔をし



「まあ、待てツバサ。解任と言っても一時的なもの。時期が来たら戻すと約束する。今は自ら国内で争いの種を育てている場合ではない。例え小さな争いであっても、他国に利を与えるだけなのだ」



 と、言う。


 アリアさんも女王様に続き



「ツバサ殿、この国の貴族は一枚岩ではないのです。残念ですが、私利私欲に目がくらみ、国の事は二の次という人達も少なくない。思うところはありますが、解任を受けいれます」



 と、言った。恐らく、こういう事態も想定していたものと思われる。



「…アリアさん」



 政治的思惑など分からない俺は、今一つ納得できない。だが、当のアリアさんが解任を受け入れると言っているのであれば、何も言う事は無い。



「ふふふっ、アリアには新しいポストを与えようと思っている」



 意味深な顔で微笑む女王様。



「アリアよ、これから一年間、ツバサと共に国中を隅々まで旅してまいれ!!ツバサにこの世界の事を教え、この国の現状を見てもらうのだ。そして問題があれば異世界の知識を使い、解決してまいれ!!」


「ツバサ殿と旅!?」


「アリアさんと旅!!」



 俺は理不尽な人事の事など一瞬で忘れた。頭の中は妄想で溢れる。



「そうだ。この役はアリア以外あり得ない。どうだ?引き受けてくれるか?」


「…分かりました。では何人か人選をして…」


「その必要はない。アリアとツバサ、二人きりで旅をしなさい」



 女王様は俺のほうを見て『ニヤリッ』と笑う。


 俺はその含みのある笑いを見て悟った。



(女王様…もしかして…アリアさんをものにしろと…。分かりました!!)



 俺はこの旅は女王様からの褒美の一部であろうと考えた。そしてアリアさんを嫁に!!と決意する。


 女王様はアリアさんにも目で合図をする。頷くアリアさん。瞬時に女王様の意図をくみ取ったように見えた。


 俺達二人は、そのまま寮へと帰って行った。


 


 部屋に戻り、アリアさんの為に珈琲を用意する。お互い明日からの二人旅を意識して、どこかぎこちない。会話も、とぎれとぎれ…。アリアさんは無言で珈琲を飲み、寝室へ…。


 俺はそのままソファーで寝落ちしてしまうが、真夜中気配を感じて目を覚ます。


 そこには紐パン姿のアリアさんが…。



「ツバサ殿、胸がドキドキして眠れないのです」



 そう言って、俺の体にしなだれる。


 俺とアリアさんは小さいソファーで、唇と唇が触れ合いそうな距離で見つめ合う。



「珈琲を飲むと興奮作用があるから…その影響かも…」


「違います。実は…あなたを一目見た時から、お慕いしておりました」


「本当に!?」


「はい。脇の匂いを嗅ぎたいと言われたときには、困惑してしまいましたが…」


「ごめんなさい」


「うふふふっ、許しませんよ。お仕置きです!!」



 そう言ってアリアさんは俺の頬をつねる。


 俺達は見つめ合い、甘い時間を過ごす。


 月明かりに照らされたアリアさんは妖艶で、まるで俺の心の中を見透かしたよう…。



「アリア、愛している」


「……………」


 

 アリアは無言で潤んだ瞳を閉じ…


 そして…唇を重ね…体を求め合った。




 翌朝、旅立ちの時…。アリアは颯爽と馬に乗り現れ、俺に向けて手を伸ばす。


 俺はその手を握り返し、アリアの後ろに乗る。



「さあ、行きましょう。しっかりと掴まっててね」



 アリアは馬を走らせる。


 俺はアリアを離すまいと、しっかりと胸に掴まるのだった。




 完

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異世界転移でフリーダム ~変態でごめんね~ 爆進王 @tu-ka-sa

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