第11話 変態、善意のマッサージをする
団員の腰を回復させると、様子を見ていた他の団員達の目つきから、妙な気配を感じる様になった。
(んっ!?どうしたんだ?みんなの様子が…)
俺が困惑していると
「痛たたたっ!!」
団員の一人が、急に太ももを押さえて座り込んだ。
「ど、どうしました!?」
俺は驚き駆け寄る。
団員は太ももを押さえながら
「急に太ももが痛み出して…立っていられません」
「そ、それはいけない。とりあえず、見てみましょう。M字開脚で座ってください」
「M字開脚?」
この世界ではM字開脚が普及していない事を忘れていた。面倒だが、騎士団員全員にM字開脚を教える。これで少しでもM字開脚が広まってくれれば有難い。
(ふふふっ、俺はM字開脚普及委員会の会長に就任するぞ!!俺一人しか所属していないけどね!!)
そんな馬鹿な事を考えながら、目の前の団員の太ももに手を伸ばした。
(普段、露出していないから真っ白だ。それに一流のアスリート並みに柔らかく、しなやかな筋肉をしている)
そんな事を考えながら、太ももをマッサージする。
「あぁ…ツバサ殿、付け根の方が痛みます」
団員は顔を赤くし、ささやく様に言う。
「わかりました。少し我慢してください」
俺は痛みがあってはいけないと、フェザータッチで徐々に太ももの付け根の方へ…。太ももには汗がにじみ、つま先がピンッと伸びていた。
「あぁ…もう少し…もう少しで治りそう!!」
団員は荒げた声でそう言うと、体から力が抜け、視線は宙を彷徨っていた。
(ブルマの中心部分が汗で変色している…相当痛みがあったんだな。でも、これで安心!!ハードな訓練にも耐えられるだろう)
俺はそう思い、マッサージを終了しようとする…が、なぜか団員達が一列に並んで順番待ちをしている。
(この際だ。騎士団員全員に治療をしようと思うが、アリアさんから苦情が来ないか心配だな。一応、訓練の時間だからね)
しかし、その心配も杞憂に終わる。列の最後方を見ると、すまし顔をしたアリアさんが嬉々として並んでいたのだ。
最初は丁寧に、ねっとりとマッサージを行っていた。しかし、全然終わらないので、途中からライン作業の様になる。
(いつになったら終わるんだ。俺のスケベ心…否、親切心にも限界があるぞ)
そんな事を考えていると、なぜか一度治療を行ったはずのアリアさんの順番が…
(あれっ!?アリアさん、さっき四つん這いでマッサージをしたはずなのに…どうして?)
俺はやっと気が付いた。マッサージが終わった団員が、また列に並び直している事に…。
「終了…終了です!!」
「わ、私はまだ一回しかしてもらっていません!!」
「アリアさん、あなた団長でしょう!!訓練を始めてください!!」
「…はい」
アリアさんは振り返り、団員達を見渡す。なぜか半笑い。そして言い放つ。
「ふふふっ、良かったわね…あなた達。二回も治療をしてもらえて…。私だけ一回なのに」
団員たちの顔が蒼ざめる。
「さぞ、体も軽くなった事でしょう…。綱登り、100回!!行くぞ!!遅れた奴は増やすからな!!」
『えぇ~~~!?倍になってる!!』
団員たちは一斉に走り出し、綱を登り始めたのだった。
アリアさんが凄い勢いで綱を登っていく。脚を綱に絡め、腕の力だけで上に行く。
(綱と長い脚が絡みつき、なんかエロい。おまけに紺ブルマを穿いているのだ。下から見上げると、言葉にならないほど、心に刺さるものがあるな。素晴らしい!!)
俺は真剣な顔をし、見上げながら思う。
綱登りが終わっても、休む暇も無く訓練は続いていく。女王様や国を守るために訓練に励む姿は、とても美しく尊敬に値する。
「よし、休憩にする」
『はい!!』
みんな四つん這いになって息を切らしている。
(水分補給が必要だろう。よし、清涼飲料水!!)
