第3話 変態、女王陛下の命を救う

 俺はアリアルーナさんに連れられて、天幕の中へ入っていく。

 

 女性騎士やお付きのメイド達がベッドで横たわる人を囲み、悲痛な表情をしている。


 一人の女性がアリアルーナさんに言う。



「た、隊長。すでに意識がなく…」



 そこまで言うと言葉を詰まらせうつ向いた。



「皆の者、直ちに天幕から出なさい」


「し、しかし!?」


「隊長命令です!!早くこの天幕から出て行きなさい」


『わかりました』



 ベッドを囲んでいた女性騎士達は素直に指示に従い、天幕から出て行った。


 俺とアリアルーナさんがベッドのそばまで行く。そこには顔面が蒼白になり、意識を失っている女性が横たわっていた。



「陛下…」



 アリアルーナさんが聞き取れないくらいの小さな声で呟く。



(陛下…。女王陛下か!?これはとんでもない大物)



 俺は心の中で唸った。とんでもない人物に出くわしたなっと…。


 今は生気を失っていはいるが、確かに気品と威厳が備わっていそうな顔だちをしている。通常なら、さぞ美しい女性だろうと思わせる…が、今はその面影は無い。死相が出ている。



「直ちに回復魔法をお願いしたい」


「出来る限りの事はしますが…回復するかどうかは断言できません」


「分かっている。少しでも苦痛が和らぐのなら…頼みます!!」



 アリアルーナさんが深々と頭を下げる。



「まず、傷口を確認したい。服を脱がしてもよろしいですか?」


「そ、それは出来ません。殿方に肌を見せる事など、有ってはならぬ事!!」


「今は非常事態です。そんな事はどうでもいいでしょう」


「し、しかし…」


「肌を見せぬ事が、この女性の命を救う事よりも大切なのですか?」


「うぅぅぅっ…分かりました。でもこの事実は他言無用にお願いします」


「当然です。約束は守ります」



 俺はそう言い、女王様の服を脱がしていく。


 たわわな胸が露になり、薄紅色の美しい乳首様が現れたが、今はそれどころでは無い。わき腹がえぐられ、大量の出血がみられる。



「へ、陛下…」



 思わず、アリアルーナさんが目を反らす。そのくらい一目で致命傷と分かるほどの傷であった。


 俺は女王様に向けて手をかざす。他人にまで効力が伝わるか疑問ではあったが、やるしかない。



「起死回生!!」



 女王様の体が金色の光に包まれた。


 


 しばらくして光が収まる。


 そこには傷が初めから無かったかのように消えて、血色の良くなった半裸の女王様が…。



「き、傷が…無くなった!!陛下、女王陛下!!」



 アリアルーナさんが大きな声を出す…と同時にシーツを被せた。



(治ったなら、もう少しおっぱいを拝ませてくれても良いのに…)



