第5話 変態、温泉に向かう

「女王陛下、皆が心配をしております。天幕から出て、お顔をお見せ頂けませんか?」


「そうだな。命を落としてもおかしくは無い傷だったのだ。皆も心配をしている事だろう」



 そう言って女王様は天幕から出て行く。


 当然のように後に続くアリアルーナさんだが



「ツバサ殿も一緒に。騎士団の者達にも紹介をしますから」



 そう言ってから、俺に近づき耳元で囁く様に言う。



「さっきの事は、絶対に他言無用でお願いします。団員に知られると厄介な事になる可能性があるので…」


「厄介な事?」


「はい。女王陛下付きの騎士団員は男性との接触が禁じられています。団員は何というか…かなりの抑圧的な生活を強いられていますので…あのような行為が団員に知られると…」


「あぁ…わかりました。気を付けます」


「申し訳ない」



 アリアルーナさんは俺に向かって、軽く一礼をして天幕から出て行った。




「女王陛下!!よくぞご無事で!!」


「良かった…本当に良かった」



 団員達が女王様の無事を喜ぶ。涙ぐむ者や泣き崩れる者、歯を食いしばり涙を抑え、肩を震わせて耐えている者…みんな一様に女王様の無事を喜んでいた。



「皆の者、心配をかけたな。私は無事だ。ただ…本来なら私はあのまま命を落としていたはずだった。しかし、このツバサという少年に救われたのだ」



 騎士団員達の視線が俺に集中する。



(アリアルーナさんが言っていたように、みんな年頃の女性だ。俺と同じくらい、15、6歳~25歳くらいかな。さすがは女王様付きの騎士団員、みんな美しく、凛々しい顔つきをしているな。ふふふっ、大勢の『クッコロ女騎士』に囲まれ、ちやほやされたいものだが…)



 俺は顔がニヤケるのを必死に抑える。



「ツバサ殿、ありがとう。心から感謝します!!」


「女王陛下を救われた力…それにあの猛獣達を一撃で倒された戦闘力、ツバサ殿はもしや…勇者様なのですか?」



 女性騎士達から次々と、俺への感謝の言葉や、称賛の言葉が降り注ぐ…が、アリアルーナさんだけは微妙な顔つきで俺を見ている。



(気持ちがいい!!でも、アリアルーナさんの表情が…。まあ、感謝をしているのは感じられるが、謝礼に脇の匂いを要求したのだ。複雑な気持ちは理解できるよね)



 そんな事を考えていると女王様からお言葉が。



「このツバサは異世界人という事だ。今しがたこの森に転移をし、私を助けた。今度は私達がツバサを助ける番だと思うのだ」



 女王様の言葉を真剣に聞いている騎士団員達。直立不動、微動だにしない。本当に皆さん、気高く、お美しい。まさに理想的な『クッコロ女騎士団』というところだ。


 さらに女王様は続ける。



「ツバサは行く場所も帰る場所も無い。この世界の知識も全くない状態。そこで、しばらくは我がユベントリーに滞在してもらおうと思う」


「ありがとうございます。正直、これからどうしたらいいのか分からない状態だったのです。安心して考える時間が出来るのなら、お世話になりたいと思います」



 俺は女王様の提案に素直にお礼を言う。正直、本当に助かる。



「ふふふっ、礼には及ばぬ。まだまだ足りぬと思っている。最初の礼があれでは…な」



 女王様が『チラリッ』とアリアルーナさんの方を見る。


 アリアルーナさんは何とも言えぬ表情をして、うつ向いてしまった。



「騎士団長、アリアよ!!あなたにツバサを預ける。騎士団員達と共にツバサの世話をしなさい。皆の者、ツバサ殿の言葉は私の言葉と思い、決して逆らうことの無いように!!」