俺はスキルを発動し、スポーツドリンクを作り出す。
目の前には冷えたペットボトルがずらりと並ぶ。
「みんな、これを飲んで水分補給をしてください」
俺の言葉を聞いて嬉しそうな顔をする団員達。しかし、すぐにアリアさんの方を向き、顔色をうかがう。
「ツバサ殿、訓練中の水分は禁止なので…」
と、申し訳なさそうに言うアリアさん。
俺は思わず
「昭和の部活かよ!!」
と、ツッコミを入れてしまった。
続けて
「アリアさん、ここに座って!!正座!!いいですか、汗をかいて水分補給をしないとパフォーマンスが低下し、時には命の危険性まであるのですよ!!」
「えっ!?」
「本当は適時、こまめに水分を補給するのが正しいのです。喉が渇いてからではなく、その前に体に水分を補給していくのです」
「し、知らなかった…申し訳ない」
しょんぼりと肩を落とすアリアさん。
「アリアさんが悪い訳ではありません。ですが、考えを改めてくださいね」
「はい。本当に勉強になります。全員、ツバサ殿が用意してくれた飲み物を飲んで良し!!」
『やった~!!』
団員達がスポーツドリンクを飲む。
「つ、冷たくて…おいしい!!」
「体にしみわたるわ」
「ただの水じゃないわ。甘い!!」
団員達が口々に絶賛し、一気に飲み干していく。すると上手い具合に、空になったペットボトルが自然と消えていった。
俺はそんな様子を見ながら、自分の為だけに用意した缶コーヒーを飲む。
アリアさんが『チラチラ』俺の方を見ている。どうやら缶コーヒーが気になる様子。
「ツバサ殿の飲んでいるものは、私達とは違う物のようですが…」
「はい。興味あります?」
「はい。この甘い水も美味しいですが、お酒も本当に美味しかった。ツバサ殿が作り出すものは全て美味しいですからね」
「ふふふっ、部屋に戻ったら、要相談という事で…」
「…考えておきます」
アリアさんはそう言うと、赤くなった顔を団員に見られないように、訓練に戻っていったのだった。
【アリアルーナ視点】
ツバサ殿が終了と叫ぶ。
「わ、私はまだ一回しかしてもらっていません!!」
思わず出てしまった本音。恥ずかしい。
(しかし、私以外の団員は二回も良い思いを…否、マッサージをしてもらっています。許せません!!そうだわ。随分と体も軽くなっている事でしょうね。ふふふっ、おもしろい!!)
私は半笑いで団員たちに指示を出す。
「さぞ、体も軽くなった事でしょう…。綱登り、100回!!行くぞ!!遅れた奴は増やすからな!!」
私はそう指示を出すと、いち早く綱を登り始めた。
(ここまで脱落者無しですか。…なかなかやるではありませんか。確かに私もストレッチとマッサージで、いつもより体が良く動く感じがします。効果ありですね!!)
私は団員達のパフォーマンスの上昇に満足すると同時に、更なる訓練を追加していった。団員達は歯を食いしばり私についてくる。
私は満足し、皆に休憩と伝える。
ツバサ殿が笑顔で出迎えてくれますが…これはいけません!!ツバサ殿が訓練中にもかかわらず、水分を取れと言う。
私はツバサ殿の好意だけを受け取って、当たり前のようにお断りをしたのですが…なぜか、正座をさせられてしまいました。
ツバサ殿いわく、水分補給をしないとパフォーマンスが落ち、時には命の危険性まであるとの事…。
私は自分の無知を恥じ、水分補給を許可しました。教わる事ばかりです。
ふっとツバサ殿を見ると、何やら見知らぬ物を美味しそうに飲む姿が…。私は直感しました。絶対にまた美味しいものだと。ツバサ殿が用意するものにハズレ無し。実は紺ブルマと体操服、それに紐パンも気に入っています。特にワインは素晴らしい!!
私はこの思いを悟られぬよう、ツバサ殿に打診をしますが…。
ツバサ殿の答えは
「ふふふっ、部屋に戻ったら、要相談という事で…」
というもの。
私は
(紐パン姿はいいとして、M字開脚を要求されたらどうしましょう!?)
と思うものの『考えておきます』という返事をしてしまいました。本来ならば、紐パン姿を殿方にさらすなど、あってはならない事。
私は自分の感覚や価値観が、以前とは変っている事に気が付いていないのでした。
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