 と、俺は不埒な事を思わずにはいられなかった。紳士な俺にそう思わせるほどの立派なおっぱいだったのだが…仕方が無い。



「うっ…う~ん!!ふあぁぁぁ~!!」



 まるで快適な目覚めと言わんばかりに目を覚まし、大あくびをする女王様。



「陛下!!陛下!!私がお分かりですか!!」



 アリアルーナさんが取り乱し、涙ながらに大きな声を出す。



「うるさいわ!!アリア。相も変わらず暑苦しい!!離れよ!!」



 アリアルーナさんが女王様に抱き着こうとするが、容赦のない毒舌がさく裂した。



「陛下…酷いです。でも、良かった。本当に良かった」



 美しい顔をくちゃくちゃにして泣き、そして喜んでいるアリアルーナさん。その顔を見ると俺まで嬉しくなってくる。


 そんなアリアルーナさんを無視し、女王様は考え事をしている様だ。



「確か…私が食事をしようと思った時、猛獣が現れ…おぉ~、思い出しました。確か私のお腹に奴の爪が…」



 女王様はシーツの中を覗き込み、自分のお腹を確認する…が、かすり傷の一つも見つからない。



「一体どういう事じゃ…」



 女王様は一人で『ブツブツ』と呟きながらアリアルーナさんに問う。



「アリア、一体何が起こったのか?説明をしなさい!!」


「はい。陛下は猛獣に襲われました。そして鋭い爪で腹をえぐられ出血が止まらなかったのです」


「うむ…そこまでは何と無く覚えておる…が、激しい痛みに襲われた後の記憶が無い」


「すぐに回復魔法で治療を試みましたが、余りにも傷が深かったため、効果はありませんでした。しかし、この者が突然、森の中から現れ、猛獣を退治したのです。そして、陛下に回復魔法をかけ、奇跡を起こしました。我々ではどうしようもなかった傷がものの見事に完治し、陛下は目をお覚ましになられたのです」


「この者が…」



 女王様は鋭い視線を俺に投げかける。


 

(おおぉぉぉ~~~!!女王様の視線…たまらん!!高貴で傲慢な超絶美人な女王様って…最高じゃん!!さあ!!お、俺を罵ってください!!そのセクシーなお口から罵声を浴びせ掛けてください!!)



 女王様は一瞬で、俺の眠っていたドM心に火を付けられた。この女性は逸材である。ドSな女王様、最高!!



(さあ早く…さあ、さあ!!罵ってくれ!!『この者が…下がれ、下郎!!貴様の様な下賤の者が、私の前に立っているだけで虫唾が走る!!下がるのです!!』っと)



 命の恩人に対してもこんな態度で接する女王様…たまらんだろう!!


 俺はドM心をときめかせ、女王様の言葉を待つ…が、女王様の口からは何もお言葉が出てこない。視線も俺を観察しているような感じになっている。



(こんな気が強そうな超美人の女王様に尻をぶたれてみたい。四つん這いにされ、手の平で『パシーン、パシーン』っと。ふふふっ、そして、いつの間にか立場が逆転し、女王様を四つん這いにし…)



 妄想が勝手に広がっていく。


 すると、女王様が口を開いた。

 


「名は?」


「ツバサと申します」


「ツバサ…か。大儀であったな。そなたに何か褒美を与えなければなるまい」


「ありがとうございます」


「しかし、何故、このような所に一人でいたのか?」


「はい。実は…先程、この森の中に異世界より、転移をしてきました」


「な、何と!?そなたは異世界人であるか!!」


「はい。この世界の人達から見れば、僕は異世界人という事になりますね」



 女王様は異世界人と聞いて黙り込み、何かを考え始めるのだった。






【アリアルーナ視点】


 (もし陛下が助からなければ、私も…)



 私は最悪の場合を想定し、決意を固める。幼い時から近習として仕え、敬愛する女王陛下が…。


 

(しかし、この者なら、あるいは…)



 猛獣を瞬殺した圧倒的力を見て、僅かながらだが期待をする。しかし、いくら圧倒的な力を持っている者でも、治療の魔法となると…また、別の話。


 この世の中の常識でもあるので、頭では分かっているのだが…。



「傷口を確認したい」



 彼の言葉に私は動揺する。まだ未婚の女王陛下の裸体を男性にさらす事は、通常、あってはならない事なのです。



「そんな事、どうだっていいでしょう!!」



 確かにそうです。陛下の命が最優先に決まっています。



(もし命が助かるのなら…。私が全ての責任を取り、打ち首になっても構いません!!)



 私は彼に許可を与え、陛下の上半身が露になったが…思わず傷口の悲惨さに目を覆う。



(どうやっても助かる事は…無い)



 それほどの傷だった。


 だったのだが…信じられない出来事が目の前で起こったのです。


 彼が何かを呟いた…次の瞬間、陛下の体が光に包まれ、傷が跡形もなく消えてしまったのです。


 顔色も良くなり、まるで眠っている時の様…。


 しばらくすると…陛下が目を覚まされました!!



「陛下…陛下!!」



 私は嬉しさのあまり取り乱し、思わず陛下に抱き着こうとしました…が



「暑苦しいわ!!離れよアリア!!」



 と、いつものように毒舌が浴びせられてしまいました。



(良かった。本当に助かって良かった)



 陛下の毒舌を聞いて、私は心から安心したのでした。





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