『はい!!女王陛下。誠心誠意、ツバサ殿をおもてなしする所存です』


「ふふふっ、よろしい」



 女王様は満足げな表情をし、俺の方を向く。



「ツバサ、私はあなたが末永く、ユベントリーに滞在してくれる事を望んでいる。しかし、あなたを縛り付けるものではない。落ち着くまで、ゆるりと過ごすが良い」


「女王様、本当にありがとうございます。このご恩は忘れません」


「ふふふっ、ツバサが恩など感じる必要は無い。私の命を救ったという事は、この国、ユベントリーを救ったという事と同義なのだ」


「大袈裟ですよ。でも、嬉しく思います」



 俺は女王様にお辞儀をし、しばらくユベントリー王国に滞在する事にした。行く当てもないからね。



「よろしい。では、このまま予定通り温泉に向かう!!」


『はい!!』



 どうやら、温泉に静養に向かう途中だったらしい。騎士団が隊列を組み直し、温泉への移動を再開した。俺も特別に女王様の馬車への乗車が許されたのだった。


 馬車には女王様とお付きのメイド、それにアリアルーナさんと俺が乗っている。



「アリアよ、温泉でのツバサの世話はお前に任せる」


「はい。わかりました」



 俺は無言で聞いていたのだが…



(温泉での世話!!アリアルーナさんが背中を流してくれたりするのかな。ふへへへっ、アリアルーナさんも裸だったりして…)



 頭の中では、こんな妄想を思い浮かべる。


 さらに温泉に近づくにつれて、女王様や騎士団の皆さんと混浴など…と妄想をさらに膨らませるのだったが…現実は厳しい。


 俺は今、一人で温泉に浸かっている。



(混浴は無しか………アリアルーナさん、早く来ないかな)



 残念ながら混浴は無くなったが、アリアルーナさんのサービスに期待し待ちわびる。


 俺が目を閉じてお湯に浸かっていると、アリアルーナさんの声が!!



「失礼する」


「……………」



 さっきまで着ていた騎士団の服をそのまま着て入ってきた。俺は心の底から失望し、声を失った。



「ツバサ殿、背中を流そう」


「………そのままでは、服が濡れてしまいますよ」


「しかし、この服しかないので…。まさか、裸になれと」



 俺の不純な気持ちがバレたのか、アリアルーナさんの視線が厳しくなった。



「しかし、濡れてしまわれては、僕としても申し訳なく…。では、僕がスキルで服を作り出しましょう!!」


「そ、そんな事もできるのですか!?分かりました。ツバサ殿の言葉は陛下のお言葉…服を作って頂けるのなら、その服を着てみます」



 俺は心の中で叫んだ!!



(よっしゃ~!!!!!)



 そして嬉々としてイメージし、スキルを発動する。



「衣服生産!!」



 強く強くイメージし、作り上げた衣服は…ピンクの可愛らしい下着のセットと紺ブルマと体操服であった。






【アリアルーナ視点】


(私に温泉でツバサ殿のお世話をしろと言われても…)



 正直、どの様にお世話をしていいものやら、全く想像がつかない。



(まさか…陛下は裸になり、ツバサ殿に奉仕しろというわけでもあるまいし…。それとて男性経験のない私がツバサ殿を満足させられるわけも無く…)



 陛下の命令に困惑する。



(まあ、分からない事は仕方が無い。背中でも流せばよいか…)



 そう思い、ツバサ殿が入っている温泉に入っていく…が、明らかにツバサ殿が失望していた。



(………私の裸でも期待していたのか?まったく…見た目も良く、能力もあるのだから、女など選びたい放題だろうに…。なぜ私みたいな剣術しか取り柄の無い女に興味が湧くのか…。でも…魅力的な女性として見られるのは新鮮で悪い気はしないが…)



 私はツバサ殿の反応に複雑な気持ちになった。決して表情には出さないが…。


 ここでツバサ殿がスキルを使って服を作り出すという。そして作り出した服を着てほしいと…。



「ツバサ殿の言葉は陛下のお言葉…」



 そう言って、私はツバサ殿の作り出した服を着る事を承諾した…が、ツバサ殿の表情は、私の脇の匂いを嗅いだ時と同じ表情をしている。



(とんでもない服を着させられるかもしれない!!)



 そう思い、私はとてつもない後悔をしたのでした。

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